• [組織開発]教科書から学ぶ④~ODの概念的・理論的支柱 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-257~

[組織開発]教科書から学ぶ④~ODの概念的・理論的支柱 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-257~

ODの概念・理論・モデルについて、今回は「変革へのグループ・アプローチ」です。ODにおけるグループ・アプローチといえばクルト・レビンです。レビンはユダヤ人であり、ナチスの迫害を逃れてアメリカに亡命した人です。ですから、彼の思想や関心は独裁的な行動に対する民主的な行動、および影響力や変革に関する問題に強い影響を与えています。参画的リーダーシップや意思決定などのあり方が生み出す、いろいろな結果に対するレビンの調査は、ODの典型的な目標に今でも息づいています。

レビンを信奉する研究者の間では、組織を多くのいろいろなサブシステムの集合体(サブシステムの集合体とは人の体と同じでいろいろな部位から成り立つということ:組織の場合は社会システムともいう)であると捉えています。この視点に立てば、組織の中の人間行動を以下の観点から考慮することになります。

  1. 個人のニーズが組織の進む方向と同じ方向に向かっているか。個人は、組織の進む方向にコミットメントしているか。
  2. 人々が準拠する規範は何か。そして準拠の程度はどうか。
  3. パワー(権力)はいかにして行使されているか。チームメンバーの関係性によって誘発された力か、またはその人自身の個人的な力か。
  4. 意思決定のプロセスはどうなっているのか。

など。

このような観点から、レビンの有名な2つのモデルが提示されます。一つは、個人の行動はどのような因果関係で決定されるのか。二つ目は、そのモデルから必然的に導かれる個人に影響を与える環境(力の場)をどのように認知するのかというものです。

個人の行動(behavior)は、おもに個人のモチベーションまたはニーズという観点から見た個人のパーソナリティと、その人が行為(act)をしている状況(situation)または環境(environment)との関数であるとされます。公式的にはB=f(P,E)と表記されます。

この環境(environment)は、個人に影響を与える力の場(field of force)として示されています。したがって、もしある個人のニーズが分かり、かつ環境がその個人に与えている力の強度と誘発性(ポジティブ化ネガティブ化を問わず)を推測することができれば、その個人のあらゆる場合の行動も予測することができるとなります。

場(force)は、物理学から借りた言葉ですが、心理学的には、個人が環境をどのように認知するかがカギであり、それは必ずしも現実・実際(reality)であるとは限りません。したがって、力の例としては、例えば相手のパワーなども含まれます。これは、相手が自分にやってほしいと思っているタスクを自分が達成させるかどうかは、達成によって自分のニーズが満たされる場合と、相手の自分への影響力をどう認知しているかの関数になります。パワーも自分の環境の中の力であると認知するかどうかでパワーの影響も異なるのですね。

レビンは、外部から個人に働きかける力と、個人の欲求を直接反映するその人個人の力とを明確に区別しています。なぜかといえば、その人自身が目標の決定に参画していれば、他者が目標を課してくる状況と比較し、目標達成に向けて個人のコミットメントは強くなります。つまり自分で決めた目標の場合は、個人のモチベーションはその目標達成に適合しようとします。ここで大切なことは、集団での意思決定に個々人が参画しているというプロセスです。つまり、目標を個人(一人)で決定した場合、モチベーションは変わりやすいものになりがちです。したがって、強制、もしくは誘発された目標を個人が達成しようとする場合は、その目標を誘発した人(組織では通常上司)が絶えず影響力を行使しなければならなくなります。要するに、実行にコストがかかるということです。1on1での目標設定は、このあたりに気をつけなければならないことが潜んでいそうですね。話が横道にそれましたが、このレビンの考え方(理論)は、参画マネジメントや合意による意思決定が、一般的に肯定的な結果を生み出すということを説明するのに用いられます。

個人の環境認識におけるいろいろな力についてレビンが明確にしているのは、推進力(driving force)と規制力(restraining farce)の区別です。推進力と規制力は、物理学でいうところの準定常的平衡という概念を用いて、私たちが認知する現状がまさにこれにあたるといいます。つまり「環境・場」は、いろいろと小さな変化はあってもある一定の幅の中で納まり、一定の期間ではまるで静止したかのような印象(知覚)を与えます。しかし、実際にはいろいろな方向へ動く力があり、それが動き(変化)を規制する平衡力となっています。例えば、働き方を変えようとする努力は、従来の考え方を持ったマネジャーに反対されるかもしれません。新しいアイデアは、わが社にはリソースがないといって反対されるかもしれません。要するに、どのような状況にも多くの異なる平衡力がたくさんあり、推進力と規制力の二つの力を明確にするために使われるのが、力の場の分析(forth field analysis)です。力の場の分析によれば、現状を変革するには2つのプロセスを踏む必要があります。一つは、推進力と規制力を分析すること。次に、推進力と規制力のどちらかに働きかけることです。通常、推進力を増やせば新しい規制力が生まれるので、望ましい方向に場を変えていくには、規制力を減じる働きかけをすることが効果的です。このような試みは、個人に対してよりもグループに対しての方が有効です。レビンは以下のように言います。

「個人が変わっていこうとする際、グループの規準・規範が変わらずにとどまっている限り、個人はグループの規準・規範からますます離れていくことになり、変革に対してもそれだけ強く抵抗するようになる。もしグループの規準自体が変われば、個人とグループの規準の関係から生じる抵抗は除去される」

集団や組織の変革に対して、なぜ個人の能力開発だけでは限界があるのかを理解できます。

参考文献:[組織開発]教科書

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。