• 組織文化とOD㉛:文化変革をリードするリーダーの能力②~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-229~

組織文化とOD㉛:文化変革をリードするリーダーの能力②~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-229~

内部から変革をリードするリーダーに求められる6つの能力。今回は4.5.6.についてです。

  1. 知覚と洞察
  2. 動機づけと技能
  3. 情緒面の強靭さ
  4. 文化的仮定を変革する能力
  5. 関与と参加の創造
  6. ビジョンの深さ

今回は文化的仮定を変革する能力からです。

【文化的仮定を変革する能力】

文化的仮定を変革する能力とは、文化変革において、古い文化を放棄し、新しいビジョンとコンセプトを明示し、それを組織全体に売り込んでいくプロセスを管理する能力のことです。E.シャインが「組織文化とリーダーシップ」を著した1980年代後半には、いわゆる対話型組織開発、またその実践形態である大規模組織介入手法は実施されていましたが、「組織文化とリーダーシップ」には方法論としては紹介されていません。少なくともアメリカでは、まだ主流ではなかったのでしょう。文化的仮定を変革するプロセスにおいて、対話型ODは効果的な手法であり、トップと少数のスタッフが主導する変革プロセスよりは、従業員参加型で対話を重ねていく方法は変革成功確率が高くなるという調査(G.ブッシュ 下記図参照)もあります。

どのような方法であろうと、リーダーが変革プロセスについて責任を持ってコミットメントすることが必要です。ここでよくよく考えておかなくてはならないことは、ビジョンや理念を文章で改めて発表しても、リーダー自身がそれを実践し、日常の業務システムや評価制度を再構築しないと、仏つくって魂入れずの状態になってしまうということです。

 

【関与と参加の創造】

組織変革においては、リーダーは孤高の人ではなく、その集団メンバーと一緒になって変革を成し遂げていく必要があります。つまり、メンバーに頼らなくてはならないのです。従って、リーダーは単にリード(指導)するだけでなく、聴く耳を持つこと、集団を巻き込んで文化変革のジレンマに対する集団自身の対処能力を高めること、そして変革への参加を真剣に求めるという能力を発揮しなくてはなりません。リーダーが理解しておかなくてはならないことは、文化変革には構成員の頭の中で認知的再定義が起こる必要があるということです。これは、社会構成主義的な考えです。組織文化の構造をもう一度確認しましょう。文化は、「目に見える行動や規範」「人々が口に出す価値(観)」そして「信じていること/基本的仮定」から成り立ちます。従って、究極的には人々の世界観(認知)が変わらなければ、文化は変わらないということです。そして、人々の中で認知的再定義が起こるのは、人々がその変革プロセスに積極的に関与したときに限られるということです。組織全体が変革への洞察を深め、モチベーションを発展させない限り、どのような変革であろうと現実の変革は起こりようがないのです。

 

【ビジョンの深さ】

変革においては、ただ目標を提示しシンボルを売り込むだけでは十分ではありません。目標やシンボルの基盤となる仮定は、それらが集団や組織の主要問題を解決し、他の文化的仮定と適合していることが求められます。そのような意味でリーダーは、まだ明確には表現されていない思想や感情に対して深い洞察を加え、ビジョンを紡ぎ出していくことが求められるのです。シャインは、アタリ社の例を持ってビジョンの深さを説明しています。

「親会社のワーナー・コミュケーションズが、アタリ社のマーケティングを改善するため、ある食品産業から熟達したマーケティング幹部を引き抜き、アタリ社の社長に据えるということをしました。この人物は、成功へのカギは高度の動機づけと個人成績に基づく十分な報奨であるという仮定を持って乗り込んできました。彼は、新しいコンピューター・ゲームの発明と設計で最大の実績を上げた技術者を抜擢するようなインセンティブ・システムを考案し、それを売り込み、多額の金銭的報酬を与えるようにしました。ところが、ほどなく一部の最も優秀な技術者が続々と退職し、同社は技術的苦境に陥ったのです。何がまずかったのでしょうか。間違っていたのは、インセンティブや報奨を個人の努力にもとづいて査定するという仮定でした。この社長が理解できていなかったのは、コンピューター・ゲームはチームによって設計されるということであり、技術者たちが個人に責任を割り当てることは不可能かつ不必要と考えていたことです。技術者たちはチームの成員であることに喜びを感じており、チームに対するインセンティブであれば喜んで応じたに違いないのです。残念ながら、新社長の構想は間違った仮定でありシンボルだったのです。また、新社長が技術畑の出身でなかったことも、「優秀」という定義に対して間違った過程を犯すことの原因になったようです。アタリ社の技術者における「優秀」の定義は集団的努力の結果であって、個人の明晰さではなかったのです。このようなことで、新社長は長く社長の地位に留まれませんでした」

 

要するに、変革をリードするリーダーに求められる6つの能力はこれを同時に最高に発揮する必要があるのです。組織文化変革へのチャレンジは、まさに組織のリーダーの最も重要な仕事といえるでしょう。

さて、E.シャインは「組織文化とリーダーシップ」を締めくくるにあたって、「最終的な意味」というタイトルでまとめをしていますが、要約して確認しましょう。

「リーダーの重要な役割が文化の形成と変革の双方にあるとすれば、文化の管理者の育成という内容をリーダー開発に組み込まねばならない。アメリカは自己実現にあまりに力点を置きすぎていたため、文化管理という意味でのリーダーシップ(自分のためというより他者、組織のためにコミットする)それ自体に人気がない。個人的成長と人間的潜在能力開発を志向するリーダーシップ開発トレーニングは、自己実現の延長上にあるリーダーシップ訓練である。このような過程は、アメリカの組織が世界的諸条件の変化に、今後ともうまく適応できる能力を持ちうることに貢献できるか再考しなくてはならない。リーダーシップと文化の管理は、組織を理解し組織を効果的にせしめる上で極めて中心的な課題である。リーダーシップと組織文化を別々に考える訳にはいかないのである」

 

31回の長きに渡って、みなさんと共に学習してきた「組織文化とリーダーシップ」も今回が最終回です。筆者も今更ながら、ODの主要ターゲットである組織文化の変革について深く考える機会を持つことができました。それにつけても、少なくとも私が知っている日本企業におけるリーダー開発プログラムは技術的側面に偏重しているなと思いました。今回の30回の連載が、皆さまの組織におけるリーダーシップ開発やアジャイルな組織づくりに少しでもお役に立てれば幸いです。

参考文献「組織文化とリーダーシップ;E.H.シャイン」