~[組織開発]教科書から学ぶ⑱~OD実施における規範、役割、価値観

組織開発(OD)の実践って、どうするの?-271

 

ODの実践において、当該組織をどのように理解するのか、そしてどのように介入していくのかは、重要な課題であり問題です。W.バークは、このことを説明する上で、規範、役割、価値観という章を設けています。今回は価値観についてです。ODは、価値観ベースの組織変革であるといわれます。それは、組織変革を実践・支援するOD実践家として、どのように組織に関わるのか、その倫理としての価値観が重視されるからです。

組織には、個人同様、価値体系があります。価値体系は、組織が持ちつつづけている信念の構造とも言えます。E.シャインの「リーダーシップと組織文化」によれば、価値体系は、組織のメンバーが何を好ましく適切な行動と考えているか、あるいは好ましくない不適切な行動と考えているか、に反映されています。組織行動という観点から言えば、規範と価値観は切り離して考えることはできません。OD実践家は、組織の効果性を開発していこうとする際、自分自身が持っている価値観とクライアント組織が持っている価値観とのコンフリクトにしばしば直面します。このコンフリクトをどのように受け止めるか、あるいは解消するかはOD実践家にとってはとても大きな問題になります。一般的に、多くのOD実践家はODのルーツの一つである感受性訓練/Tグループが持っていた価値観を信奉しています。

第一に、人間主義的な価値志向、つまり人間はすべて個々の潜在能力を認識し、これを十分に実現するよう、その生涯を通して個人的に学習し、開発する機会を持つことが大切である、という信念です。第二に、人間の感情は、思考や意見同様、変革と密接な関係をもつ重要なデータ源であり、また組織の中でのこうした感情の表現は、他のあらゆる思考、事実、意見の表明と同じように、妥当なものとして扱われなければならないというものです。第三に、対立は、それが個々人間であれ、グループ間であれ、無視したり、回避したり、操作したりせずに、これを表面化させて直接的に対処すべきである、というものです。

また、シャインとベニス(1965)は、ODの主な価値体系が、探求の精神と民主主義の二つにあると述べています。このような考え方は、アメリカにおいて1950年代から1960年代に巻き起こった公民権運動などと密接につながっていると思われます。バークは、ODの価値観は感受性訓練から生まれていると言っていますが、そのことを詳細にみていくことにします。ここから生まれる価値観は、当然のことながら1960年代のアメリカにおける、個人主義や権威主義に対する反抗、および特定の伝統的な制度の是非に対する問いかけが大流行していた時代です。現代に求められる価値観と比較しながらお読みいただいても良いでしょう。

探求精神、つまり問いかける心は科学の価値観から出ています。これには二つの部分があり、一つは仮説を立てる精神で、これはためらい、思案し、妥当性や前提を検討し、誤りや間違いを許容することです。二つ目は、アイデアや前提をテストする精神です。感受性訓練では「経験した行動はすべて質問(探求)と検査(実験)の対象となる」という精神があります。このような精神は、対人関係においてオーセンティック(真正の、矛盾のない、言行一致の)であることを良しとします。

民主的という価値体系も二つの要素から成り立ちます。一つは協働であり、もう一つは理性的、合理的な方法を通しての対立の解決です。協働は、感受性訓練における参加者とトレーナーの協働的プロセスを重視する姿勢です。理性的、合理的な方法を通しての対立の解決とは、対立に対する場合、取引・パワーの一方的な行使・服従あるいは妥協などではない問題解決を志向しているという意味です。そして、選択において強制や権力の勝手気ままな行使を否定します。さてこのような価値観は現代でも、少なくとも民主主義を標榜する国や社会では重視されている価値観です。したがってODコンサルタントといわれる人たちは、個人が以下のような行動をとれるようになることを支援する傾向があります。

①直接自分たちに影響する意思決定に参加できるようにする。

②自分たちのニーズを主張する

③それぞれのキャリアを計画する

④作業集団の一部となり貢献する

⑤現在の仕事をより一層充実させる

⑥訓練、教育など、個人の成長や啓発の機会を持つ

⑦自分たちの期待されている目標や作業分担に上司と共により一層関与する

⑧個人として尊重され公平に扱われる

 

しかし組織(会社)としては、収益が上がらず、生き残れなければ、将来もないし、個人を重視することもできないというでしょう。皆さんはいかがでしょうか、ODコンサルタントが重視するような価値観が、長期的には組織の成功を保証すると考えますか。それとも、あなたが仕事をもらっている組織(会社)が異なる価値観を持っていれば、それに沿った仕事をしていくことを選択しますか。

参考文献:[組織開発]教科書

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。