• 組織の原則を知り、そのルールを守るのが組織運営の大前提です ~ソモサン第241回~

組織の原則を知り、そのルールを守るのが組織運営の大前提です ~ソモサン第241回~

組織運営のルーツは軍隊にあり!

皆さんおはようございます。

人間が生存していく条件として集団を形成したのはこれまでも話したことですが、この集団の動きを最も効率良く単純化させたのが組織です。そしてその中でも他の組織に対抗してそれに打ち勝つために生み出された組織が軍隊組織です。

更に皆さんもご存知のようにビジネス組織の原型も軍隊組織にあります。

従って企業組織における組織の在り様とその運営は軍隊組織のそれに準じます。事実企業組織に対して初めに組織論を持ち込んだマック・ウェーバーは軍隊組織をモデルにしています。つまり企業における組織運営の基本は軍隊組織の論理であり、それを管理するマネジメントの基本もその論理が前提となります。

それは日本においても同様で、戦後欧米をモデルに経済体系や経営体系を構築した中で、日本の組織運営も基本は軍隊組織における合理性を元に生み出され、運営されて来ています。その中には時代における環境の変化に応じて変化した内容もありますが、原則として不変な内容もあります。不変というよりも「普遍」的な原則といった方が正しい内容です。

ところが、戦後20年程は欧米の指導や支援もあってそういった理屈や実践は各企業において教育的に形式知としてしっかりと導入刻まれていきましたが、学習能力の高い日本人がそれによって欧米を凌駕する様になるに及び、それはもはや当たり前の様に認知され、教育や組織運営の技法なども徐々にアドヴァンス的な内容になり、ベーシックなものは扱われなくなっていきました。

以来50年が経過し、今や各企業においてはベーシックな組織運営の原則は形骸化し、実際には組織内に「マネジメントに関する体系的な知識がない」というのが実態になって来ています。

実際、軍隊の組織論と聞くと、精神主義一辺倒であると考える方もいらっしゃる状態です。これ自体が組織運営の基本を知らない証です。現実には軍隊ほどよく研究され体系化が図られてきた組織はほかにない、といえるほど洗練されています。何故ならば彼らの理屈には自らの命が掛かっているからです。

ともあれ、軍隊と企業は目的を達成するための組織であることは共通であり、同時に軍隊における「指揮官」は民間企業における「マネージャー」そのものといえます。

ということで今回は「組織におけるルール、管理の基礎」というよりも「組織運営の原理・原則」をご紹介していきたいと思います。

「三面等価の原則」は前回ご紹介させて頂きました。

これは職位と仕事を与える際、以下に記す三つを等しく委譲しなければならないという考えです。

①権限(Authority):職務に見合った権限と自由裁量

②義務(Responsibility):職務を遂行し達成する責任

③責任(Accountability):職務の実行結果を関係者に報告し説明する責任

これらが職位にあったコミットメント(公約)としての目標を中心に正三角形のように均等に作用しなければならない、という原則です。ここには組織内の上下関係やそれぞれの立場(分)の在り方が含まれています。良くいう「分を知る」とか「分を弁える」といった言葉はここに由来してきます。換言すると分を弁えない言動や行動をする人がいるということは三面等価が認識されず浸透していないということです。

また上司と部下の関係は、三角形の頂点の一つである権限を繋ぎ(リンキングピン)として、上司が組織と公約した目標の範囲内で出来る自由裁量の中で委譲される、よりミニマムな公約を目標として部下がそれに責任を担うという図式になりますが、このことは上司の責任における等価性と部下の責任における等価性の差異から見ても歴然で、上司の責任を部下に背負わせる道理は何処にもありません。しかし現場では結果を問う上司が多々います。この態度自体が原理原則への無知を醸し出しています。組織的にこれを看過していては組織は必ず崩壊の危機に瀕します。実はこれも上司は上司として分を弁えろということを指しているのです。

三面等価性の原則は、アメリカ陸軍の野外戦闘マニュアル「ストライカー旅団戦闘チーム」に同様の表現がありますが、このマニュアルから導入された考え方の様です。

上位者が下位者へ仕事を委任し、権限委譲をする際に必ず行われるべきルールが三面等価の原則です。軍隊における指揮官は、下位の指揮官へ任務を与えます。例えば、大きな作戦の中では小さな戦いが幾つも発生しますが、上位の指揮官が全員を細かに指揮することはできません。従って、それぞれの小さな戦いについては下位の指揮官へ任せることになります。

この際、責任・権限・義務の三つを適切に委譲しなければ、任務の成功は難しくなります。上位のリーダーが下位のリーダーへ任務を与える際、責任・権限・義務を等価に分割して委譲しなければなりません。三角形は組織のトップから末端に至るまで維持する必要があります。

企業におけるマネジャーも同様です。大きな部門の長が、部下にとある仕事を任せるとしましょう。このとき、部門長はリーダーとなる部下へ権限・責任・義務の三つを適切に委譲しなければ、仕事の成功は難しくなります。上記の様によくある失敗はリーダーとなる者へ義務だけとか責任だけといった一つだけを与えることです。部門長はリーダーへ義務と同時に必要な権限を与え、更に結果の説明・報告の責任を行わせる必要があります。またリーダーは、説明・報告を確実に実施しなければなりません。

見通しが立たないビジネスの戦場を生き抜くためのマネジメントの「教訓」:統一の原則

さて、仕事を取り巻く環境は常に変化します。「競合他社が同様のサービスや製品を提供した」「所属企業の業績が悪化したために部門の予算が削られた」などさまざまです。こういった環境下でマネジャーは往々にしてあいまいで不確かな情報に基づいて意思決定を下す必要に迫られます。例えば、仕事の詳細な工程が明らかでなくても作業開始の指示を出さなければならない、突発的なトラブルへ迅速に対応するために指示を出さなければならない、などです。

