• [組織開発]教科書から学ぶ⑯~OD実施における規範、役割、価値観 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-269~

[組織開発]教科書から学ぶ⑯~OD実施における規範、役割、価値観 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-269~

ODの実践において、当該組織をどのように理解するのか、そしてどのように介入していくのかは、重要な課題であり問題です。W.バークは、このことを説明する上で、規範、役割、価値観という章を設けています。今回から、この3つは何を意味するのかについてみていきます。最初は規範です。

規範(norms)とは「人々が準拠する行動の基準もしくは規定である」と定義されています。ODは組織文化の変革であるとするバークの論から言えば、当該組織の規範を理解することはODの実践にとって欠かせないこととなります。[組織開発]教科書では、例によって([組織開発]教科書では、概ね、各章は学習すべきテーマに基づくケースの紹介から始まる)バークが指導した新米コンサルタント2名が直面した、クライアントの規範問題のケースが紹介されています。

新米コンサルタントが直面した問題とは、クライアント組織が公式といわれるような取り決めが全く見られず、彼らは「こんなの組織ではない」として困惑してしまったのです。クライアントの方も、新米コンサルタントとの関係で欲求不満を起こし、依頼された問題解決が暗礁に乗り上げたのです。この組織は、ボランティアメンバーで構成される「問題を抱える若者支援」の組織なのですが、ボランティア間では役割や活動範囲に関する責任分担が明確に定義されておらず、多くのメンバーは仕事が片付かずにイライラしていたのです。新米コンサルタントは、この悩みをバークに相談するのですが、バークのこたえは以下のようなものです。

「当該組織は、一般的に言う組織ではないということには同意するが、同時に、少なくとも一つの共通の目的をもって努力して働く若者たちが、一つの社会・技術的システムを形成しているという事実がある。この組織の若者たちは、特定のサービスを提供することであり、また若者たちの対人関係や職場関係から、その組織(システム)の社会的な側面が形成されており、これをこの組織のコンサルテーションの焦点にすべきである」というものです。要するに、当該組織は確かに「組織らしくない」が、そこには一つの社会的/技術的システム(ソシオ・テクニカル・システム)が存在しており、さらに社会システム、特にメンバーの行動を支配している規範(暗黙の了解事項)に注意を払って診断すべきであるということです。バークの指導は、存在しない公式組織の取り決めを問題にしても、この組織の問題は解決しないということです。むしろ、メンバーシップの中に存在する「準拠パターン」を探して、それを明らかにすることを新米コンサルタントに提案したのです。

数週間後、改めて診断を終えた新米コンサルタントがバークのもとに来て、その内容を報告します。当該組織の規範、つまりこの若い学生組織に働くメンバーの行動を大きく支配している黙示的な規範は、「激しい口論はしてはならない」というものであったことをつきとめたのです。依頼したクライアントも、こういう規範については意識していなかったが、確かに「激しい口論はしてはならない」という暗黙の同意があることを認めました。この規範は、「そちらのやりたいようにやりなさい。こちらもやりたいようにやるから。お互いの結果には口出ししないようにしよう」という行動になって表れていたのです。このような規範があったため、勤務中の人間が電話に出ないとか、お互いの意見が合わずに物事がうまく運ばないといったことがあっても、それはみんなで取り上げる問題になっていなかったのです。

当該組織は、2人の新米コンサルタントの援助によって「口論してはならない」という規範があったことを認め、またそれが自分たちの仕事の生産性を阻害していたことなどを認め、この規範を変えることに同意します。その後の話し合いにより2つの新しい規範(申し合わせ)が明確になります。1つ目は「相互に反対意見を出すこと」。2つ目は「遂行すべき仕事に対しては相互に責任を分かち合うこと」でした。これを実践することにより、当該組織はその効果性を高めていったのです。

規範については、E.シャインの「組織文化とリーダーシップ」の中で詳細に案内していますので、今回はバークの説明は省きますが、改めて以下の2点は指摘しておいた方がよいでしょう。

  • 規範に準拠する行動から創造的な変革はめったに起きない。
  • 生産的な個人の行動や、あるいは効果的な組織の業績という観点から見たらあまり意味のないルールや基準であったとしても、それに準拠せざるを得ないときもある

このような準拠パターンは、多くの場合、事件が発生した後または外部の人間の指摘によって白日にさらされることになります。したがって、ODの診断的局面では、以下のことに関心をもつことが重要といえます。

  • 組織メンバーの行動に影響を与えている黙示的規範を明確にする。
  • フィードバック・プロセスを通して、このような規範を表面化させ、組織メンバーに気づかせ考慮を促す。
  • どの規範が有効に働くか、どの規範が効果的な職場関係を阻害するか、という観点から規範について考慮する。
  • OD介入では、非機能的と考えられる規範を変えることに焦点を当てる。

 

さて、4番目の規範変革ですが、すでにコッチ/フレンチ1948の作業プロセスの変更事例を紹介したように、当事者の参画による意思決定があり、当事者自身がそれにコミットメントすれば変革の実践はより効果的になります。(続く)

参考文献:[組織開発]教科書

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。