• [組織開発]教科書から学ぶ①~何がODなのか 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-245~

[組織開発]教科書から学ぶ①~何がODなのか 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-245~

ここ数か月にわたりE.シャインの「組織文化とリーダーシップ」、一橋大学の「組織の<重さ>」を参考文献としながら、日米の組織(文化)研究から、組織が成長し大きくなっていくことに伴う問題を見ていきました。今回からODの古典的名著である「[組織開発]教科書(以下OD教科書);W.バーク 1987」から学んでいきます。OD教科書は、日本において組織開発というものを体系的に整理して紹介した最初の文献といってよいでしょう。今だとAmazonで購入すると3万円ほどします。1987年に出版されたとはいえ、ODの介入技術や方法論は色あせることなく、今でも適応可能です。最初に、バークによるODの定義についての説明を抜粋して紹介します。

「ODの黎明期である1960年当初、多くの人たちから、いったいODとは何なんだと問いかけられた。ODを理論的に定義することはたやすい。つまり、ODとは行動科学の知識を応用して、組織文化を変革するプロセスであるといえる。しかし、この分野の人間が実際にやっていることを基礎として定義づけることは、そうたやすいことではない。ODという名称のなかには、多くの活動が含まれており、中には上記の簡潔な定義(組織文化の変革)に一致するものもあり、一致しないものもある」

近年は適応範囲の広がりや新しいし手法や概念が出てくるに及び、ODを厳密に定義することはあまり意味がないようにも思います。ODメディアでもすでに書いていますが、実務家はより良い組織や職場をつくっていくことに腐心しているわけであり、そのための方法論がODであっても、マネジメント3.0であっても良いわけです。従ってODプラクティショナーと言われる人たちにとって大切なことは、状況に合わせて理論および介入技法のより適切な選択をして実行していくことです。そのためには、理論と介入技法に対する幅広い知識と実践適応への経験の積み重ねが求められます。とはいえ、詳細は割愛しますが、人間集団に対する介入ですので大切にすべき倫理観はあります。それは、人間の尊厳を傷つけないとか、民主的な意思決定を重視するとか、環境に負の影響を与えないなどといったことです。

ところで、なぜ、今この文献を取り上げるかといえば、W.バークが指摘しているように、ODをやったといえるのは、その組織の文化に何らかの変化をもたらした場合なのです。ODが組織の問題除去だけでなく、問題を解決あるいは解消し、かつ新しい行動を選択して次へのステップに踏み出していくには、組織のメンバーがもっている基礎的仮定(認識/信念体系)が変わっていく必要があります。W.バークは、組織開発をやったといえるのは、次の3つを満たしているときであるといいます。

  1. クライアント側が認知している実際の変革ニーズに応えるものであること

-クライアントが問題と感じているところからスタートさせる

  1. 変革の計画と実施にクライエントをインボルブするものであること

-当事者自身が変革を実践する意欲があること

  1. 組織文化の変革に結び付くものであること

 

これに付け加えるとすれば、組織文化の変革に必要な制度的改革を実施することが4番目になります。W.バークが言う3つの基準に対して、1番と2番はコンサルティングを受ける組織メンバーも、コンサルタントも認識していることでしょう。しかし、3番目となると「組織文化とリーダーシップ」の中でシャインも言っているように、なかなかにむつかしい課題です。[組織開発]教科書では、W.バークが実際に依頼を受けたケースで以下のように言っています。([組織開発]教科書P4~P11を要約して掲載)

「私はこの会社に対して、9か月間にわたり、ODの基本的ステップ、すなわち対象者が問題をどのようにみているかに対する診断を実施し、それから変革計画をマネジャーの面々と協議し、同意を得たうえで3つの介入を実施してきた。それは、部門のゼネラル・マネジャーと直属の職能別職長5名を対象としたチーム・ビルディング、エンジニアリング・グループと製造グループの間の対立解決、そして製造グループの機能別担当マネジャーを対象としたチーム・ビルディングである。しかし、このような介入はODの標準的な方法論ではあるが、ODではなかった。それは、この組織の問題(品質不良や納期遅延)を引き起こしている文化をつくり上げている根本的な要因を変革することができなかったからである。この組織に関わり9か月間経った頃に、この組織の問題を変革する(組織の人々の行動を変革し、問題解決行動に移行させる)には、報酬制度を修正する必要が分かったが、それはできなかった。なぜなら、その報酬制度は現社長が何年も前に創案し採用したものであり、社長はその報酬システムの根底にある考え方を変えることなどみじんも考えていなかった。報酬制度は、設計者の人間観に基づき設計されるが、現社長はインセンティブ・システムの有効性など信じていなかった。製造部門の従業員が平均生産高を上回る生産を奨励するようなインセンティブは、この報酬制度には組み込まれていなかった」

当然、本社人事スタッフも報酬制度を修正する意向などなく、W.バークのコンサルテーションは、そこで終了となったのです。W.バークが言うODは、その組織の文化変革を成し遂げたかどうかが中心課題になります。ODというアプローチで変革を起こすとは、すなわち組織文化が変わっていくことなのです。様々な理論や技法、あるいは対話型ODとか診断型ODとかポジティブODとか、いろいろなアプローチや方法論があるにしても、その組織の行動選択の根底にある文化変革を狙うことがODの焦点なのです。ですから、その組織を特徴づける文化については、シャインの組織文化についての考え方やとらえ方、および、組織の<重さ>などによる日本組織に潜む文化的問題を理解しておくことはとても重要だといえるのです。ですから、問題解決において組織文化が何の変革も必要ない場合は、取り立ててODを実施しなくてもよいし、また適切でもないでしょう。一方で、どのようなときにODアプローチが必要になるかといえば、次のようなときです。

  1. 最も明白な兆しは、同じ問題が繰り返し起こるとき。
  2. 問題解決に技術的アプローチをしてもそれが解決されないとき。

 

いずれも、現れている問題に対する技術的なアプローチでは不足しており、隠れた問題に介入していく必要があります。それは、W.バークが経験した「現社長の人間観(どちらかといえばX理論的人間観)」であったり、それに何も言えないマネジャーたちの存在であったり、また彼らの関係性です。

変革すべきターゲットは組織(トータル・システム)であり、個人のリーダーシップなどに対するコーチングなどを実施することはありますが、個々のメンバーではありません。人間の集団である組織の問題解決は、表層的な問題解決にとらわれずに、その問題が引き起こされる根っこに切り込んでいくことが必要なのです。[組織開発]教科書は、このような認識に立ったODに関する文献です。次回から、[組織開発]教科書が主張するODアプローチと介入技法について学んでいきます。

参考文献:[組織開発]教科書

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。