• 組織の<重さ>とOD⑨~組織の<重さ>とパワー分布① 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-238~

組織の<重さ>とOD⑨~組織の<重さ>とパワー分布① 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-238~

ODメディアでは、組織デザインの主要な側面である「計画と標準化、社会化・組織文化、ヒエラルキー、水平的調整機構、社内ネットワーク、組織プロセス変数(コンフリクト解消、リーダーシップ)」と組織の<重さ>との関係を考察した内容を掲載しています。今回はパワー分布と組織の<重さ>の関係についてです。組織の<重さ>では、ヒエラルキーの機能として情報処理メカニズムと共に、意思決定パワーの分布に注目しています。組織開発(OD)では、パワーの所在をどのように認識するか、また変革に向けてパワーをどのように取り扱っていくのかは大きな課題です。そのような点から、組織の<重さ>とパワーの関係の調査は興味津々というところです。さて、この分析を見ていく上で幾つかの注意点を確認しておきます。

  • 調査は主力商品やサービスのモデルチェンジという状況を想定している。
  • 回答者には、モデルチェンジの基本コンセプトを決める意思決定において、誰(どの階層、どの部門)がどの程度の影響力を持つのかを7点尺度で尋ねている。
  • 階層別のパワー分布については、モデルチェンジにおける基本コンセプトへの影響力を各階層がどの程度発揮しているかを以下8階層について7点尺度で評価してもらう。
    • 本社トップ
    • 事業本部やカンパニーのトップ
    • 全社レベル職能担当重役(中央研究所やマーケティング本部、企画部など)
    • BU長(注:BUはBusiness Unitの略 )
    • BU内職能部門長(BU職能長)
    • 部課長レベル
    • 主任レベル
    • 担当者
  • 文中で使用される軽量級、重量級という用語は、軽量級=組織が比較的軽い、重量級=組織が比較的重いという意味で使われている。

本社機構は、①から③の最大値を持って本社の影響力という変数にまとめられています。

 

最初に、コントロール・グラフと呼ばれる(加護野他, 1983;Lawrence and Lorsch, 1967;など)階層別影響力をプロットした図(組織の<重さ>,P109, 図6-1)の分析を見ていきます。図そのものは、組織の<重さ>を参照してください。

  1. 重量級のグラフの傾きが、軽量級に比較し急峻である。
  2. 軽量級のパワーの総量(全階層のパワー得点の合計)の方が、重量級のそれよりも大きい。
    • 重量級よりも軽量級の方が部課長級以下のパワーが大きい。
    • 重量級よりも軽量級の方がBU長のパワーが大きい。
  3. 重量級よりも軽量級の方がBU職能長のパワーが小さく、BU長のパワーが大きい。

 

グラフの特徴をもう少し詳細に見ていくことにします。

  • グラフの傾きで分権と集権の程度を見ることができます。グラフの傾きが急であるほど上位層と下位層の間のパワー・ギャップが大きいことを示しますので、そのような組織は集権的であるといえます。逆になだらかな場合は分権的といえます。このようなことから、なだらかなグラフになっている軽量級の組織は分権的である、すなわちモデルチェンジにあたっては、下位層も一定程度の影響力を行使できるということが分かります。
  • パワー総量という点で見てみましょう。コントロール・グラフから見ると、組織内のパワーはゼロサムではないということが分かります。具体的には、組織の上から下まで自分たちの意見が影響力を持つと考えている組織もあれば、組織の上から下まで自分たちには影響力がないと考えている組織も存在するということです。パワー総量という視点は、組織の<重さ>では、有能感にあふれた組織と、無力感に溢れた組織があるといってよいという表現を使っています。
    • BU長のパワーの強さを見てみると、軽い組織の方が重い組織に比較し強い影響力を持っています。しかし、軽い組織はBU職能長以下も影響力を持っていると認識しています。
    • 重い組織は、BU長よりもBU職能長の方が強い影響力を持っており、それ以下の下位層の影響力は極端に低くなります(グラフの下降程度が急峻)。
    • 軽い組織では、影響力の強いBU長の下に、やはり影響力の強い部課長級が存在するということが分かります。
  • 課題の時間軸(短期、中期、長期)とBU長のパワー占有率の関係を見ているグラフ(図6-2, P116)を見ると、BU長のパワー占有率は軽い組織も重い組織も、どちらも短期よりも中期そして長期と時間が長くなるにつれて占有率が大きくなる傾向にあります。しかしながら、傾きを見ると軽い組織では短期から長期に至るまでの影響力は非常になだらかな線を描いている(約62%から68%)のに対して、重い組織では急な傾き(約40%から60%)になっています。パワー総量は、軽い組織のBU長の方が、重い組織のBU長よりも大きいことも分かります。階層パワー間の分布グラフ(コントロール・グラフ)との関係から見て、重量級の組織では、短期的な問題に関して、BU長よりも職能部門の影響力を皆が意識して仕事を進めている傾向がみられるとの分析がなされています。図6-1および図6-2から、職能別組織の長が強い発言力を持つ組織は、組織内の調整が内向き志向になりがちであるという傾向が読み取れました。このようなことから、組織の<重さ>プロジェクトは以下のようにまとめています。「軽い組織は、機械的組織の特徴と有機的組織の特徴を兼ね備えているということができる。組織の<重さ>という観点から見れば、部課長級以下の下位層にも強い影響力があるという有機的組織のイメージに近い状態が望ましい。しかし同時に、事業部組織というフォーマルな構造が提供されており、しかも部課長層よりもかなり強い影響力を持つBU長が存在する、というような機械的イメージに近い状況も軽量級組織の特徴なのである」

なるほど、組織開発(OD)を実践する我々にとって、これは十分に理解しておかなくてはならないことです。ロマンチック・リーダー派のOD実践者は、往々にしてパワーというものに対してネガティブな印象を持ちがちです。どちらかといえば自立した人材で構成されるフラットな自己組織化的な行動がとれる組織を目指していこうとします。しかし、このような試みは下手をすると例外事項の意思決定に対して、いつもメンバー間での調整を強いられ組織が重くなるリスクを孕んでいるということを理解しておくことが必要です。パワーというものは、それがうまく行使されていることが大切であり、パワーそのものを忌み嫌うのは間違いということです。(続く)

参考文献:組織の<重さ>2007

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。