• 組織の<重さ>とOD⑦~組織の<重さ>と組織デザイン② 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-236~

組織の<重さ>とOD⑦~組織の<重さ>と組織デザイン② 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-236~

前回のODメディアから、組織デザインの主要な側面である「計画と標準化、社会化・組織文化、ヒエラルキー、水平的調整機構、社内ネットワーク、組織プロセス変数(コンフリクト解消、リーダーシップ)」と組織の<重さ>との関係を考察した内容を掲載しています。

 

【社会化・組織文化と組織の<重さ>】

社会化・組織文化と組織の<重さ>をどのような質問で確認しようとしたのかは、なかなか興味があるところです。そのことを説明する前に「社会化」という言葉について確認します。「社会化」とは、組織に新しく入ってきた人に対して、同じ組織の人間としてどう振舞い、どう考えるべきかを指導し、徐々にその組織の人間へと変えていくプロセスをいいます。別の言い方をすれば、「社会化」とは新しいメンバーに組織文化を内面化させていくプロセスということができます。社会化のプロセスについては、集団凝集性(あるいは帰属意識の強さ)と同調圧力の強さという質問がなされています。また、社会化プロセス、言い換えればその組織の組織文化を理解していくプロセスについて、作法一人前期間とタテマエの裏にある本音(を理解する)期間という質問が盛り込まれています。

作法一人前期間は、「一人前に仕事をできるように会社内の一般的なルールやマナーを身につけるのに、平均的な人材では入社後どのくらいの時間が必要でしょうか」という質問によって測定されます。

タテマエの裏の本音期間は、「社内のフォーマルな会議の場でやり取りされるタテマエの議論から背後の本音を推測できるようになるのに、平均的な人材では入社後どのくらいの時間が必要でしょうか」という質問で測定されています。

この2つの質問は、相関性が高いことから「組織難解性」という変数に集約されています。これらの項目と組織の<重さ>の相関はどうなっているのかを、以下組織の<重さ>研究に従って紹介していきます。

調査対象となったBUでは、新人は平均して14カ月で一般的なルールに慣れ、約3年でタテマエの裏の本音を推測できるようになるデータとなっています。加えて、最大値・最小値の相違を見ています。作法一人前期間は最小値が3.9ヶ月、最大値が3年半程度。タテマエの裏の本音期間の最小値は4.8ヶ月、最大値が7年程度でした。結構な開きがあります。また、これらの期間の長さは組織の<重さ>と非常に強い正の相関を示しています。つまり、一任前に作法を身につけ、会議中のタテマエ議論から本音の話をくみ取るのにかかる時間が長くなるほど、組織は重くなる傾向が見られます。様々な研究で、「強い組織文化が外部世界への適応を困難にする」という指摘が多数ありますが、組織の<重さ>研究ではこの理由を「強い組織文化が内向き志向を強め、弛んだ組織を創り出す」という経路を通じて生じていることなのかもしれないと分析しています。

研究では、ミドルたちの組織への愛着・コミットメントなどの高さを測定すべく、平均的なミドルたちがこの組織からどれほど離れがたい気持ちを持っているかを尋ねていて、それを「集団凝集性」と呼んでいます。この集団凝集性は、組織弛緩性と負の相関を示しています。凝集性の強い組織では、おそらくフリーライダーが押さえられるからではないかと推測されています。

面白いのは、逸脱行為への指摘(研究では態度批判)がどのような影響を与えるかについてのデータです。この態度批判は、内向き調整志向と正の相関を示しています。態度批判は、部下や同僚を諭し、集団メンバーとして望ましい方向に導こうとして行われる行動だと思われますが、実際にはフリーライダーの発生やリテラシー不足を解消することはできず、むしろ内向きの調整志向を強めてしまう傾向がみられるのです。分析では、このことについて「皮肉な結果だ」とコメントしていますが、納得できる部分も多くあります。態度批判は、従来の組織文化の規範で指摘するのであって、それは新しい挑戦的な行動をむしろ阻害しているといえます。組織文化の変革に迫られている企業では、悩ましい問題ですね。以前のODメディアで、ポジティブな逸脱について紹介したことがありますが、従来のやり方や組織文化から逸脱することは、よくよく見てみると組織に新しい機会を生み出すにもかかわらず、やはり難しいのですね。

事実データでは、態度批判は組織の<重さ>に対する直接的影響は小さいのですが、新規活動の調整比率への総合効果では比較的大きな値を示しています。態度や考え方そのものまで踏み込んだ批判をする組織では、おそらく調整の議論が長くなると共に、批判を恐れての根回しに多くの労力がとられるのが理由と考えられます。

また、正規従業員の平均年齢は、組織難解性に正の相関があります。組織メンバーの高齢化は、同じメンバーでやり取りした同世代集団が多くなることを意味し、新人にとってはますます難しい組織になっていくということなのでしょう。この正規従業員の平均年齢と組織規模(人数)という変数は、組織の<重さ>やその周辺変数と非常に密接な結びつきを持つ変数であるということです。端折っていえば、大企業であるほど組織が重いと感じるのは納得ということでしょうか。いずれにしても研究では、強い組織文化(組織難解性)は、組織の<重さ>と正の有意な相関があることが確認されています。私たちが普段そうではないかと直感的に思っていることが証明されたデータが得られたということです。

参考文献:組織の<重さ>2007

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。