[組織開発]教科書から学ぶ③~ODの概念的・理論的支柱 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-256~
ODの概念・理論・モデルは、統一概念や理論・モデルというものはなく、すべてある一分野を説明するに過ぎないミニ・セオリーです。W.バークは10組の理論・概念を取り上げています。10組の理論や概念は、大きく3つに分類されています。ODメディアでは、今回からW.バークが推奨する理論・概念を紹介していきます。
- 変革への個人的なアプローチ
マズロー、ハーツバーク、ブルーム/ローラー、ハックマン/オールダム、スキナー
- 変革へのグループアプローチ
レビン、アージリス、ビオン
- 変革へのトータル・システム・アプローチ
リッカート、ローレンス/ローシュ、レビンソン
バークの取り上げ方は、組織開発の探求(中原、中村)とは異なりますので、併せて確認するのも面白いでしょう。よく知られている概念や理論がほとんどだと思いますが、それぞれのポイントを再確認していきましょう。まずは、変革への個人的なアプローチからです。
【変革への個人的なアプローチ】
- 変革への個人的なアプローチは、モチベーションに関する概念・理論に焦点を当てています。この分野は、大きく「欲求理論」と「期待理論」に分かれます。「欲求理論」は、マーレイ、そしてマズロー(欲求段階説)やハーツバーク(衛生維持要因と動機づけ要因)が今でも有名です。「期待理論」はブルーム/ローラーが代表格です。欲求理論は主に職務設計、キャリア開発、人間関係トレーニングに適応されてきましたが、期待理論は欲求と報酬制度の双方に適応してきました。
- ハックマン/オールダム(1980)の職務デザインモデルは、欲求理論と期待理論の双方を基礎とするものです。
欲求理論は余りにも有名ですね。ODメディアでは、変革への個人的なアプローチ理論の中で期待理論を取り上げます。この理論は、1970年代から提唱されている理論ですが、日本のODの中ではあまり活用されていないようです。この理論の特徴は、欲求を刺激しても期待される行動を実践するとは限らないということです。要するに「やる気」だけを刺激しても行動には移らないといいます。「やる気」を重視する日本文化には合わないのでしょうか。では、以下期待理論の3つの仮説をみていきましょう。
【仮説1.】
人間は自分の行動が特定の結果(outcome)に繋がっていると信じている。つまり、特定のタスクを達成すれば特定の報酬(reward)を受けるというパフォーマンスと結果に対する期待がある。
【仮説2.】
結果あるいは報酬は、人が違えば価値(もしくは誘発性、誘意性)も違ってくる。外発的報酬に法により多くの魅力を感じる人もいれば、内発的報酬を重視する人もいる。
【仮説3.】
人間は自分の行動を成功する可能性と関連させている。これは努力と選択する行動への期待である。人間は努力すれば達成可能かもしれないと思えると頑張るが、あまりに高い目標は最初からあきらめる。つまりそのような高い目標は期待しない。これは、目標達成に対する主観的確率の問題です。
したがって、人間は
- 自分の行動が特定の報酬に繋がっていると実感でき
- この報酬(外的報酬であれ、内的報酬であれ)が自分にとって価値あるものであり
- 結果としてその報酬を手にすることができるというレベルで仕事をする
場合、高いモチベーションをもつのです。
さらにこの理論は、自分の行動が特定の結果もしくは報酬につながることを信じている場合でも、どの程度モチベートされるかは、報酬がもつ価値と、努力すればその報酬が得られるという主観的確率との掛け算で決まるとしています。つまり、一方だけではモチベーションは高まらないということです。別の言い方をすれば、モチベーション=主観的確率×誘意性ということになります。実務に関わる人たちからすれば、至極まっとうな理論であると思います。少なくとも私はそうですね。
ODの視点で見ると、現在流行りの対話型ODは参加者の世界観に対する新しい意味づけを促進するものですが、そこで出てくる新しい世界観だけではやはり実践という変化にはつながらないのではないでしょうか。そこには、その世界が実現すると当事者には何が得られるのかという報酬と、その世界を実現させる主観的確率の向上が高まるような方法が明示されないと実践行動にはつながらず変化は起きないということです。
参考文献:[組織開発]教科書
この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。