• 組織文化とOD⑭:植え付けのメカニズム②~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-212~

組織文化とOD⑭:植え付けのメカニズム②~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-212~

ODメディア前回からの続き、組織文化の「植え付けのメカニズム」の2番目は、組織の重大な出来事に対するリーダーの反応です。組織の重大な出来事、すなわち危機は、戦争や気候変動などの明確な外的条件の変化というものもありますが、多くの場合、「危機の知覚」は情緒的反応であり、その組織や個人に影響を与えている文化の反映であるといってよいでしょう。例えば、ロシアのウクライナ侵略を考えてみましょう。ウクライナが現実問題として、何かロシアに危機をもたらすようなことをしていたのでしょうか。それとも、プーチン大統領の知覚の中に危機があったのでしょうか。これに対しては既に様々なところで、さまざまな人が意見を述べていますが、すべて知覚ですよね。ロシアがウクライナを攻撃する前に、ウクライナは何もロシアに対して攻撃を仕掛けるようなことをやっていないのです。であるにもかかわらず、ロシアはウクライナを攻撃しているのです。これを情緒的反応と呼ばず、なんと呼べばよいのでしょうか。少なくとも論理的ではないのです。

無数の企業が、売り上げの減少、在庫過剰、技術の陳腐化などといった危機に直面してきました。そして、この危機に対してリーダーがどのように反応するかは、部下に対して絶大なる認知物語(ストーリー)を植え付けるのです。二つの例を挙げてみましょう。

最初の事例は、ODメディアで何度も紹介している伊那食品工業塚越寛氏(現最高顧問)の事例です。塚越さんがこの会社に入って15年ほどたった頃、粗末な設備のせいで社員が仕事中に重傷を負うという事故(危機)が起こります。安全を確保するためには、最新設備の導入が必要だが、それは大変高価で、当時の会社の体力では簡単に買えない。といって、危険な労働環境をそのままにして社員を働かせるわけにもいかない。進退きわまり、一時は会社をたたむことさえ考えたそうです。どうにかして資金を調達し、清水の舞台から飛び降りるつもりで設備投資をした。やってみると予想以上に仕事が順調にいき、すぐに借金が減った。どういうことかというと、社員たちの士気が高まり、以前よりやる気を出してくれたからです。塚越さんは、このときの設備投資は、社員の安全を確保しなければならないという一心から実施したといいます。このできごとから「社員がもっと快適に、もっと幸せになるためという動機で動き出すことが大事だ」との想いが深まったという。爾来、動機が純粋であれば仕事はうまくいく、というのが塚越さんの信念になり、ブームに乗った事業の拡大などよりは、社員を大切にする経営を実践しているのです。

 

二つ目は、東京大田区にある弁当屋の玉子屋の例です。玉子屋も以前のODメディアで取り上げていますので、エッセンスを紹介します。この会社大田区の弁当屋ですから、創業時は大卒の人材なんて入ってこない。だから社員は大田区の暴走族とか、ひねくれていた悪ガキ連中です。この会社の悪ガキが、お客さんから「ありがとう」と言われて感激。今まで感謝された経験がなかったからまた頑張る。ある時この玉子屋、食中毒事件を発生させ一週間の営業停止を食らっています。ほとんど倒産の憂き目にあっているのですが、「そんな時、悪ガキの社員がお客さんに土下座してお詫びして回ってくれた。自分も一緒に回ったがあの事件があって今の玉子屋がある」そうです。現会長の菅原さん(当時社長)は、やるべきことを持つ元気な若者は必ず成長し社会に貢献する、といいます。菅原さんは「みんな楽しく働いて家一軒持てて、夫婦仲睦ましく暮らしてもらえるのが私の務めだと」と言うのだそうです。

この事例、どちらも危機の時にリーダーがどのように反応したかが、組織文化を植え付けているのですね。玉子屋の場合は、倒産危機の時に、それまでのリーダーの言動がすでに社員に影響を与えていて、菅原さんも改めて経営の何たるかを学んでいます。米国のサウスウエスト航空も、創業期に運航許認可をめぐる法廷闘争で金がなくなり、SW航空での唯一のレイオフとなる3人のレイオフをしていますが、以降レイオフはありません。SW航空は、それ以外でも従業員を大切にする破天荒な会社として人々に認知されています。

ポジティブな組織づくりという視点に立てば、どちらのケースもネガティブ(危機)な状況の中に、ポジティブな芽を生み出しているのです。それが、その後の組織文化を形成しているのですね。組織が聞きに直面した時、リーダーやその他の人たちがその危機に対処する仕方によって、新たな規範や価値や業務手続が生まれ、組織運営の根底に横たわる重要な仮定が露呈し、明示化されていくのです。(続く)

参考文献 「組織文化とリーダーシップ;E.H.シャイン」

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。