• [組織開発]教科書から学ぶ⑮~組織をどのように理解すればよいか 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-268~

[組織開発]教科書から学ぶ⑮~組織をどのように理解すればよいか 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-268~

診断型ODと対話型ODをどのように理解すればよいか、というテーマから啓蒙主義、社会構成主義の理解と進んできました。今回から再度[組織開発]教科書に戻り、1980年代から90年代にかけて、組織とはどのようなものであると理解されていたのかを確認していきます。そして、日本では2000年以降に台頭してきた社会構成主義に則った組織変革についてみていきます。

1987年に出版された[組織開発]教科書には、第2部として組織診断の概念という内容があります。組織は診断によってその実態が明らかになるということは、すなわち介入方法もそれに従うということになります。当然のごとく[組織開発]教科書の第3部は組織開発の社会的技法が紹介されています。では、組織診断の概念から見ていくことにしましょう。組織診断の概念の出だしは、以下のような文章から始まります。

「組織を診断する(diagnosis)こと~つまりその組織についての情報を収集し、分析して、さらに体系的で組織的な理論的枠組みの鋳型に形づくること~は、組織開発の実践にとって最も重要である。よい組織診断とは、組織を変革して改善するための取るべき必要なステップの方向を指摘している。よい診断をするには、診断する箇所、そして何を見るのかを知っていなければならない。(中略)何を、どこを見るのかについては(組織)システムに対する考え方を理解しておく必要がある。つまり、組織とはインプットされる情報や材料・素材を内部で活用・転換し、これをアウトプットしていくオープン・システムという考え方である。したがって、診断としての着眼点は、システムとしての組織に向けることになる。この中には、組織構造をはじめ、報酬・賞罰のプロセス、組織メンバーが環境をモニターし査定する方法、および組織文化の特徴などが含まれる。(中略)また組織開発を組織文化の変革プロセスであると定義するからには、本書では社会心理学の視点から規範、役割、価値観を診断する。」

このような主張を見てみると、前回までのODメディアで紹介してきた社会構成主義の考え方とは異なる考え方であることが分かります。とはいえ、私たちの思考に深くインプットされたバイアスからすると、バークの説明は「分かりやすいもの」であると感じます。分かりやすいから良いアプローチであるとは限りませんが、リーダーとして「変革をコントロールする」という欲求からは採用しやすい考え方でしょう。いずれにしても、バークが説明するところの考え方は、組織を「オープン・システムとしての組織」と認識することが根底にあります。では、オープン・システムとしての組織とはどのような考え方なのか、それを見ていくことにしましょう。

状況論で有名なカッツとカーン(1978)によれば、どのような組織でも、その組織の性質を理解するには以下のような考え方(モデル)が必要になります。「エネルギーに満ちたインプット/アウトプットのシステムを持っており、アウトプットされて返ってくるエネルギーがそのシステムを再び活性化させるシステムである。」

バークは少し補足して以下のように説明しています。「組織は、その組織が存在する環境に絶対的に依存せざるを得ないがためにオープンなのである」。要するに、いかなる組織もその環境に依存しているといういみでオープン・システムといえます。では、オープン・システムという見方がODを進めるうえで何を示唆しているのでしょうか。

組織変革では、システム全体に一度に取り組むことはほとんどあり得ないことです。そのようなことをすればかえって混乱を招くことになるでしょう。しかし、トータルという概念は常に念頭に置いておく必要があります。つまり、ある一部分に対する変化は別の部分に影響を与えます。そして、結果的にはおそらく他のすべての部分も影響を受けるようになります。例えば、日本では近年賃金が上がらないというとことが問題でしたが、2023年では、かなりの大手企業において新入社員の賃金を上げるということを実施しました。それは、当然先輩社員の賃金や意識にも影響を与えます。24年春闘では、多くの大手企業で満額回答が出ています。これは退職金や社会保険料にも影響を与えます。今後、評価制度の見直しも必要になってくるでしょう。そうすると、昇格や昇進基準も変わってくると思われます。このようなことを考察する必要があるのが、オープン・システムという概念です。そしてこの概念および技法は、組織とその外部環境との関係も視野に入れて変革を計画するアプローチです。オープン・システム・プランニング(以下OSP)とは、実際には、計画的な組織変革をODの各々の局面で行う介入方法です。典型的なOSPのステップは以下のようなものになります。

  • 当該組織が何を解決したいと思っているのか、その問題意識を明確に文章化する。
  • 問題に対して、外部環境から生じる機会と脅威、および、当該組織が何を期待されているかを文章化または図式化する。
  • 当該組織が、これらの機会や脅威、および、期待に対してどのように反応すべきかを文章化する。
  • 期待や要求事項に対する当該組織の反応を実施した場合、何が起きるかを文章として書きだす。
  • 起きることは、問題を認識している自分たちが受け入れられることなのかを検討する。
  • 望ましい価値が生まれる未来のあり方を文章化する。
  • 現在の状態と、望ましい未来の状態のギャップを明確にする。
  • 望ましい未来の状態に対して、同意が得られること、不明瞭なあるいは部分的な同意しか得られないこと、全く同意が得られないことを明らかにする。
  • 同意された未来を現実のものにするためのアクション・プランを時系列で明確に文章化する。
  • アクション・プランの進捗を確認するフォローアップ・プランについて合意する。

これが計画的組織変革の典型的な進め方になります。(続く)

参考文献:[組織開発]教科書、対話型組織開発

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。