• 組織文化とOD⑲:組織文化の変革③~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-217~

組織文化とOD⑲:組織文化の変革③~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-217~

今回からのODメディアは、組織文化の変革について、ジェイミ・フレスコが実際にNUMMIの生産ラインに入って体験したことから、私たちも何が学べるのかを見ていきます。まずNUMMIと、旧GMフリーモント工場の経営の基本的な違いを理解することからスタートします。ODメディアではケースからの抜粋なので、詳細を読みたいと思われる方は「隠れた人材価値:翔泳社」を参照してください。ではまず、ジェイミ・フレスコの経歴を簡単に紹介します。

『ジェイミ・フレスコは、1982年(NUMMI設立の2年前)製造部門の監督者としてビュイック・シティのプラントに就職し、以後GMの製造部門で働いてきた。1997年スタンフォード大学のスローン・プログラムの参加者に選ばれる。スローン・プログラムはジェネラル・マネジャーになるために成績優秀者が選ばれるプログラムであり、1年間の集中の修士課程である。ジェイミはNUMMIの実績について相当聞き及んでおり、4半期ごとに北米グループの組み立て工場の同僚たちとトヨタ生産方式の検討会にも参加していた。NUMMIから学ぶために、自分の工場からNUMMIに人を派遣したこともある。とはいえ、ジェイミも他のマネジャーと同じようにNUMMIの成功には皮肉な見方をしていた。』

このような時に、スローン・プログラムへの参加ができるということは、ジェイミに兼ねてから考えていた実験を敢行させる決意をさせることになったのです。それは、NUMMIの生産ラインの職工として雇ってもらうということでした。NUMMIの幹部や人事部門に掛け合い、ジェイミは実際に2週間組み立てラインで働くことになります。彼は、自分が持っている製造に関する十二分の知識を活用し、数々の数値が示す通り、NUMMI方式は本当に優れているか実地検証したのです。結果は、ジェイミの予想以上でした。

 

【NUMMIの組み立てライン】

ジェイミは、他のNUMMI就職希望者と同じように採用される過程を経験することから始めています。そこでは以下のような経験をしています。

  • 時給労働者たちと一緒に筆記試験、面接試験を受ける。教育訓練プログラムも経験。この試験にジェイミはとても驚く。NUMMIの志願者はほとんどがNUMMIで働いている人間や家族からの紹介だった。その意味で、応募者は組立ラインでの仕事についてかなりの予備知識を持っていた。
  • NUMMIでは最初に、3か月の訓練とオリエンテーションが用意されている。これには、エアロビクス、トヨタ生産方式の説明、提案制度の運営方法、標準作業工程の重要性、スクローリング(金属の曲げ工程)、溶接、職場の人間関係、チーム・プロセス、適切な精神的姿勢を持ち続けることの重要性についての徹底した話し合いが行われる。これは、どんなに厳しい作業でもやり遂げるだけの精神力がある人間しかとらない採用プロセスでもある。
  • 最初の訓練を終えると新規採用者は週に2~3日の割合で現場に派遣される。その後90日間の試用期間中、組み立てラインでの作業時間が増えていく。結果、応募者の80%がプログラム終了までに脱落している。
  • 組み立て現場の4人一組のチームでは、リーダーは時給労働者だったが作業のカイゼンのアイデアを提案することを奨励していた。チームの中だけの取り決めだが、2時間ごとに担当を交替していた。メンバーに人間工学的な観点から気分転換の機会を与え、負担をみんなで分担するようにしていた。
  • チーム内のピア・プレッシャー(メンバー同士がお互いにプレッシャーをかける)は強烈である。交替した後でも人手が必要なら自発的に残って仕事をする。ジェイミ自身はこのようなことに慣れていなかったが、NUMMIの従業員はそれを本気でやっていた。ジェイミは、かねての計画通り幾つかの手抜きを試してみたが、どの場合もチーム・メンバーから非難・警告を受けた。メンバーは、チーム・リーダーがいない場合失敗をフォローし、気を付けるように注意した。また、彼らはやりそこないの仕事の修正を手伝ってくれた。ジェイミは、2週間働いた結果、現場の従業員達の立場から見て、驚くほど作業のしやすいシステムになっているのが分かった。

 

ジェイミは、自動車業界で勝ち抜くには、時給で働く職工たちをサポートすることが一番大事だと考えていましたが、NUMMIではジェイミが考える以上に、そのサポートができていたのです。NUMMIの生産プロセスは、ラインの従業員をサポートすることに焦点が当たっていたのです。NUMMIでは人事部門が、予算の承認、契約の変更・訓練、工場運営の責任などを担っていました。つまり、GMの他の工場と異なり、NUMMIには工場を動かすノウハウのある人事部門が存在するのです。他のGM工場は、人事部門は工場からずっと離れていたところに置かれていました。ではなぜ、GMの他の工場ではできていないことが、NUMMIではできているのでしょうか。何が変わったから、ジェイミが腰を抜かすような現場が実現したのでしょうか。次回からそこを見ていくことにします。

参考文献「隠れた人材価値;C.オーライリー、J.フェイファー」

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。