• [組織開発]教科書から学ぶ⑬~啓蒙主義から社会構成主義へ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-266~

[組織開発]教科書から学ぶ⑬~啓蒙主義から社会構成主義へ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-266~

私たちの存在は関係性の中でとらえられるべきであると主張したのがケネス・ガーゲン(アメリカ)です。今回は、今日の社会構成主義の土台を提供するガーゲンの考え方について学んでいきます。社会構成主義は、「社会的合意(現実)というものは、お互いに関わり合う特定の関係性の中でのやり取りを通して暗黙に合意されていること」としており、関連性のない意味ある現実など存在しないと主張します。言い換えると、コミュニケーション及び社会的相互作用が、現実や事実などとみなされるものを創出していると考えます。

ガーゲンは、私たちは全くの個として存在するのではなく、自分が誰であり、世界について何を知っているのかは他者との関係によって決められるといいます。知識の対象は、世界の中での位置づけによって決まるのではなく、人々がコミュニティに参加するときにその意味の重要性を獲得し、時間と共に生じる社会的合意を通して意味を獲得するといいます。要するに、その集団に入っていなければ、その集団が物事をどのように認知し、どのように意味づけをし、何に動機づけられて行動しているかはわからないということです。そりゃそうですよね、ロシアによるウクライナの侵略に対して、ロシア(プーチン)は「真であり、正当性がある」と言っていますが、そんなものウクライナが分かるわけもないし、私もまったく分かりません。ロシア(プーチン)が言っていることは、こちらの文脈の中では「嘘」だ、「妄言だ」ということになります。ガーゲンは、「内側の閉じ込められた自己の前提」は、あまりにも孤立した自己中心的な、そして反社会的な行動が生まれる世界を作り出すといいます。いやいや確かに、このガーゲンの主張は肝に銘じておかなくてはならないですね。このような考え方は、意味の共同構築と知識の発展性を強調しています。ガーゲンの考え方をODの視点でいえば、しかるべき診断手法を用いれば正確に組織と変革の社会的ダイナミックスを見定めることができるとはならないのです。真実を客観的に発見することはできないのです。

 

社会構成主義の基本思想は、起こっていることの意味づけは、社会的相互作用の中で、あるいは、それを通して創出されると考えます。現実および真実とみなされるものはすべて、人と人との関係性とコミュニティの文脈の中に出現するのです。例えば、ODの中で使われるプロセスという言葉は、K.レビンやE.シャインがプロセスを人と人との関係の中で起こっている事柄と定義して以来、人と人との関係の中で起こっている事柄すべてを意味する言葉として使われますが、普通は仕事の流れ(業務プロセス)というように理解されています。要するにOD業界人ではない人たちには意味が異なります。ですから、OD業界人が「プロセスに問題があるのですね」といっても、それは当事者に正確に伝わらないのです。このような立場に立てば、組織は人々の関係性と文脈による意味づけ(ディスコース)によって創出され、維持され、変革されます。物事の意味は、人々の頭の中に単独で存在しているのではなく、お互いに影響し合う人々の協調的行動の中に存在しているのです。

社会構成主義の考え方をODに適用していくポイントは、人々の会話の仕方を変えることです。それは、集団で話し合うときに、自己主張を柱とする「議論」ではなく、他者が言わんとすることを「聴く」姿勢です。聴くことで、それまでの主流のシナリオではなく、別のシナリオを見出し、起こっていることに対して新しく意味づけをしていくことが大切なのです。専門家が診断してトップダウンで変革をしていくような姿勢から、多くの点で異なる方法を選択することになります。

第一に、個人の考え方を変えるというアプローチから、集団の考え方を変えるアプローチをより重視します。

第二に、変革とは安定期と安定期の間にあるものではなく、持続的に発生するもの、つまり組織は常に変わっていくものであるという認識に立ちます。

第三に、チェンジエージェントは介入をする人ではなく、起こっていることの解釈を助ける通訳的な役割(interpreter)を担うようになります。

第四に、変革は(特に欧米の文化にある)個人視点から他者との関係性に焦点が移行します。つまり、問題は人と人との関係の中起こっているという視点です。

バレットは、個人のメンタルモデルの変容から関係性の中で取り交わされる文脈(ディスコース)に焦点が移ることを強調していますが、実践では両方必要です。社会構成主義の考え方を持ち出すまでもなく、以前から認識されていることで、集団における問題は「人と人との関係の中」で起こります。ですから、人が入れ変われば問題も変わるし、関係性が変われば別の問題が生じます。大切なことは、問題と人を切り離すことはできないということですね。(続く)

参考文献:[組織開発]教科書、対話型組織開発

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。