• 組織変革における状況対応リーダーシップ①~159 組織開発(OD)の実践って、どうするの?~

組織変革における状況対応リーダーシップ①~159 組織開発(OD)の実践って、どうするの?~

今回からのリーダーシップは、組織変革における状況対応リーダーシップについて考えていきます。下敷きにするのは「アグリーメント・マトリックス(HBR 2007.3 C.クリステンセン、M.マークス、H.スチーブンソン)」による、二つの尺度の合意度に基づいて変革手法を見極めるという考え方です。C.クリステンセンは、「イノベーションのジレンマ」で有名ですが、変革リーダーシップについても一家言あった人なんですね。ではまず、アグリーメント・マトリックスとはどのようなものなのかを見ていきましょう。このマトリックスは、目的と実現方法に関する合意度を見極めるマトリックスです。

 

アグリーメント・マトリックスは、組織変革を推進する際に重要な2つのポイントを軸としています。第一(縦軸)は、変革の目的や意義、優先事項など、変革によって何を得たいのかに関する合意です。第二(横軸)は、変革に先立って、原因と結果について社員たちの合意を得なければならないというものです。すなわち、目的とその実現方法の因果関係について社内の認識を一致させることです。

さて、みなさんの組織が何らかの変革をしなければならないと仮定して、現在の組織はどのポジションに位置づけられるでしょうか。

  • 右上部は、現状望ましい状況であり、少なくとも現在環境においては成功している組織です。しかし、成功しているがゆえに、何らかの変革に対しては抵抗も大きい組織と言えます。
  • 左上部は、組織の目的については合意できているものの、それを実現させる手段について合意できていない状況であり、手段については侃々諤々の議論がなされている組織です。
  • 右下部は、組織目的についてはそれほどの合意がないが、現在の事業推進方法や仕事のやり方については合意ができている組織です。多くの事業を抱えている大手企業は、このポジションにある企業が多いようです。
  • 左下部は、目的も手段も合意が為されていないような組織や社会です。そんな組織があるのか、という疑問を持たれる方も多いでしょうが、例えば、IBMが大型コンピューター事業ではこの先立ち行かないと考えていた時代はまさに左下です。

 

この4つの状態に対して万能薬的に適合する変革方法は存在しないのです。しかし、リーダーはそのことを十分に理解せず、自分が良かれと思う方法で変革を成し遂げようとするのです。それは悲劇以外の何物でもありません。例えば、近年の典型はアメリカによるアフガニスタンへの民主主義の移植です。民主主義が機能するには、民主主義的な精神風土が根付いている必要があるのです。それは、人間は自由であるべきであり、進んで誠実な行動を実践し、生命・財産・公平さなどを尊重すべきであるという教えが広まっている必要があるのです。そのような社会では、たとえ悪事が露見しなくても、以後の人生に何らかの報いを受けるはずであるという考えが根底にあります。日本では「お天道様は騙せない」という言い伝えがあるように、何のかんの言っても民主的な風土があったのですね。世界では、アメリカ、欧州、インドなどはこのような風土が社会の土台としてあります。しかし、そのような風土がない社会では、民主主義を確立するように早急に変革を迫れば、それは定着せず却って社会の混乱を招くのです。戦後の日本での成功が他では必ずしも通用しないのですね。

組織変革も全く同じであるというのが、C.クリステンセン、M.マークス、H.スチーブンソン等の主張です。ではどのように変革を進めていくべきなのか、次回以降それを見ていきます。(続く)

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。