• ~リーダーとマネジャー①~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-148

~リーダーとマネジャー①~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-148

今回からのODメディアは、知る人ぞ知るアブラハム・ザレズニックのリーダーとマネジャーです。一般的にはリーダーとマネジャーの違いということで理解されているようですが、ザレズニックのそもそもの問題意識は、リーダーシップをどのように捉えて、どのように開発すればよいのかが出発点になっています。彼は、この答えは社会や組織状況によって異なると言います。リーダーシップの目的や権力の配分や行使の仕方は、当然ながら社会や組織状況によって異なるのです。それはどういうことなのか、彼のマッキンゼー賞受賞論文に従ってリーダーとマネジャーに違いを見ていきましょう。この違いによって、育成方法も異なることが理解できます。

 

産業界におけるリーダーシップ開発は、マネジャー(経営管理者)と呼ばれる人たちを進化させることでこの問いに答えようとしている、というのがザレズニックの認識です。因みに、彼はマネジャーのことを新たな品種と呼んでいます。そこでは、属人的なリーダーシップを超えて集団的なリーダーシップを発揮することで権力を倫理的に行使できる。つまり、一人の人間(個人)を崇拝するのではなく、組織を第一義に考えるという考え方が土台にあります。このようなリーダーシップは、一方において組織の競争能力や統制力を高め、事業部間の調整を図るうえでは効果的だが、残念ながら企業の運命を左右するイマジネーションや創造性、更には道徳的行動を必ずしも担保するわけではないと言います。

リーダーシップの発揮には、どうしても何らかの権力(Power)を行使せざるを得ません。研究者によってパワーの捉え方は異なりますが、代表的なパワーの源泉は、専門力、情報力、人間力、地位力、関係力、報酬力、強制力です。パワーを公式の力、個人の力、関係性の力の3つに分類(ジェフリー・フェファー:スタンフォード大学)して考える研究もあります。公式の力は、強制力、報酬力、正当権力、情報力の4つです。個人の力は、専門力、同一化力、カリスマ性の3つです。同一化力とは、例えば自分も尊敬する上司のようになりたいと思わせる力で、その極端なものがカリスマです。関係性の力は、そのまま関係力です。

そして、パワーの行使にはどうしてもヒューマン・リスクが伴うので、このリスクを避けるために組織的にリーダーシップを育成しようとします。しかし、その結果、保守主義が蔓延すると言います。どういうことでしょうか。ザレズニックはロックフェラー三世の次のような見解を引用しています。「組織は伝統と慣習に支配されたシステムであり、それぞれが独自の論理を持っている。何か事を起こす場合、以前に試したことがあり、すでに証明されている確実な方法を好み、危険を冒すことを好まず、新しいことをためらう空気が満ちている」

合理性と統制を尊ぶのが経営の理であるとすれば、マネジャーはそのための問題解決者であり、「解決すべき問題は何か」「社員たちが組織の貢献する上で、一番良い方法は何か」について答えを出さなければならない役割を担っているといえます。この前提におけるリーダーシップは、マネジャーが自分の役割を全うするための努力の過程であると言えます。マネジャーは、天賦の才やカリスマ性は必要でなく、忍耐強さ、不屈の精神、勤勉さ、高い知性、分析力、寛容さ、善意などが要求されることになります。これを前提とすれば、企業におけるリーダーシップ・トレーニングは、リーダー育成ではなくマネジャー育成が目的となります。では、このマネジャーが沢山育っている企業であれば、市場や世界において新しい機会を見出し、誰も思いつかないような製品やサービスを提供し、ブレークスルーを成し遂げることができるのでしょうか。つまり、スティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾスといった創造的破壊者が成し遂げたようなことをできるのだろうか、というのが疑問として湧いてくるのです。経営者や人材育成担当者は、ここで困っているんですね。だから、ブレークスルーをしようとする企業でよくみられることが、外部人材の登用です。武田薬品、サントリーなどはその代表ですね。創業経営者が悩むのも、ここですね。ファーストリテイリングの柳井さんはしばしばこの課題に言及しています。そういえば、武田もサントリーもファーストリテイリングも創業一族の個性が強い経営や創業者が存命の企業ですね。トヨタは、一時期創業家以外から経営トップを登用していましたが、創業家へのバトンタッチがうまくできた企業と言えますね。財閥系企業が困っているのは、やはりここでしょうか。ちょっとデータがないので何とも言えませんが。優秀なマネジャー人材を育成してきた企業がぶち当たる壁みたいなものがなんとなくあるような気がしてきました。

では、ザレズニックに戻りましょう。彼はどのような提案をしているのでしょうか。先ず彼は、マネジャーとリーダーは動機、経歴、思考、行動様式において全く別の種類であると言います。ザレズニックはそれを、目標の違い、仕事観の違い、人との付き合い方の違い、人格特性の違いという4つの視点から見ています。次回から、この4つの視点の内容を見ていきます。(続く)

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です