• [組織開発]教科書から学ぶ⑥~ODの概念的・理論的支柱 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-259~

[組織開発]教科書から学ぶ⑥~ODの概念的・理論的支柱 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-259~

ODの概念・理論・モデルについてW.バークが選ぶ10人、最後は「トータルシステム」です。最初は、レンシス・リッカートです。リッカートは、ODに非常に大きな影響を与えていますが、特に管理者はマネジメントのリンキングピンであるという概念と、組織のシステム4の2つが有名です。彼は、組織のシステム4の中で、最後の4番目にあたる参画マネジメントを強く提唱しています。

リンキングピンは、組織の階層的な構造を無視しないで組織をさらに分権化された形にデザインしたいという、リッカート自身の欲求から生まれたものです。管理者は、自分が管理するグループのリーダーですが、同時に自分が部下で上役のリーダーシップに従うグループメンバーでもあります。つまり、管理者はこの2つのグループのメンバーであることによって、縦の指揮系統の中で重要なつなぎ目、つまり連結点(リンキングピン)となります。この連結装置は、コミュニケーションや対立解決に関わるいろいろな活動の中で重要な役割を果たすことになります。まぁ、当たり前といえば当たり前ですが、この役割を果たすためには、管理者には高い対人関係能力(インターパーソナル・コンピテンス)が求められることになりますね。

組織のシステム4は組織運営に関する類型であり「独裁専制的」「温情専制的」「協議的」「参画的」の4つです。リッカートは、この中で「参画的」組織運営を強く推奨しており、コミュニケーションは2ウェイでオープンに行われ、対人関係は協調的で信頼の雰囲気が高く、意思決定がコンセンサスで下されます。要するに、リッカートによればシステム4が唯一最高の方法であり、その意味で規範的理論家です。ODアプローチにおいては、このモデルを土台にした組織診断質問集を活用したサーベイ・フィードバック方法を採用しています。データは、職場ファミリー単位に返され、彼らがそのデータを検討し、職場の改善活動を実施します。現在でも活用されているODの代表的方法論です。

 

リッカートととは反対に、すべては状況次第であると考えるのが、ローレンスとローシュの状況適応理論です。彼らの考えの基本は、組織を効果的に運営するには、一人の人間がすべてをやることはできないし、組織メンバー全員が同じことをやるわけにもいかない、したがって組織は分化・差別化(differentiation)していく。当然、多くの部門を持つ組織は、それを何らかの方法で体系化し調整していく役割を果たす者が必要になってきます。このプロセスを統合化(integration)といいます。そして、分化と統合の度合いは、環境やその市場に大きく左右されると考えます。彼らの状況適応理論の核心的な要素は、分化、統合、組織と環境の境界面、従業員とマネジメント間の黙示的契約です。

ローレンスとローシュは、組織の中でどの程度の分化が必要であるかを決定する変数として4点を挙げています。

  • 目標の確実性:目標は明確で数値で確実に評価できるか、あるいはあいまいで質的評価を必要とするものか。
  • 構造:構造は精密な方針や手続きを持つ公式なものか、あるいは現状の要請に応じて柔軟に機能する方針を持つものか
  • 相互作用:対人間、グループ間に十分なコミュニケーションや協調が必要か、あるいはそうではないか。
  • フィードバックの結果がわかるまでの時間:自分の仕事の結果について速やかに知ることができるのか、あるいは時間がかかるのか。

 

組織の中のそれぞれの単位が、この4つの次元で相互に大きく異なっていれば、組織構造もそれだけ高度に分化します。ピラミッド型の組織では、調整や対立の解消は一段上の階層が処理しますが、組織が高度に分化した組織では、そこに統合者の役割が必要になってくること、つまり調整や統合を担う人が必要になってくるといいます。

分化と統合の条件は、組織を取り巻く環境が複雑で急激に変化する場合は、それぞれの市場やタスクを担っていくために分権化した組織が必要となり、それを調整・統合する役割の人間を配置する必要があります。しかし、比較的安定した環境にある組織では、集権度の高いマネジメントが構造的にいってもずっと能率的であるとします。分化が進んだ組織は、当然、対立が生じやすくなります。したがって、組織をいかにうまく運営するかは、管理者と従業員との対面関係の性質・内容によって左右されます。またローレンスとローシュは、従業員のモチベーションやモラールは、従業員がどのように処遇してもらいたいかをマネジメントが実際に満たしてくれるかどうかにかかっていると考えています。この理論は、すでにODメディアで紹介した、一橋大学の「組織の<重さ>研究」にも大きな影響を与えています。

 

最後はレビンソンです。彼は、臨床心理学者であり、組織の精神分析が可能であると信じていた人です。彼が重視するのは、組織のパーソナリティ(他の言葉を使えば、組織文化)です。組織の健康は、個人の健康と同じにパーソナリティのいろいろな部分がどれほど効果的に統合されているか、という観点から決定することができるとしています。レビンソンは、組織のCEOは家族の自我理想を表しており、この自我理想は良かれ悪しかれ、組織に魅力を感じている人たちをモチベートし、昇格するタイプの人間をモチベートします。その組織のパーソナリティは、CEOの在任期間が長くなれば、徐々に結晶化していきます。したがってレビンソンによれば、組織の歴史が組織診断における不可欠の判定要因であると考えます。ODコンサルタントとしては、(1)組織の精神力学に自分自身をできるだけ深く没頭させる、(2)組織の歴史を徹底的に探る、(3)ほとんどの時間をトップマネジメントと過ごす-トップマネジメントは組織変革の重要な対象である、(4)組織のストレス要因と組織メンバーがそれにどのように対処しているかに注意を払う。

ということで、レビンソンは、組織の診断においては臨床症例の技法を使い、おもにトップマネジメントに介入し、その理論は精神分析を基礎としています。レビンソンは、彼のODコンサルタントとしての信条を以下のように述べています。

「われわれは、組織の中のあらゆる要因をすべて考慮の対象としなくてはならない。ちょうど患者の病歴を調べるとき、その個人の生活に関連するすべての主要事実を集めるように。しかし、これらの事実の意味を理解し、それを効果的に関連づけるには精神分析のような包括的な理論を持っていなければならない」

 

次回からODアプローチの土台となる、アクションリサーチ・モデル、システム変革の3段階モデル(解凍⇒移行⇒再凍結)、計画的な変革の諸局面を見ていくことにします。

参考文献:[組織開発]教科書

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。