• 変革はトップからか草の根からか~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【134】~

変革はトップからか草の根からか~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【134】~

昨年のことですが、ジャーナリスト田原総一朗氏は、新型コロナウイルス感染拡大が問題になるかなり前から、政財界の幹部とそれなりの時間をかけて話をしたそうです。その際、誰もが日本の将来について危機感を抱いていたと言います。以下、田原総一朗氏のコメントです。

『新型コロナウイルスの感染拡大が問題になる以前、去年の夏過ぎから、自民党や財界の幹部、そして日本を代表する企業数社の社長たちと、短くない時間、話をしている。実は彼ら(女性もいる)は、このままでは日本の雇用制度は10年もたない、いや多くの大企業そのものが、10年持続できない、という点で一致しているのである。

1989年、時価総額で世界のトップ50社の中に、日本企業は32社入っていた。ところが2018年には、残っているのはトヨタ1社のみで、ほかはすべて落ちてしまったのである。(中略)

研究開発部門を見ると、トヨタ、日立、三菱UFJ銀行、パナソニックなどのメイン研究所は、日本ではなく、いずれもシリコンバレーにある。なぜか。スタンフォード大、ハーバード大、MITなどの人工知能研究者は、日本には来てくれないのだという。

 

理由は二つ。一つは、ヨーロッパや中国だと2千万円以上の俸給が出るのに、日本は年功序列制のため、研究者が20代の場合、それほど高い俸給は出ない。もう一つは、日本の経営者は失敗というものを認めない。だが、人工知能の開発は何度も失敗を繰り返さないと成功しないのだ。

一方、シリコンバレーの研究所スタッフと日本の本社との間には深い溝があり、誰もが頭を悩ませている。日本の本社の考えでは、研究所のスタッフは思い切ったチャレンジができないという。

日本の大企業はいずれもサラリーマン経営者だから、失敗が怖くて守りの経営になってしまうからだ。東京一極集中で、ほとんどの地方自治体が衰退している。20年たつと、地方の多くの中堅都市が消滅してしまう。政界、財界の幹部たちがいずれも強い危機感を抱いているのだが、なぜか積極的な取り組みが行われていない。嘆いているだけではなくて、われわれ自身が積極的に取り組まなければならない。』

という事ですが、そんなのとっくの昔に分かっていることですよね。

なぜ田原さんの記事を引用しているかというと、組織開発(OD)は草の根運動的にできるよね、という捉え方があり、例えばOne Panasonic以来、One何々という動きが結構な大企業であったのです。

私もそれにコンサルタントとしてちょっと関わったことがあるのですけど、ほとんどが期限限定の全社運動というイベントで終わりました。結局、トップマネジメントのパラダイムは変わらなかったですね。

 

組織を変えていくという活動(変革)は、組織開発(OD)という方法論の前に、時間軸と強度軸の両方から変革のレベルを認識して取り組む必要があります。

時間軸とは、田原さんのインタビューで経営者が認識しているように「日本の雇用制度は10年もたない」というようなことです。経営者はここ10年が勝負だとみているのです。

では強度軸とはなんでしょう。それは、現在の事業や組織についての「考え方ややり方」をどの程度変えなくてはならないかという意味です。この場合、変えるということは新しくやることも必要ですが、「捨てる」ということが主たる課題になります。

組織(人間集団)というのは、新しいことをやることについては、意外と抵抗がありませんし、やってみようとなるのですが、持っていたものを捨てることにはかなりの抵抗があります。

しかし、みなさんもお分かりのように新しいことをやろうとすれば、古いものを捨てないと新しい方にエネルギーが移っていかないんですよ。家庭でもそうです、新しい衣類やいろいろな家庭用品を購入すると、古いものは捨てないと家がせまっ苦しくなり生活がかえって不便になります。

捨てるということは、事業や工場という物理的単位だけではなく、「考え方ややり方」ですから、これまでの価値観、行動規範などが含まれます。SONYが今年の決算で利益1兆円を出したということですが、これを成し遂げた平井・吉田体制には、有力OBから提案という苦言がかなり来たようです。変革時にはどのような組織にもあることです。

 

そこで、組織の中で「捨てる」ということは誰が意思決定するのかということです。新しいことは現場から生み出すことは意外と容易いことですが、捨てるということは現場(下っ端)が意思決定するのは難しいのです。

それは、従来の考え方ややり方をつくってきた先輩たちを否定することになるからです。従って、捨てるということを意思決定できるトップは嫌われる覚悟ができるような人たちですね。

例えばそれは、TOYOTAの豊田章男社長のように創業家で「私は、超おぼっちゃま(本人がそう言っている)」というような他が邪魔できないような人や、SONYの平井さんのような傍流から来た人や、日産のゴーンさん(晩節を汚しましたが)のようによそから来た人です。やはり、トップマネジメントの役割は組織開発(OD)にとっても重要なんです。

 

組織開発(OD)は、トップダウン⇔ミドルアップ/ミドルダウン⇔ボトムアップの混合・ハイブリッドが必要なんですね。このハイブリッドの塩梅をどうするかは、変革の時間と強度の関係で考えなくてはなりません。そして、ODメディアでも繰り返し紹介していますが、持続的な組織の発達と成長にはポジティブな逸脱の活用というボトムアップが必須になります。

組織開発(OD)はトップダウンか草の根運動かということについて優劣をつけるのはナンセンスということになります。両方必要ですね。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です