• 成功循環モデルから学ぶ③~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-196~

成功循環モデルから学ぶ③~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-196~

P.センゲは、メンタル・モデルがもたらす影響について以下のように説明しています。「名案だというアイデアはどういうわけか実行されない事が多い。(中略)心の奥底には世界の仕組みの関して深く秘められた各自のイメージが存在し、それが新しい見識と相容れないせいで実行の段階まですすめないのだ。このようなイメージが、われわれを今までの慣れ親しんできた考え方や、行動に縛り付けているのである」。

メンタル・モデルは、私たちの世界をどのように意味づけるかだけでなく、どのように行動するかも決めています。つまり、メンタル・モデルは「行動の質」に直接的に影響を与えるのです。メンタル・モデルで問題になるのは、それが正しいとか間違っているということよりは、ものごとを単純化して考え、暗黙の了解となっていることです。暗黙の了解とは、自分たち自身のメンタル・モデルに気づいていないということです。1980年代後半に、アメリカのコンサルタントのイアン・ミトロフによるGMのメンタル・モデルというのがあります。いくつか紹介しましょう。

  • GMのビジネスの目的は収益を上げることであり、車を造ることではない。
  • 自動車とはステータス・シンボルである。従って、品質よりもスタイルの方が重要だ。
  • 労働者が生産性、あるいは品質に重要な影響力を持つことはない。

など、他にもありますが、重要なのは「人々はみなスタイルを重視しているというのが、わたしたちのメンタル・モデルだ」とは言っていないことです。「人々はみな、スタイルを重視している」といっているのです。つまりほとんどの人々は「私は~~というメンタル・モデルを持っている」という自覚はないのです。

メンタル・モデルを認識できないと、システム思考を育もうとしても多くの点で無駄な努力を払うことになります。つまり、どんなに因果関係を分析しても、メンタル・モデルが邪魔をして、システム思考で分析したことのつながりを無視した行動を選択してしまうのです。前回のODメディアで既に紹介した通り、メンタル・モデルの克服に成功した企業としてロイヤル・ダッチ・シェルがあります。1970年代のOPECの動きに対してシェルの中央企画部門(グループのプランニング部門。ここでいうグループとはシェルグループのこと)は、未来のトレンドをまとめ上げる方法として「シナリオ・プランニング」という手法を開発中でした。しかしながら、シナリオ・プランニングで整理した資料を経営幹部に見せても、幹部が持っている成長の見通し(メンタル・モデル)とあまりにかけ離れており、一顧だにされなかったのです。この時点で、中央企画部門のスタッフは、自分達の作業を根本的に誤解していることに気づきます。すなわち「文章化された将来像を提出するのがわれわれの任務ではないことが分かった。本当のターゲットは、それぞれの意思決定者たちの“小宇宙(メンタル・モデル)”なのだ」と。この気づきにより、中央企画部門のスタッフは、経営幹部に情報を与えるのが自分たちの仕事ではなく、経営幹部たちにその世界観を考え直す機会を与えることが自分たちの任務であるとはっきり認識したのです。具体的には、1973年の1月から2月までに、一連のシナリオが作成され、これは経営幹部たちの「バラ色のシナリオ」が実現するならば、必ず正しく起きなければならない仮定をあげ、それをすべて経営幹部自身で確認させるというものでした。この結果、このような仮定はみな、せいぜいお伽話よりは少しマシな程度であるということが分かったのです。企画グループは、続いて再び一連のシナリオを作成し、シェルの経営陣が自分たちのメンタル・モデルから離脱できるようにアプローチします。すなわち、「(1970年代までにあった)石油ビジネスのやり方はこれからも変わらない」という支配的な見方の裏には、世界の地政学や石油産業の性質に関して、どのようなメンタル・モデルが働いているかを示したのです。そして、どのようにすれば新しいメンタル・モデルを構築できるか、その過程に進むにはどうすれば良いかを提示します。例えば、

  • 原油の探査を新しい国に広げていかねばならない。
  • 精製施設の建設は、高価格とそれに伴う低い需要の伸びに合わせてスローダウンしなければならない。
  • 極度に不安定な供給に合わせ、各国はそれぞれ異なった対応をするだろう。自由市場の伝統を持っている国では、価格を自由に上がるままにしておくところもあるだろう。

など、新しいシナリオを提示し、幹部自身がこのシナリオに真剣に取り組むことを後押ししたのです。これ以降のことはよく知られているように、シェルは1970年代の動乱の時代を乗り越え、石油メジャーの中で最強といわれるようになっていきます。「思考の質:メンタル・モデル」は、このように「行動の質」に影響を与え、「結果の質」を左右することになるのです。P.センゲは、シェル石油以外にも、メンタル・モデルの克服に挑戦したハノーバー保険の事例を取り上げています。ここでの方法は「シナリオ・プランニング」ではなく、「対話」です。(続く)

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。