• [組織開発]教科書から学ぶ⑤~ODの概念的・理論的支柱 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-258~

[組織開発]教科書から学ぶ⑤~ODの概念的・理論的支柱 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-258~

明けましておめでとうございます。今年は辰年、よろしくお願いします。

ODの概念・理論・モデルについて、今回はクリス・アージリスとウィルフレッド・ビヨンです。アージリスは、非常に多くのミニセオリーを開発しており、ODメディアでは、その代表的な理論を紹介します。

アージリスの初期の研究(1962)は、個人のパーソナリティと組織のダイナミックスに関係に焦点を当てています。ここでのポイントは、個人は組織への依存を減らし、組織は個人への統制を減らすというものです。また、個人は自分の感情に対してもっとオープンになり、相互に信頼の気持ちを持つように努め、組織の目標に対してもっとコミットメントする必要があるといいます。アージリスは、官僚組織の構造は人々を窒息させ、過剰統制し、子ども扱いする傾向があると考えており、このような組織では個人はその潜在能力を伸ばしきれず、各自が描いた自画像以下の人間に終わってしまうと考えていました。ですから、1950年代に急速に発展した感受性訓練やトレーニンググループを支持していたのも不思議ではありません。

インターパーソナル・コンピテンスの概念を提唱したのもアージリスです。インターパーソナル・コンピテンスとは、対人関係処理能力と訳されていることからわかるように、対人関係の上級者を意味する言葉です。インターパーソナル・コンピテンスは以下の能力から構成されます。インターパーソナル・コンピテンスがある人は、率直に自分のことを語る(owning up)。それは、自分の感じていることをオープンに表現し、感情を表出し(express feeling)、自分の中で経験している情動(emotion)を相手に伝え、そして実験する(experiment)ことのできる個人です。つまり、新しい行動を試み、その試みからその試みから学びを得ることができる個人です。ヒューマンエレメントのW.シュッツ流にいうとオープンネスと名付けられている能力ですね。

信奉理論と実践理論という考えやダブルループラーニングもアージリスが提唱しています。

信奉理論は私たちが言葉にして言うことであり、実践理論は実際にどのような行動を選択しているかです。平たく言えば、私たちは言行一致しているとは限らないということです。私たちの成長にとって大切なことは、言っていることとやっていることのギャップに気づくことです。気づくことができれば、言行一致した矛盾のない行動をしたいとモチベートされるといいます。

ダブルループラーニングは、ドナルド・ショーンといっしょに提唱(1978)しています。ダブルループラーニングとは、人間の効果性に対する自己の目覚め、自己認識及び組織の気づきを高める学習プロセスです。彼らは、ほとんどの組織が実施しているのはシングルループの学習であるといいます。シングルループ学習は、ある特定の問題を解決するには、その問題を引き起こした行動や方法を見直せばよいということになります。ところがこのような問題解決は、組織の根本的な問題解決や長期的視点から見ての生存や革新を確実に行うには十分ではありません。シングルループでは、問題を引き起こした行動や方法が選択された根源にまで踏み込んでおらず、それでは新しい方法の学習がなされないといいます。したがって、組織の根本的な問題解決や長期的視点から見ての生存や革新を確実なものとするには、従来の方法を選択していた背景にある「ものの見方や考え方」まで遡って、その「ものの見方や考え方」を変えていくようにすることが求められます。W.バークによれば、この学習プロセスは、組織開発の教科書でのOD定義である「ODは、組織文化を変革する計画的なプロセス」と全く同じであるとはいえないまでも、きわめて類似しているといいます。

ダブルループラーニングは、現在では個人の学習にとどまらず、組織学習の実践的な方法とであると考えられています。例えば、キーガンの免疫マップというモデルも、目指したい自分の姿があるにもかかわらず、そうではない行動を選択するのは、目指したい自分の姿を選択するより、今の行動を選択する方が得策であると感じているからであり、なぜそう感じるかというと、今の行動を選択する理由となる固定観念がその人にあるからだといいます。その固定観念は、新しい行動を選択することは不安であるとか、心配であるというネガティブな幻想を私たちに抱かせます。ですから、合理的ではないにも関わらず、当面は不安から逃れられる行動を選択するのです。ですから、私たちは自分の行動を変えようとするなら固定観念に気づき、その妥当性を検証していく必要があるのです。組織学習では、その組織の固定観念をパラダイムといったり、OD的には組織文化と言ったりします。組織文化は、シャインの「組織文化とリーダーシップ」で詳しく説明していますのでここでは割愛しますが、アージリスとショーンは、ダブルループラーニングという視点から固定観念を検証する大切さを説明しているのです。

 

ビオン理論は、度々ODメディアで取り上げていますので、以下振り返り的に紹介します。

  • ビオン理論は集団の無意識層に焦点をあてた理論。
  • 集団は常に、課題を意識的にうまくやろうとする「意識的に仕事をしていく側面(ワーク・メンタリティ):A」と、周囲との関係性を気にしてときに「幻想に怯えたり不安を感じたりして仕事をしている側面(ベーシック・アサンプション・メンタリティ):B」がある。
  • AとBが分かれている場合、集団は生産的な行動を取ることができるが、AとBが重なると集団は「不安や恐れを解消しようとする行動」に忙しく、生産性を落としてしまう。そしてこの「不安や恐れを解消しようとする行動(集団としての防衛行動)」は、無意識的に出てくるので当事者が意識的に是正しようとしても難しい。
  • 「不安や恐れを解消しようとする行動」は、これが強くなると典型的に以下の3つの行動に現れる。

①リーダーに対する依存または反依存

②依存と反依存グループ間に起こる闘争または逃避

③依存派と反依存派の分派行動

リーダー自身もこの渦の中にいて、自分で自分の行動を統制できない。そして、集団はリーダーを亡き者にし、新しいリーダーを求める。

 

ビヨン理論でいえば、プロセスを見るとは、集団に「依存または反依存は起こっていないか」、「闘争や逃避はないか」、「分派行動はないか」ということを観察し診断することです。皆さんの組織や集団では何が起こっているでしょうか。OD的には、リーダーとチームメンバーとの関係を診断する際にとりわけ有効な理論となります。

参考文献:[組織開発]教科書

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。