• [組織開発]教科書から学ぶ⑲~ODと報酬制度 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-272~

[組織開発]教科書から学ぶ⑲~ODと報酬制度 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-272~

ODの実践方法として、診断型とか対話型とかがありますが、報酬制度をまともに取り上げている文献はほとんどありません。報酬制度はODとは別の文脈で語られることが多いのですが、ODが人々の思考と行動を変革する方法論、W.バーク流にいえば、組織文化を変えることであれば、それに非常に大きな影響を与える報酬制度を扱わないわけにはいきません。報酬制度や期待理論で有名なE.ローラー(1977)はあらゆるOD活動は報酬から始めるべきだと主張しています。つまりローラーの主張は、報酬問題を考慮しないODはありえないということです。また、報酬制度はその時代の価値観や生活の志向性を反映するものです。例えば、筆者のキャリアのスタート時点では専業主婦世帯が圧倒的に多かった時代です(ちなみに共働き世帯が多くなるのは1995年前後からです)。その時代は、世帯主がたくさん稼ぐということが価値あることと思われていた時代ですから、報酬制度も多様性に満ちたものではなく、世帯主の稼ぎということにフォーカスしたものが当たり前でした。では現代はどうか、もちろん平均給与が下がっていることもあり給与というのは報酬での重要な焦点ですが、それだけではなく報酬の内容とモチベーション、あるいは学習との関係など多様な視点から考える必要があります。ということで、ODメディアでは、数回にわたり報酬制度を取り上げます。まずは基本的な報酬内容から始めますが、多くの読者は、これから述べることは承知されていることだと思います。

 

報酬制度は、組織の人々を期待する行動に誘引できるようになっておくことが望ましいと言えますが、残念なことに人々の行動に法則性はありません。報酬は、大きく外在的・外来的(外発的)な報酬と内在的・本来的(内発的)な報酬の二つに分類されます。そして、本来的な報酬は、その報酬を生み出す行為から区別することは難しいと言えます。例えば、絵を描くこと、本を書くこと、何かスポーツ・競技をすること、挑戦的な仕事に取り組むこと自体が本来的な報酬になることがあります。そのようなことは、鑑賞者や読者が何を経験し、どのように考えるかに関わらず、本人にとって楽しさ、満足感、ドキドキ感、充実感を経験することであり、そのこと自体が報われる見返り、つまり報酬となります。

外来的報酬は、個人の業績に出す賞品といえます。この賞品は、その個人に対して外部にある、外来的なものであり、実態のある有形あるいは具体的なものであり、説明が容易なものです。組織での外来的報酬の代表は、例えば、給料、昇進、年功序列における先住権、などです。そして、組織の報酬制度は、その報酬制度が本来的に提供できるもの(What)と、これら報酬をマネジメントがいかに運営していくのか(How)の両方が含まれます。当然のことに、報酬制度とモチベーションは大きな関係があります。ところが、ODの実践家(チェンジ・エージェント)はモチベーションには関心を示すことが多いのですが、報酬制度に関心を示すことが少ないようです。バークは、それはマズローとハーツバークの理論が影響していると述べています。この二つの理論をベースにしたOD介入は、その焦点をシステムとしての組織にではなく、むしろ個人におき職務充実やキャリア開発、あるいはトレーニングなどの活動に偏っていると指摘しています。大切なのは、組織の変革を目的とした場合、肝心なのはどこに焦点を絞るか、あるいは変革のテコの支点をどこに置くかであり、OD実践家は個々人のモチベーション向上より、むしろ報酬に目を向ける必要があるといいます。バークは、その理由を3つ挙げています。

①自分自身をモチベートすることはできるが、他者をモチベートすることはできない。

マネジャーは、しばしば「どうすれば部下たちをもっとモチベートすることができるだろうか」と質問しますが、リーダーやマネジャーは他者のニーズやモチベーションを統制することはできない。彼らが統制できる範囲は、報酬制度の範疇にあり、それは部下のニーズや欲求に応えるために提供できるものということになる。そして、リーダーやマネジャーが提供するものが実際に部下のニーズにこたえるものであった場合、部下はモチベートすることができる。

②ODは組織システム全体の変革活動を支援するものであること

職務充実やキャリア開発、あるいはトレーニングなどの活動は、OD介入として効果が少ないとは言わないが、この種の介入は組織全体に焦点を当てた活動の結果として行われるべきものである

③人間のニーズやモチベーションを明確に理解することは容易ではない

ニーズという視点からモチベーションに対処することは、マズローのように、他者の内面に目を向ける必要があるということである。しかし、自分のニーズやモチベーションを明確に理解することが難しいのに、他人のそれを理解するのはもっと難しい。

 

そうですよね、上記3つは元ベーションの視点からOD介入を意図する場合に気を付けなくてはならないことですよね。(続く)

参考文献:[組織開発]教科書

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。