• [組織開発]教科書から学ぶ⑨~啓蒙主義から社会構成主義へ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-262~

[組織開発]教科書から学ぶ⑨~啓蒙主義から社会構成主義へ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-262~

組織開発の背景にある思想を理解することは、OD実践者にとても大切なことです。今回からその思想的背景について学んでいきます。

D.バークは、アクション・リサーチ・モデル、システム変革の3段階モデル(解凍⇒移行⇒再凍結)、計画的な変革の諸局面の3つがODアプローチの土台となると説明しています。ブッシュとマーシャックによる対話型ODでは、このような方法論の前に、変革に関する基本的な考え方の違いを説明しています。それには啓蒙主義思想と社会構成主義の違いを理解する必要があります。フランク・J・バレット(米国、対話型組織開発の協働著者)の主張に沿って、その違いを理解していくことにします。知識と学習について、特に欧米ではどのような流れがあるのかを理解しておくことが必要です。まずは、近代化の主流思想となった啓蒙思想(主義)から見ていきます。日本人である私たちにはなじみが薄い思想の流れですが、ODが欧米の哲学の流れの中で生まれてきていることを考えると、私たちも理解しておくことが必要でしょう。

 

啓蒙思想(主義)とは、理性による思考の普遍性と不変性を主張する思想であり主義です。それは、理性を自ら用いて超自然的な偏見を取り払い、人間本来の理性の自立を促すというものです。もっと簡単な言葉で説明すると、啓蒙とは「暗がりを照らす」という意味で、「神の後見によってのみ世の中を見渡すことができ、神がいなければ何もわからない」といういわば「暗がり」の状態を脱して、私たちが自ら暗闇を照らすことができる理性を獲得するということです。これは今でも、私たちが暗黙裡に承認している考え方でもあります。啓蒙主義の思想家たちは、真の知識はそれ自体に価値があると主張し、客観的な知識は経験と個人の理性を通して獲得できると考えました。このような哲学的思想の変化により、急進的な平等思想が生まれます。啓蒙主義を起こしたことでも知られるデカルトは、著書「省察(1641)」の中で、客観的に真実である知識を獲得するための適切な手段の基盤となるのは数学の論理であるとしました。デカルトは、個人の精神が外的世界を「知ること」ができるという物心二元論を唱えましたが、これは、物体(物質)と精神がこの世界の実体として存在するという考え方です。デカルトにとって、知識を発展させるために最も必要とされる技術は合理思考です。知識は純粋な論理的思考と注意深い観察の結果であり、個人は事実を入手し、これらの事実が外的世界に及ぼす観察可能な影響について活発な論理思考を巡らせるとき、客観的知識を蓄積することができるとしています。~~~なるほど、この流れはブッシュやマーシャックが分類するところの診断型ODにつながっていきそうですね。~~~

 

デカルトの考えを受け継ぎ発展させ、近代化そしてイギリス産業革命の土台となる思想を形成したのがカントです。カントの考えを結論づけると、現象界(自然の成り立ち)それらすべては、人間理性が認識しやすい形で現れた世界であると考えました。いわば、自然界の立法者は神ではなく人間であると大転換を遂げたわけです。神がこの世をつくったとする西洋の古典的考えから脱して、自然界の存在は個々人の思考の枠組みによって整理されることで「現象界」として理性的に認識されて客観性を持ち得るということです。これは、個人とは自己完結型であり、客観的であり、公平さ、冷静さ、自立を実現できる主体であるとみなす現代の西洋的考え方につながります。この考えをさらに発展させたのがヘーゲルです。彼は、人間の精神も拡張していくことが可能であり、それによってカントが考えていた現象界のみを理解できるという限界をなくしました。これによって、我々は自然界を支配し、コントロールできるという考えを持つにいたりました。著者個人的には、近代化に大いに貢献する流れであるとともに、大それた哲学的歴史だなと思います。

「知識の表象理論」という考えがありますが、それは、世界に存在する物事が精神によって理解され、象徴システムである言葉や象、数字(数学)などによって表象されるときに知識となって生まれるという考えです。すなわち知識とは、観察された対象を正しく理解し、その後、理解されたものを客観的に表象するものであると考えます。組織研究も、当然のごとくこの哲学的流れとは無縁ではなかったのであり、初期ODの理論的枠組みや変革の方法論は、この考え方に則ったものであるというのがフランク・J・バレットの主張です。次回は、啓蒙主義が社会学に及ぼした影響についてみていきます。(続く)

参考文献:[組織開発]教科書、対話型組織開発

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。