• 未来を共有する②:誰を、どう巻き込むか~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【85】~

未来を共有する②:誰を、どう巻き込むか~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【85】~

未来共有について、前回のODメディアではフューチャーサーチ(FS)やAIについて簡単に紹介しましたが、いずれにしてもこれはラージグループインタベンション(LGI)という大規模集団における討議の方法論です。LGI、特にFSは、そもそも異なる価値観や意見を持っている人たちが共に暮らしていける「Common Ground」はどのようなもので、それをどのようにして構築していくかというのを目的にした討議ですので、もっとも難しいのは「必要な人を、必要な時に、一堂に集める」というプロセスです。

日本でのODプラクティショナーを自認する人たちがそれをどう認識しているか分かりませんが、未来共有や未来創造の話し合いをするにあたり、最初の挑戦あるいは障壁になるのが関係者を一堂に集めるというプロセスです。これができないと話が始まらないのです。フューチャーサーチ(FS)の開発者たちもそこに言及しています。多様性という視点でいえば、「距離が離れている」という人々どのようにして一堂に会させるかということです。

通常、彼らはお互いに警戒心でいっぱいですし、相手を信用していないこともあります。例えば大袈裟な例かも知れませんが、中華人民共和国の現体制と香港や台湾の民主主義派をどこかに招いて、一緒に未来を考えましょうという事です。こんなことはODがあまり触れていない領域です。

ODに憧れている人たちは、ひょっとすると「性善説」が暗黙の了解になっているかもしれません。「皆さん、なんでわからないんですか?」という見方です。しかし、これは既にODをやろうとする側が「I am OK」、「You are not OK」の姿勢かもしれません。

 

ところで、利害関係者あるいは敵対者を一堂に集めるには何らかのPowerが必要になります。Powerについての詳細は弊社のブログ「ソモサン」で言及していますのでここでは割愛しますが、要は何らかの力の行使が必要という事です。

※参考ブログ:『人や組織の行動に影響を与えるパワーとその本質について考える』

人や組織の行動に影響を与えるパワーとその本質について考える

 

世界の大国は、概ね「経済(報酬Power)か、軍事(強制Power)」を使うわけです。国連などの組織は「経済(報酬Power)、軍事(強制Power)」という2大Powerを持っていないので、専門Powerや情報Powerを使うのです。このとき事務総長という組織のリーダーに人間的魅力Powerがあると、さまざまな国も言うことを聴いてみようかなとなるのでしょうが、そうではない場合、強制力がないだけに加盟国がテンデンバラバラな思惑で動いてしまうのです。

会社組織もそうです。リーダーに何らかのPowerが認められるから構成員はそれに従って動いていくわけです。そして、Powerの行使が正しい目的に向けて発揮されていると、組織は成功し成長していきます。さて、そのような成長組織もどこかで壁にぶち当たります。リーダーの真価が試されるのはそんな時です。

お分かりのように、その時に大切なのは「リーダーが変われるか」という事です。リーダーに変化が必要にも拘らずリーダー自身がそれを十分に認識していない状況で、草の根運動的に末端の個々人が動き出してもうまくいきません。それは「潰されるだけ」です。若手将校の反乱とみなされてお終いです。未来の共有は理想論ではありません。ある意味、泥臭い闘争です。

カルロス・ゴーンさんの日産における役割や立ち回り、それに対する役員メンバーの対応を見ればわかるように、目標とその実現のための施策についてリーダーとメンバーが一致しているときは成果が生まれますが、ここが乖離すると組織はガタガタになります。変革のリーダーと言おうが言うまいが、リーダーでもっとも難しいのは、徳ある(virtue)目的と目標を明示し、それを実践で表現できているかです。

組織の危急存亡の秋には、財務リストラを含めあらゆるものの取捨選択を厳しくやっていくことが求められますが、その次の新しい未来を創っていこうとする機会創造のステージでは「徳に基づく共感を呼ぶ目的や理念」が求められるのです。未来を創造していくにはリーダーの度量が試されるのです。財務リストラは、ある意味論理的に非常に徹して、トップダウンで果断に実行していくことが求められますが、未来創造は必ずしもトップダウンではうまくいきません。

利害関係者の主体的な参画による、かつ従来の常識や前提に囚われない議論と実践が必要になってきます。だから、OD実践者はリーダーの腰巾着ではダメなんですけど、下手すると腰巾着になってしまうんですよね。なぜかって? OD実践者も食っていかなくてはならないからです。😞

 

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です