• 組織変革における状況対応リーダーシップ③ ~161 組織開発(OD)の実践って、どうするの?~

組織変革における状況対応リーダーシップ③ ~161 組織開発(OD)の実践って、どうするの?~

前回からの続き:アグリーメント・マトリックス右上部で必要なリーダーシップは対話のリーダーシップです。右上部は、これまでの組織活動がうまくいっている状況です。ですから、組織メンバーは現状を維持するために喜んで協力し、組織内には一枚岩ともいえる合意が出来上がっており、それが揺るぎない組織文化を支えています。MITのE.シャインは、「組織文化とは、環境への適応や社内の結束に向けて問題解決を図る中で、集団に属する人々が共通して学び取った前提条件である」と定義しています。前提条件とは、物事を進めていく上での基本的な考え方や信条です。そしてそれは、新しいメンバーにも組織での生き方や所仕方として伝えられていきます。組織文化が強固な組織では、人々は世の中の動きについて同じような認識を持つため、目的を実現させる方策についても、さしたる議論もなく合意が形成されます。要するに、セルフ・マネジメントが機能しているのです。しかし、このような状態は、環境が変化していく中では、それを無視してしまうようになり、「成功がもたらす失敗」を招いていくことになります。そして、変革が必要であるとリーダーが訴えても、多くの組織メンバーはそれに激しく抵抗します。このような組織で、強権的なリーダーシップを発揮すると、ほとんどの場合それは悲劇的結末を迎えます。HPでカーリー・フィオリーナがやらかしてしまった失敗は、まさに強固な組織文化を持っていたHPの変革に、強権的な鬼上司タイプのリーダーシップを発揮しようとしたことです。正義と正義のぶつかり合いは、概ね失敗をもたらします。従って、右上部にある組織の変革には、リーダーは先々を見ながら現状組織を漸進的に変革していく対話を重視した組織開発アプローチが求められるのです。ODメディアの今回のリーダーシップシリーズの1回目に紹介した4つの要件を満たす対話のリーダーシップです。

  • 開放的な話し合いが為されている
  • 忌憚なく意見が出されている
  • 形式にこだわらない
  • 実行計画が作成されること

このような対話を重ねることで、メンバー間の思い込みとズレを修正し、新しい環境に適応していく思考と行動を醸成していくのです。とはいえ、全てのメンバーがそのような思考と行動に変容していくとは限らず、組織を去っていく人たちもいます。血が出ない変革はないということです。

 

さて、4つの象限に対して変革のリーダーシップはどうあるべきかを見てきました。そこで、クリステンセン等は、変革のリーダーシップには何が必要であると主張しているのか、改めて取り上げている事例を紹介しながら見ていくことにしましょう。

  • 権力無くして変革は成し遂げられない

これ、当たり前のことを言っていると思いますが、組織開発の研究者や支援者には、権力を嫌う人たちが結構多いのです。ですから、草の根運動を推奨するのですが、組織や社会で草の根運動を継続して成功させるには、やはり強い後ろ盾や、草の根運動を引っ張るレジリエンスに満ちたリーダーが必要なんですよ。特に、混乱に陥った組織では「権力なくして変革なし」です。1990年代後半のNISSANを思い出してみましょう。晩節を汚してしまいましたが、全権を掌握しコストカッターと言われたゴーンさん無しではNISSANの再建はなかったはずです。

  • 「危機を生み出せ」は、変革の動機づけにはならない

コッターを始めとして、変革研究者は「危機を生み出すこと」が変革には欠かせないと言います。本当にそうでしょうか。確かに、強固な組織文化を持っている組織は、環境の変化に鈍感となり、物事が見えなくなっている場合があります。ですから、危機を生み出せというのは分からないでもありませんが、よほどうまくやらないとそれは失敗します。J.スカリーがCEOを務めていた時期のApple(1980年代後半から1990年代半ば)がそうでした。当時Appleは「カルト的文化」をもった組織であり、常に業界の革新者でした。そういう時期にデルなどのニューカマーが、成長期の市場に適応する戦略を持って挑戦してきたのです。それに対して、スカリーはマーケティングの常識に沿った戦略を提唱します。すなわち、「低価格市場に適応した製品の投入」、「Appleの製品設計を公開し、自社OSを販売する」、「パーソナルコンピューター市場への積極的参入」です。具体的には、ビジョンステートメントの策定、組織改編、人員削減、管理制度の整備、金銭的インセンティブの拡充、研修の充実、業績評価制度の改善、業務手順の標準化、営業力の強化、など右下のポジションで取るべきマネジメント手法を駆使して社員の協力を仰ごうとしました。しかし、この提案はことごとくAppleの社員から抵抗を受けます。そして、スカリーは93年に失脚し、その後二人のCEOが選ばれますが、どちらもマネジメント的手法を採用し、やはり数年でお払い箱となるのです。この混乱は、ジョブスが復帰するまで続きました。そして、ジョブスがやったのは皆さんご存知の通りで、Appleに存在した目的と文化を活かす戦略の採用です。製品群を絞り込み、特徴ある製品、iMacとiPodの投入です。もちろん、すんなりいったわけではありませんけどね。

  • 事業部を分割する

組織分割が効果を発揮するのは、各事業部が異なる目標を掲げて対立していても、コンセンサスを図る必要がないときです。こんな時は事業間のシナジーなど考えずに分割して事業部としての目的と手段の合意を図る方が得策なのです。例えば、HPはレザー・プリンターとインクジェット・プリンターはそのビジネスモデルの違いから別事業として分割しました。IBMは、メインフレーム・コンピューターとは分離してミニコンピューター、そしてPCもミニコンピューターから分離して事業展開しています。当時この分離は、スカンクワークスと言われていました。しかしながら、スカンクワークスも事業執行に焦点を移し持続的イノベーションを成しえなかったならば、先行き暗いものになります。

 

組織変革において、アグリーメント・マトリックスのどの位置が良いかというのは、意味をなさない議論ですが、一般的には左下半分にある状態から、右上半分へ移行させていこうとする、つまり目的と手段についての合意形成をすることが組織変革の目指す姿でしょう。そして、右上部に位置する組織であっても、環境が変われば変革を強いられます。その時、それぞれのポジションに合った変革手法とリーダーシップが行使される必要があります。そして、いずれの場合でも変革をリードするリーダーは、権限と権力を有していることが重要なのです。大切なのはその使い方であり、権限と権力が必要ないというわけではないのです。

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。