• 組織文化とOD㉗:変革戦略の選択② 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-225

組織文化とOD㉗:変革戦略の選択② 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-225

E.シャインの変革プロセス5分類は、その人の変革に対するメンタルモデル(認識)を示しています。誰しも、その経験から「変革」を成し遂げる際に活用するモデルや方法論を頭の中に描いているものです。今回のODメディアはその5分類の紹介です。

  • 一般進化プロセスとしての変革
    • このモデルは、変革の力は内部から出てくるというものであり、進化論的な考え方です。そしてそれは段階的に移行するというものです。組織のライフサイクルは、生物学的進化からの類推にもとづいていることを意味しています。例えば、多くの理論化によれば、組織は、独裁的組織から家父長主義的組織に移行し、さらに官僚主義的な組織並行し、その次は課題重視の組織となり、参画的な組織へ移行するというものです。
    • このような進化論的なモデルは、一つの段階が来るとそれはメリットと共に必ずデメリットがあり、そのデメリットを修正することによって次の段階に移っていくというものです。例えば、独裁は意思決定が早くスピード感はあるが、下部組織はトップに依存しやすく、トップがいなくなると組織が機能不全になる。だから、次はどのような人がトップでも組織が機能するようにルールによって組織を運営しようとする、それが行き過ぎると官僚的な組織になり変化に素早く対応できなくなる、というようなものです。一時期はやった「ティール組織」も進化論的考え方が根底にあります。
    • チェンジエージェントの立場としては、何を変革の動機づけとするかは難しいとも言えます。それは、組織にとってネガティブなマイナスの状況になることにより、組織が変化していこうとすることを意図的に作り出すことができないからです。現状組織がうまくいっている場合は、次の段階に進めることを提示しても、当事者にとってはメリットがあることではありません。「いま、うまくいっているじゃないか」と言われることが多いのです。

 

  • 順応あるいは学習プロセスとしての変革
    • 変革は、外部環境の変化に対して適応・順応しようとすることから引き起こされるという考えです。環境の特性によって、集団の反応はポジティブに評価されたり、逆にネガティブに評価されたりします。いずれにしても、組織はネガティブな状況に置かれると、それへの自然な対応として生存の機会を最大限にするような選択をします。例えば、それは従業員の解雇(早期退職奨励)であったり、事業売却であったりします。
    • このモデルを持っているチェンジエージェントは、変革の推進力として環境的操作(例えば、制度や仕組みを変えること)を強調するでしょう。あるいは、組織の当事者に外部環境の変化を認識させることで変革への機会を意識させることになるでしょう。

 

  • 治療プロセスとしての変革
    • 治療モデルを前提とする変革は、変革は内部の人たちと外部の人たちとの相互作用の結果として起こる、そしてその相互相の中で組織の順応性や適合性を高めていくと考えます。変革は、特に内部のチェンジエージェント(変革のリーダー)の行動に影響されると考えます。
    • 組織の人々は個人としてよりも、相互に影響を与えあう社会システムを構成する人々であると考えます。かつ、組織文化の変革に最も関係が深いのは、人々の行動に影響を与えている認知の違いと、集団内の相互影響関係によって行動する人間という考え方です。従って、チェンジエージェントとしては、関係性の変化にメスを入れるという方法で変化を起こそうとします。これは、家庭という小集団でも適応されます。基本は、行動変容が大きい個人に対して、どのようにすれば行動変革が可能かという視点で働きかけが行われます。例えば、妻からの叱責や不満の表明で意気消沈し無気力になって、簡単な家事や雑用ができなくなった夫の場合、妻に対して夫の行動を注意深く見てもらい、夫が積極的に行動しようという兆候が見えた場合は、これを積極的に褒め、夫に対しては、問題は落ち込みではなく責任を持っていないことを認識させ、家事の分担について責任を持つことを奨励するというような事です。
    • 組織においてこのモデルを適応するのは、以下のような例になります。上級管理者グループが、事業運営である問題を抱えている場合、その問題がなぜ起こっているのかということを各人の役割という視点から議論してもらいます。それぞれ本来はどのような役割を担うことが効果的事業運営に必要なのか、そして現在はどのような役割と関係性になっているのかを話し合います。そして、改めて相互の関係性の中で、各人がどのような役割を担うことが求められるのかを確認します。このような過程では、個々人が誰かを非難するのではなく、自分の役割を再定義することが要求されます。こうすることで、上級管理者グループというシステム全体が変化していきます。

 

  • 革命的プロセスとしての変革
    • 組織での変革は「権力:Power」が重要な変数であると信じる人たちは、革命的プロセスとしての変革を想定しているといってよいでしょう。業績不振による経営者の交代、方向転換、組織再構築は通常、支配陣営側の権力喪失を意味することから、小規模の革命と考えることができます。労使間の衝突、経営陣内部の権力闘争、委任状獲得闘争は、根底にこのモデルがあります。
    • とはいえ、革命的プロセスにおける権力の移行が、組織文化を変えるということにつながるかといえば、必ずしもそうではなく、往々にして既存の組織文化をそのまま継承してしまいがちです。権力は、リソースの現実的な支配、リワードや処罰の権限獲得、重要な情報の所有といった意味で定義図けられますが、それは文化変革ではありません。革命的プロセスは、そういった意味で権力の奪取そのものが目的となり、それは必ずしも組織文化の変革につながらないのです。

 

  • 管理されたプロセスとしての変革
    • 管理されたプロセスとしての変革は、治療理論の延長にあると考えてよいでしょう。チェンジエージェントは、管理可能な変革課題に焦点を当て変革を実施していこうとします。これは、レビンの変革理論とシステムにもとづいているといってよいでしょう。K.レビンの変革理論とシステムは、「力の場の理論」として知られています。場の理論は「B=f(P,E)」の公式で表されます。Bは人の行動(Behavior)、Pは個人(Person)、Eは環境(Environment)で、個人の特性とその人が身を置く環境、双方の関数として行動が決定される、つまりある人の行動はその人の人柄や性格だけでなく、その人がどのような場にいるか、その両方の影響を受けて決まるという意味です。
    • 管理されたプロセスとしての変革の立場では、環境(Environment)に焦点を当て、人々が今の行動を選択してしまっていることに何が影響を与えているのかを分析します。何は、現状には現状を変えていこうとする力(推進力)と、現状をそのままに押し止めようとする力(規制力)として捉えられ、変革には推進力を増大させるよりも、規制力を取り除く方が重要であるとしています。この一連の分析と変革実施は、凍結状態→希望する姿の提示→規制力と推進力の分析→解凍→変革活動の実践となります。この一連の変革プロセスをチェンジエージェントの支援の下、当事者自身が実施していくことで、変革が行われることになります。

 

私たちは、変革プロセスについて自分がどのような暗黙のモデルを持っているかを明確にしないで、変革について議論しがちです。このような場合、結局、議論は混乱と意見不一致に終わる可能性が高いでしょう。組織は、外部環境への適応と内部の統制という問題について常に積極的に働きかけます。これらの問題について効果的に対処するのがリーダーの責務といってよいでしょう。リーダーは、自分自身の変革に対するメンタルモデルをよく理解しておくことが求められます。(続く)

参考文献「組織文化とリーダーシップ;E.H.シャイン」

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。