• 組織文化とOD⑱:組織文化の変革②~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-216~

組織文化とOD⑱:組織文化の変革②~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-216~

組織文化の変革について、前回の最後に、「依頼する側が正しいかどうかは別として、言葉にするのは困っている課題や問題な訳です。それを何とかしたいのです。ですから、シャインも『組織(文化?)変革』と言っているわけです」というように書きました。実はこれに加えて、組織文化の変革を計画する場合、「変革の度合い(レベルあるいは強度)」というものを理解する必要があります。変革といってもその度合いは様々です。この度合いについての認識や説明は幾つかあると思いますが、以下の3つの分け方は参考になると思います。

①レベル1.オペレーションの変革(Developmental Change)

これは、現在の活動を、より巧みに/より速く/より安くやることを目指すものです。

 

②オペレーションモデルの変革(Transitional Change)

これは、事業領域/目的の変化はないがそれを根本的に違う方法でやることを指すものです。例えば、ネットフリックスはDVDの郵送から、ストリーミング映像のウェブ配信へと移行し、さらに、他者が制作した作品をただ流すだけでなく、自社のオリジナル作品の制作に多くの投資をするようになりました。

 

③戦略と構造の同時変革(Transformational Change)

これは、会社の本質的な部分を変えることを意味します。すなわち、事業ドメインが変わる、事業運営の本質が変わるというものです。例えば、帝人が繊維事業から在宅酸素医療に進出するようなことです。繊維事業と人の命を扱う事業では、理念からオペレーション・システムまですべてが異なります。この事業は、現在は帝人ファーマとして別会社になっています。DXはこのレベルでの変革です。

 

もちろん、「戦略と構造の同時変革(Transformational Change)」がもっとも変革の強度が高く、構造的側面だけではなく組織文化の変革が必須となり、新しい組織文化の植え込みは苦労するでしょう。日本のセブンイレブンが、イトーヨーカ堂からスピンアウトした理由がよく分かります。

とはいえ、どのレベルにおいても文化の変革は必要になってきます。そこで一般的には最も多いオペレーションの変革(Developmental Change)レベルの組織文化変革事例として、GMとトヨタの合弁会社であるNUMMI(New United Motor Manufacturing)の生産性向上という事例を取り上げます。NUMMIは1984年に設立され、GMの破産宣告がなされた2009年に合弁事業が解散されましたが、2010年からテスラ・モーターズによって電気自動車の共同生産に用いられています。名称も「テスラ・ファクトリー」に変わっています。事例は、1984年の設立から1990年代にかけての物語からの抜粋です。出典は「隠れた人材価値;チャールズ・オーライリー、ジェフリー・フェーファー、Harvard Business School Press」です。

NUMMIの事例の書き出しにこんなフレーズがあります。「老いた犬に芸を仕込むのは大変というが、老犬(GM)を若返らせて、旺盛な活気を回復させることができるのだろうか」。答えは、Yesです。NUMMIは閉鎖されたGMのカリフォルニア工場を再建してスタートします。この時にトヨタが経営に加わりますが、トヨタがこのジョイントベンチャーに加わった理由は以下のようなことです。

①アメリカ市場に足場をつくること

②アメリカの部品メーカーとの付き合いを実地で学ぶこと

③トヨタの製造方式や経営方式がアメリカ人の従業員に適応するのかどうかを体験学習すること

GM側は、トヨタの生産システムを体験したいと考えていました。UAW(全米自動車労働組合)の委員長は、日本人と共同で働くことで何かチャンスをつかめることを期待していました。UAWのGM委員長も同じ期待をもとにNUMMIに入ります。ケースに書かれている1998年の時点でNUMMIは、GMの全ての工場の生産性を上回り、最高品質の車を製造しています。NUMMIには、特別の労働力があるわけでもありません。後述しますが、スタート時の労働者の80%は前工場閉鎖時点での労働者の再雇用です。また、新規の技術や生産ラインはありません。GMフリーモント工場時代と全く同じ組合があります。にもかかわらず、なぜ最高品質の車を造れるようになったのでしょうか。以前の経営陣は無残な失敗を重ねるばかりであったのに、新しい経営陣は同じ従業員を使って非凡な成果を上げているのはどうしてなのでしょうか。このミステリーの謎を解くために、ケースでは自動車製造の経験が長いジェイミ・フレスコの経験をもとに紐解きをしています。次回から、ジェイミ・フレスコが実際にNUMMIの生産ラインに入って体験したことから、私たちもNUMMI物語から何が学べるのかを見ていきましょう。(続く)

参考文献「隠れた人材価値;C.オーライリー、J.フェイファー」