• 組織の<重さ>とOD⑧~組織の<重さ>と組織デザイン③ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-237~

組織の<重さ>とOD⑧~組織の<重さ>と組織デザイン③ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-237~

ODメディアでは、組織デザインの主要な側面である「計画と標準化、社会化・組織文化、ヒエラルキー、水平的調整機構、社内ネットワーク、組織プロセス変数(コンフリクト解消、リーダーシップ)」と組織の<重さ>との関係を考察した内容を掲載しています。今回はヒエラルキーと組織の<重さ>の関係についてです。

 

【ヒエラルキーと組織の<重さ>】

まず、ヒエラルキーとはどのような意味で使われているのかを確認します。「計画や標準化・ルールは事前に決められたスキームに従って組織メンバーを行動させることで組織を運営させる仕組みであるに対して、ヒエラルキーはそこでは処理できない不確実性を事後的に処理する仕組みである(Galbraith, 1977;Mintzberg, 1983;沼上, 2004)」。このような意味で、ヒエラルキーの方がマニュアルよりはるかに柔軟性を持つ組織運営を提供してくれます。ヒエラルキーといっても企業ごとに多様な形態がありますが、ヒエラルキーと組織の<重さ>について分析結果の結論から述べると以下のようになります。

『組織の<重さ>は、BU長とミドルのコミュニケーション経路が短いほど、またBU長がミドルに命令や指示の背後の理由を説明しているほど上下のフォーマルな情報流が多くなり、その結果として組織の<重さ>が軽減される』という調査結果が確認されています。

では、研究の詳細を見ていくことにしましょう。ヒエラルキーは「支配するもの」と「支配されるもの」をイメージさせるため、多くの人から嫌われる組織概念であるようです。しかし、現場の担当者には判断できないような例外事象の判断を行う場合や、他の担当者との利害対立を含むような調整問題が発生した場合など、組織ユニットの業績に責任を負う判断担当者・調整担当者が必要とされる場面は多いものです。とりわけ近代組織設計の基本である組織の情報処理パラダイムでは、事前に用意されるプログラムや計画などで対応できない例外事象が不確実性と定義され、その例外事象の発生量(不確実性の程度)という判断を行う人々の認知能力(組織の情報処理能力)とのバランスをとるように最適な組織構造が設計されると考えます。情報処理パラダイムに基づいた組織設計では、ヒエラルキーの本質は例外事象の上司による判断であり、組織設計に不可欠な要素であるといえます。(Donaldson,2001 ; Galbraith,1977 ; Mintzberg, 1983 ; Simson, 1965 ; Thompson,1967)。

企業組織にとってヒエラルキー(上司による例外判断)は、例外判断に関するコミュニケーション・チャネルという観点からも捉えるべきです。(中略)このようなヒエラルキーの捉え方から、組織の<重さ>ではミドルがBU長まで情報を伝達する際に公式にたどるヒエラルキーの長さ(フラットか縦長か)や、そのヒエラルキーを通して命令を伝える際に、どの程度その命令の背後にある理由の説明を受けているか、ヒエラルキーの上下間でどれほど情報が流れているかなどを調査しています。そしてこの調査の結論は先に述べた通りです。結論以外の、幾つかのトピックスを紹介します。

  • 公式・非公式ルートが長いからといって、必ずしも新規活動の調整比率も高いとは限らない。調整を担うミドルとロワーの間で、背景知識が共有されているほど調整は容易になるから、ルートの長さは調整比率にはさほど影響を与えないといえる。
  • 全社戦略に関する情報を非公式に入手している程度とBU戦略に関する情報を非公式に入手している程度は共に組織の<重さ>とプラスの有意な相関がある。つまり、非公式情報を入手している程度が高いほど組織の<重さ>が増す傾向にある。ヒエラルキーがうまく機能していない場合、ミドルがその欠点を補うために社内のネットワークを使って自主的な努力で情報を補うのが適切な行動と思われる可能性が高いが、このような行動はむしろ組織の<重さ>を助長する行動である。
  • 非公式な情報入手割合と全体としての情報把握程度の間にはほぼ相関がない。つまり、BU長が現場の悪い情報を非公式に手にしている割合が多いからと言って、現場の悪い情報の全体を把握しているとは言えない。
  • 全社戦略とBU戦略にしても、非公式な情報入手が多いとしても、それは全体としての情報入手が多いとは限らない。

 

このようなトピックスは、当たり前のように見えて実は重要な知見であるようです。すなわち、内向き調整志向が強く、弛緩した組織において、調整が難しいと考えているミドルたちは、往々にして、自分たちの非公式な努力によって戦略情報を収集し、伝達しようとする傾向があるようですが、実際には、組織が重くなっている場合に努力を傾けるべきこと、つまり<重さ>を解消するために必要なことは、戦略に関するフォーマルな情報源を増やすための改革(公式な情報ルートの確立)であり、公式な情報ルートの機能マヒを非公式な努力を持って補完することではないのです。

戦略に関する情報を中心として、ヒエラルキーのラインに沿った上司⇔部下間の情報伝達や、会議を通じた情報伝達など、公式ルートでの情報伝達が組織の<重さ>にとって重要な原因変数であるといえます。つまり、公式ルートでの情報伝達の効果性を高めることが組織の<重さ>を軽減するように働くということです。ヒエラルキーの機能は疎かにできないのですね。

参考文献:組織の<重さ>2007

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。