軍隊における指揮官も同様に、常に変化する戦況と不確かあいまいな情報に基づいて意思決定を下す必要に迫られます。特に、軍事行動においては「最善を尽くしても、必要な情報は四分の一しか得られない」といわれており、しばしば「戦場には霧がかかっている」と表現されます。霧の中にあっても、指揮官は最適な意思決定を下さなければなりません。このため、軍隊においては意思決定を下す手助けとして「教訓」が与えられています。

例えばアメリカ陸軍の「OPERATIONS」および陸上自衛隊の「野外令」は「戦いの九原則」という教訓を設けています。この中でビジネスにおける組織運営にも応用されている原則をご紹介させて頂きましょう。

まずは「「統一の原則(Unity of Command)」についてです。

統一の原則とは指揮系統を一元化し、軍隊全体の方向性を統一することです。まずは一人の指揮官に必要な権限を与えることです。日本にも「船頭多くして船山に上る」ということわざがあります。船頭つまり方向を決める人が多いと、迷走したあげく全員がとんでもない方向に行ってしまうという例えです。そして次にその指令の流れや報告の流れは一元化して、一本の流れに統一するということです。

せっかく一人の指揮官に権限を与えても、そこに情報や報告が集中して流れて来なかったり、歪んで入って来たりしたら的確な意志決定も指示も出来ません。また有効な指示や情報がタイムリーにかつ的確に現場に流れなかったら、折角の意志決定や指示も現場に伝わらず、実践として現出されなかったり、欠けたものになったり、歪んだものになったり、返って逆効果になったりと散々なことになってしまいます。そしてその責任を当該の指揮官が背負わせられるといった事態に陥ったら、もはや誰も組織を信じて責任を担うことは無くなってしまうことでしょう。この最悪な事例を紹介したのが新田次郎による「八甲田山死の彷徨」という事実に基づいた小説です。青森の八甲田山で軍事訓練中に起きた、指揮官に対してその上官が横槍を入れたことによる全滅劇は悲惨を上回る話です。映画でも有名な話なので、指揮系統の一元化を学ぶには是非観ることをお勧めします。

軍隊でも民間企業でも、現実には様々な方向から圧力がかかり、指揮系統が多重化したり、組織の意思決定が統一されないことが往々にして発生します。こうなると仕事は迷走することになります。だからこそ、統一の原則が重要となるのです。マネジャーは上下左右の関係者と調整し、協力を取り付け、指揮系統と全体の方向性に対して可能な限り統一を保つよう努めなければならないのです。しかし、それ以前に組織に従事する全ての人がまずは原則、つまりルールを認識して、それを厳守することが大前提として求められます。

ルールは正しく理解して認識しなければなりません。例えば現代のリーダーシップ研究においては、リーダーシップ、つまり影響力の行使は「状況対応」が重要であるということが唱えられています。状況対応とは、「置かれている場によってリーダシップは使い分けられなければならない」ということです。具体的には仕事における指示系統としての場と、非公式な相談や助言といった場とは異なるし、また遊びの場などでの仕切りといった場も違った影響力が発生するので、これらは一元化してはならないということです。

研究ではこの3つの影響は同一人物では不可能であるということが分かって来ています。仕事での指揮と悩みの相談とを同一人物が行うと往々にして矛盾が生じるといった不具合が起きることがあります。仕事の指揮におけるアプローチのあり方に不安や不満がある場合、同一人物に相談など出来るでしょうか。また仕事で権威を示している人が遊びで中心的にはちゃけていたら、それは仕事に影響を全くしないと言えるでしょうか。

この様な研究の中で、指令系統の原則も、上っ面だけで教条的にその原則を厳守しようと動くと不具合が出てくるということがあります。司令系統の原則はあくまでも仕事の流れです。全ての流れ、相談や遊びなどまでも一人のマネジャーが仕切ると却って不具合が出るということを認識する必要があります。「あいつはあのマネジャーの下だから口出しをしてはいかん」といった考え方は教条的、頭でっかちの頑固者です。ここでは融通という考え方が入ります。皆さんも迂闊に人がやめてしまう状態を生み出さないように気を付けて下さい。

その見切りはやはり経験が重要な要素になってきます。知識と経験、両方を得ることで、皆さんのマネジメントがより良いものになることを願っています。

あいまいな作戦は必ず失敗する:目的の原則

では続いて、目的の原則をご紹介致しましょう。

目的の原則とは、目的や目標の設定、およびその追求の二つを意味します。ここでいう目的や目標とは、明確に規定され、重要な意義があり、達成可能である、という条件を満たさなければなりません。そして組織活動の軸足は全て目標において為されていかなければなりません。

端的に表現するなら、組織活動は目標達成の為に存在し、常に「達成すべきことは何か」がわかりやすく明文化され、実現に向けて統率され、行動がなされる必要がある、ということです。

目的の原則は最も重要であり、根本ともいえる原則です。戦史の負け戦の多くに「目的・目標のあいまいさ」を発見することができます。同様に、失敗した仕事や活動には例外なく「目的・目標のあいまいさ」を発見できます。

例えば、達成不可能な目標を設定しているのであれば、見通しのどこかにあいまいさがある、ということです。マネジャーは仕事の目的や目標は何か、意義あるものか、範疇は明確か、達成可能かどうか、常に念頭に置き、メンバーに周知徹底する必要があります。

私はこの組織における目標のことを「コミットメント(公約)」と表現しています。

次回は続いて他の原則を順次ご紹介していこうと考えております。

それでは皆さん、次回のソモサンも何卒よろしくお願い申しあげます。

さて皆さんは「ソモサン」?