• 組織開発(OD)の実践って、どうするの?⑧ ~「後は自分で・・・」の落とし穴:前編~

組織開発(OD)の実践って、どうするの?⑧ ~「後は自分で・・・」の落とし穴:前編~

今回は多くの組織が無意識に陥っている矛盾についてです。

事業戦略策定でありがちな風景

コンサルティングの依頼の中に、事業戦略の策定支援というものがあります。これは必ずしも業績が不振だから何とかしたいというものではなく、将来のために従来とは異なる視点で戦略を組み立てたいという依頼もあります。

このような場合、未来戦略策定プロジェクトみたいなチーム(ほとんどは、各部門から選抜された若手で構成される)が結成され、外部のコンサルタントはこのプロジェクトチームに対して計画取りまとめの支援をすることになります。

そもそも戦略は必ずしも文章化されているとは限りません(アマゾンのジェフ・ベゾスが最初のビジネス構想をナプキンに書いたのはあまりに有名)。しかし、これでは戦略を「管理」できないので、計画にしていく必要があります。これが戦略計画です。
戦略計画は、戦略を人々に理解してもらえるように言語化していくプロセスであるといえます。そこには3つの作業が必ず入ってきます。

① 文章化
· 戦略を言葉にする。誰しもが誤解なく理解できるような書き物にする。(ナプキンだけでは、「馬鹿にしてるのか!」と言われる)
② 数値化
·言語化された戦略を、より具体的な活動に落とし込むことである。
·具体的な数値が入るプランにし、何に取り組むかを明示化する。
③ 組織化
·戦略を実行する組織に対してどのような変更を求めるのかを明確にする。
·組織運営、管理体系(組織構造、予算管理、業務管理)など、何が今までと違ってくるのかを明確にする。

 

大手と言われる企業は、間違いなく①~③を検討し発表しています。このような枠組みの中で、依頼されるのは大体において①と②です。そして経営トップが承認したら「落とし込み」といって各機能部門長に「ちゃんとやれよ」というわけです。実行が君らのマネジメントの腕の見せ所ですよ、と。
また、依頼した方も外部のコンサルタントに「ありがとうございました。後は私たちでやります」とおっしゃいます。意気込みや良し、ではよろしくお願いいたします。で、契約終了。

若手の勉強会としての戦略策定であれば、これで別に構わないのですが(ほんとはこれ、もったいない。若手が戦略的意思決定をする場は、この後ず~~~~っとないですから)。

従来を否定した戦略を従来通りのやり方で遂行する組織のパラドックス

若手の勉強会にせず、「若い知恵を引っ張り出した戦略だ」というふれ込みで、ライン長に宜しくお願いしますといったケースでは、うまくいかないケースの方が圧倒的に多いのです。どうしてでしょう? 経営管理者というのは、実行に関しては百戦錬磨の猛者たちですよ。

しかし、これが通用するのは下記の図でAまたはBの状況の場合です。もっとも、このような状況では外部コンサルタントに「戦略策定の支援依頼」は来ませんけどね。

 

実は、「経営管理者は、実行に関しては百戦錬磨の猛者たち」というのが問題なのです。

企業組織というのは、一人ひとりの人生に、ある一定期間、ある種の部分的目的を与えるための装置です。非常に密な固い連結を求められる人々の集合体といえます。そして、経営管理者は、この目的階段を一歩一歩這い上がってきた人たちです。

このような「タイトな組織」の特徴は、過去の学習内容に忠実であり、記憶力という点で優れていて、妥当性が検証された因果マップに依拠した思考パターンが存在します。そのような中での経営管理者の資質は、決断と実行、秩序の維持と形成です。

ところが通常、未来戦略というのは「前提の切り崩し」、「ものの考え方を根底からひっくり返す」ところにその存在価値があります。ここに、「後は自分でやるの落とし穴」が存在します。

そもそも、未来戦略プロジェクトチームのメンバーは、その数においてタカが知れています。インタビューや作業協力を依頼された人たちを含めても大手企業の場合は数%にも満たない数です。その他の人たちは、従来の支配的なストーリーの中で物事を遂行しているのです。

ここに、新しい考えややり方をそれこそ「落とし込む」訳です。その場合、どれほど精緻に言語化された「書き物」を配布しても、そうは簡単にチェンジできません。

「後は自分でやる」というのは、下手すると「後は以前のやり方でやります」となりかねないのです。③の組織化の重要性はとても大きいのですが、通常は組織の構造改革や人事を中心としたものになり、これまでの「支配的ストーリー」を変革していくための働きかけは手薄になっています。ここに組織開発(OD)の出番があります。それも、①→②と進んで③で組織開発ではなく、①のスタート時点から組織開発アプローチを採用することが本当に動く計画として有効です。一度やってみてはどうかと思うのです。

 

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング 波多江 嘉之 です。