• 組織文化とOD⑬:植え付けのメカニズム① ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-211~

組織文化とOD⑬:植え付けのメカニズム① ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-211~

前回からの続き、組織文化の「植え付けのメカニズム」とは、やや硬い言い方ですが、組織のリーダー(創業者、トップマネジメント)が、意図的であれ、無意識であれ、どのようにして組織文化をつくっていくのかを意味する言い方です。リーダーの発する、一貫した行動であれ、矛盾した行動であれ、部下はそのメッセージに対して順応していきます。まぁ、順応せざるを得ないという方が現実を正しく言い表しているかもしれません。このような場合でも、出現してくる文化は、単にリーダーの仮定を反映するだけでなく、部下によって創出された複雑な内的順応プロセスを反映します。例えばそれは、リーダーとの間に緩衝材としての管理階層をつくっていくとか、下部組織に独立した会議体を儲けて、現場の実情に合った仕事の仕方を開発していくとかです。とはいえODを実施しようとするチェンジ・エージェントは、リーダーのどのような思考と行動が組織文化の植え付けに影響するのかを理解しておくことが大切です。それを理解しておくことは、変革の手段や方法を選択することに役立ちます。

シャインは、文化の植え付けのメカニズムを「一次的植え付けのメカニズム」と「二次的植え付けのメカニズム」に分けて説明しています。一次的植え付けのメカニズムの方が強力であり、二次的植え付けのメカニズムは、一次的植え付けのメカニズムと整合性を持っている場合のみ効果が発揮されます。では以下に、一次的植え付けのメカニズムと二次的植え付けのメカニズムのリストを上げます。順番は、文化の形成に影響を与える強さ(シャインの考察)の順番になっています。

【一次的植え付けのメカニズム】

  1. リーダーが注目し、測定するもの。何に報い、何を罰するのか
  2. 組織の重大な出来事に対するリーダーの反応
  3. リーダーによる役割モデリング、教育、指導
  4. 報奨や地位を与える基準
  5. 募集、採用、選抜、昇進、退職、免職に関する基準

【二次的植え付けのメカニズム】

  1. 組織のデザインと機構
  2. 組織のシステムと手続き
  3. 物理的空間や建物の設計(オフィス・レイアウト)
  4. 重要なイベントや人物に関する物語、伝説、神話
  5. 組織の倫理規定、設立趣意書、価値観などについての公式な表明/文書

 

以下、各項目についての詳細を見ていきましょう。

  • リーダーが注目し、測定するもの。何に報い、何を罰するのか

リーダーが注目し、測定するもの。何に報い、何を罰するのか。つまり、何に対して一貫性のある関心を払い、逆に関心を払わず、時に感情的に激怒したりするリーダーの行為は、その組織(会社)の特徴ある文化、すなわち競争上の性格を形成します。大切なことは、関心の強さではなく一貫性です。シャインは、D.マクレガーが対処した事例を持ってこのことを説明しています。

マクレガーは、ある会社から管理者開発計画の策定を依頼されたのですが、依頼した社長の期待する教育訓練の開発計画の提案ではなく、報奨制度の構築と進捗状況をチェックするための一貫性のある方法を設定することを提案したのです。結果、依頼した社長は、上級管理者の年間ボーナスの半分は過去1年間に自分の直属部下の能力開発のために何を行ったかにもとづいて決定すると発表し、加えて社長として何か特定の腹案を持っているわけではないが、4半期ごとに上級管理者の一人ひとりに部下育成のために何を行ったかを質問するつもりだと述べたのです。その結果はどうだったかといえば、上級管理者は一連のそれぞれ異なった活動、とはいえそれは既に組織内にあった育成方法を体系的に統合したものを展開し、2年ほどの時間をかけて首尾一貫した計画が練りあげられ、会社の人材育成に大いに貢献したのです。社長は4半期ごとの質問を続け、年に一度、上級管理者一人ひとりが能力開発のために何をしたのかについて評価を行いました。社長は、計画めいたものを強要しなかったのですが、管理者開発に対して一貫して注意を向けることで、組織に対してそれがどれほど重要なことであるかをはっきりとメッセージしたのです。

 

経営および組織運営において、計画策定がなぜ重要かといえば、リーダーが注意を向けていることを、計画策定のプロセスを通して伝えることができるからです。だからこそ、計画策定のプロセスは極めて重要なのです。その意味において、計画内容はもちろん重要ですが、計画策定のプロセスを通して、リーダーが部下に対して何に注意を促すかはとても重要であり、それによって部下はリーダーの意図を汲み経営や組織運営について何が重要なのかを学習していくのです。また、学習は論理的なものだけではなく、ある特定の問題に対するリーダーの情緒的爆発(バカヤロー、とか、何やってるんだ、といった類の強烈な叱責)によって学習されます。部下たちは、その爆発は苦痛であるため、それを回避しようと努めます。そのようなプロセスを通して、部下たちはリーダーの仮定(重視していること)を採用するようになっていきます。一方で、リーダーが関心を示さない事柄については、組織メンバーは、それは重要ではないという学習をすることになります。例えば、品質管理上の不祥事が長期間表に出なかったというような事例は、リーダーが品質管理上の事柄について一貫性のある関心を示していなかったのが大きな原因かもしれません。

そして、リーダーが注目し測定する仮定も、時代と共に環境や市場の要求とズレが生じてくる場合があります。例えば、開発部門は自分達がつくる製品こそ顧客が求めているものであるということをリーダーの言動により学んできたとしても、そのこと自体が揺らいでくるような状況になった場合、どのような選択を迫られるでしょうか。ひょっとしたら、リーダー自身が、自分がつくってきた仮定すなわち会社のポリシーがもはや通用しなくなっているということに気づいているかもしれません。しかし、そのことに対して部下が諫言することは、リーダーが強力であればあるほど憚られます。そして、リーダー自身も一貫性のある行動を失っているにもかかわらず、組織的な仮定は修正されず続いていくことになるのです。こうなると、組織的成功の源であった強力な仮定(文化)は、組織の機能不全を助長するモノになってくるのです。(続く)

参考文献 「組織文化とリーダーシップ;E.H.シャイン」

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。