• 組織の<重さ>とOD⑩~組織の<重さ>と社内ネットワーク 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-239~

組織の<重さ>とOD⑩~組織の<重さ>と社内ネットワーク 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-239~

今回のODメディアは、組織の重さと社内ネットワークの関係についてです。

組織の重さと社内ネットワークの関係では、タテの情報交換やパワーの配分が主であるヒエラルキーに対して、それを補う水平方向のコミュニケーションについても分析しています。水平方向のコミュニケーションは、フォーマルなものとインフォーマルなものがあります。フォーマルなものは、例えば代表的な構造としてマトリックス組織や調整担当職(リエゾン・オフィサー)があります。インフォーマルなものは社内人脈であり、このネットワークを通して実質的な調整がなされるということが企業組織内では頻繁に観察されます。この2つのコミュニケーションプロセスについて、組織の重さとの関係を先に結論として述べると、フォーマルな水平的関係は組織の重さとの相関が低く、インフォーマルな社内ネットワークの広がりはかえって組織の重さを増す可能性があるというものです。そもそもインフォーマルな社内ネットワークの広がりは、日本企業の強みである創発戦略を生み出す重要な基盤であると捉えられてきましたが、それも過剰になると重い組織になるということです。以下、組織の<重さ>の分析にしたがい詳細を見ていくことにします。

 

組織の<重さ>では、水平的調整機構採用数(P131、表7-1)という分析データがあります。また、採用された水平関係の数と組織の重さ(P132、図7-1)というデータもあります。水平的調整機構は、例えば「マトリックス組織」「調整担当者(リエゾン)」「職能横断的な定期会合」「職能横断的な不定期会合」「職能横断的な人事異動」です。調査では、これらの水平的調整機構と組織の重さの相関関係は必ずしも明確ではないようです。一つだけ言えるのは、フォーマルな水平的調整機構は軽快な組織にみられる特徴ではなく、重い組織にみられる特徴でした。重たい組織だから水平的な調整機構を採用しているのか、水平的な調整機構を採用しすぎて却って組織が重くなったのか、その因果関係は定かではありませんが、少なくともマトリックス組織やリエゾンを採用することで組織の重さに関連する問題を解決できるとは限らないということです。

フォーマルな水平関係が有効でなかったとしても、インフォーマルな社内ネットワークについては多くの実務家や啓蒙書が重要な水平的な調整手段として認識しているようです(Halal, 1994; Malone, 2004)。しかし、これまで有効と思われていたものが、実はそうではないという知見は実に面白いものです。まず社内ネットワークとはどのようなことを意味するのか、組織の<重さ>調査が実際に使用した質問を見ていきます。質問は5項目が作成されています。

  • BU内の知人(BU内で名前と顔の一致する人の数)
  • BU外かつ社内の知人
  • BU内の説得対象者(自分の意見を表現するために説得するべき人の数)
  • BU内の支援者(自分の意見を実現する際に積極的に支援してくれる人の数)
  • BU外かつ社内の支援者

以上5つの質問に対して(a)目上と(b)ほぼ対等の2対象について尋ねているので実質10の質問になります。この質問による記述統計が社内ネットワークの記述統計(P135、図7-3)として整理されており、以下のような解説があります。

  • BU内の知人・社内の知人に関しては、多い人で百数十人、少ない人で数人とバラつきがある。BU内では、目上と対等でそれぞれ40人程度。知人数の平均値を合計すると目上と対等を合わせて社内に190人ほどの知人を保有している。
  • 支援してくれるネットワークはこれよりはるかに少なく、平均するとBU内の目上・対等がそれぞれ3~4人程度、BU外の目上・対等がそれぞれ3~4人程度である。全てを合計しても全社内に14人程度しか支援してくれる人はいない。
  • BU内で説得しなければならない相手の数は支援者の数よりも多い。目上では平均5人程度、ほぼ対等で4人。説得するべき相手の数はBU内で9人である。これに対してBU内で支援してくれる人の数は約7人である。

 

説得しなければならない目上の人数が、支援してくれる人よりも多いという平均像は、日本の大企業が置かれている組織が重たくなる状況を示しているようです。

組織内ネットワークと組織の重さ(P137、表7-4)では、BU内の目上の人で説得の必要な数は組織の重さと強い正の相関関係(0.419)を示しています。この項目の内訳をみると、内向き調整志向との相関0.362、組織弛緩性との相関0.416となっています。

BU内目上の知人数についても、組織の重さと強い正の相関関係(0.402)を示しています。この項目の内訳をみると、内向き調整志向との相関0.329、組織弛緩性との相関0.419となっています。組織の重さと負の相関を持っているのは、唯一BU外からの支援者の数です(-0.179)。因みにBU内目上の支援者の数は、組織の重さと正の相関関係にあります。ほぼ対等の人々のネットワークの広がりは、組織の重さにとってプラスにもマイナスにもなっていません。「目の上のたん瘤」とはよく言ったもので、組織の場合は目上の人たちとのネットワークは「気にしなければならない人たち」という意味で組織の重さと強い正の相関があるのですね。社内ネットワークと組織の重さとの関係ではパス分析(パス分析とは、変数間の因果関係の大きさと重要性の両方を推定する分析方法。P142、図7-3)がなされていますが、この中で社内ネットワークの広がりに影響を及ぼす2つの変数がモデルに投入されています。2つの変数とは、BU内の正規従業員とその平均年齢です。高齢化や組織の肥大化(要するに大企業になった組織)は、一般的には組織劣化要因であると言われます。そして、このような組織劣化に対しては、むしろ組織内ネットワークの発達を促せという提案がなされてきた向きもありますが、組織の<重さ>の調査では、逆にネットワークの増大は重たい組織をつくることになっているという現実が見えてきたのです。組織の<重さ>研究では、サンプルの問題があるにせよ、日本を代表する大規模企業のBUには、既に社内ネットワークが過剰に発達しているものが多く存在していることが明らかになりました。有機的組織の特徴であるヨコ・斜めとの相互作用とそれを支える社内ネットワークは、組織運営を容易にする、つまり組織の重さを軽減すると考えられがちですが、少なくとも組織の<重さ>研究では社内ネットワークの広がりは組織の重さを軽減するのではなく、むしろ増加させる方向に作用しているようです。組織内ネットワークを広げれば、創発戦略を生み出すプロセスがうまく作用するという単純な図式は成り立たないということです。通説に惑わされないようにすることは大切ですね。次回から、リーダーシップやパワーという要素と組織の重さについて見ていきます。(続く)

参考文献:組織の<重さ>2007

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。