• 研修とODって別のことなの?⑤ ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-141 ~

研修とODって別のことなの?⑤ ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-141 ~

(前回からの続き)

ワークショップ第3回目では、設計部門内のチームビルディングを実施しました。このワークショップでは、設計部門全員の関係性を査定し、改善の話し合いを実施するという方法を試みました。これは、チームの協働性開発と呼ぶ手法を使い以下の3つのステップで関係性改善を実施します。

  • 設計部門メンバーの理想的な関係の在り方を確認する。
    例えば、AさんとBさんは常にコミュニケーションをとらなければ仕事が進まない関係なのか、それとも基本的役割さえ明確にしていれば、それほど高い頻度でのコミュニケーションは必要としない関係であるなどのように、設計部門のミッションや取り組むべき課題を遂行する上でどのような関係が求められるのかを確認していきます。いわば、チームメンバーの役割設計のようなものです。
  • 設計メンバーの現状の関係性を確認する。
    これは、理想的な関係の在り方に対して、現在はどの程度それができているかを確認することです。いわば、チームの設計思想と現実のギャップ査定です。このギャップ査定は、全てのメンバー間に対して、全てのメンバー参画の話し合いの中で行われます。つまり、ギャップ査定にはメンバー全員の合意が求められるのです。ギャップの査定は、例えばメンバーが6人だとすれば私を起点に他の5名との関係をすべて査定しますので、検討する関係性は(6×5)÷2ということで15の関係性を査定することになります。

図-2協働関係査定のイメージ図

        

 

  • ギャップが大きい関係性にある2人がギャップ解消の話し合いをする。
    2人1組での話し合いは、他のメンバーも参画して話し合います。6人チームであれば、他の4人のメンバーもその話し合いに参画します。他のメンバーも参画することにより、対象となった2人のみの認知で話合うのではなく、他のメンバーの認知も加えながらギャップの意味やその解消方法について議論が重ねられます。

 

役割設計からギャップ解消の話し合いまで、全てのチームメンバー参画の基に実施することによって、メンバー間はかなりオープンな話し合いをすることになります。このような中では、普段はあまり指摘できないこともかなり率直に指摘できるようになります。このような取り組みは、チームの雰囲気や規範のポジティブな改善に寄与することになります。普段でも、このようなオープンな話し合いができるとメンバーは自分たちの現状をより良く検討できるようになり問題解決はスムーズになります。そして、従来はさけていたようなことにも挑戦していこうというマインドが醸成されていきます。

最終回はこれまでの実践を振り返り、良くなってきたことや生産性が高まったと感じることと、まだ不十分でありさらなる改善が必要と思うことを確認し、継続的な改善活動に向けてのアクションプランを設定しました。

 

その後の成果について許される限りで見ていきましょう。支援時点での会社の売り上げ30億円が、2年後50億円に拡大しています。つまり、設計部門にはこれを支える力がついたということです。設計部門は人員が1.5倍に拡大し、新しい事業分野に進出できる余地も生まれています。受注拡大に対応できる設計部門のチームづくりという当初目標は達成したと言えます。設計部門メンバーの学習という点からも見ていきましょう。営業や生産部門から見て「受け身の姿勢」になっていた部門メンバーの心理状態は肯定的に変化し、主体的に「どうすればよいか」を営業や生産に提案するようになりました。また、チームの協働性を高めていくプロセスで、メンバー同士が今まで表明していなかった気持ちの部分を表明し話し合っていったことで信頼関係が醸成でき、結果として変化対応に柔軟な力がついてきているようです。

 

支援させていただいた外部コンサルタントという立ち位置から、今回のケースを振り返ると幾つかの成功ポイントがあります。

a) A社の社長からみて信頼できる会社での実績が外部コンサルタントにあった。これによって、A社の社長には、話を聴いてみようという姿勢が出来た。
b) 実施に向けての社長の肯定的姿勢
●研修というスタイルでの知識やスキル付与ではなく、当事者に直接働きかけ問題解決の場を持つことに合意していただいたこと。
●実施の際にはワークショップの現場で口出しをすることなく、支援に徹していただいたこと。ただし、実施内容については逐次外部コンサルタントやオブザーブしていただいた総務部長から情報提供を欠かさなかった。
c) 設計部門だけでなく、営業・購買・生産を問題解決の話し合いの場に巻き込んだこと。また、このような全部門参加の対話で実力者である役員のスタンスに対してフィードバックが掛かった。
d) 自分たちで自分たちのあるべき姿を話し合う。
●外部コンサルタントが指針を示すのではなく、自分たちで自分たちの関係性の現状を話し合い、どうすべきかを合意した。外部コンサルタントによる事前のサーベイは、この話し合いのきっかけづくりとしての現状の見える化にすぎない。

 

A社のケースは、優れた成果を上げる上で、当事者である関係者の関係性を議論することがとても重要であることを改めて確認できるケースです。組織の問題解決は、仕事を上手く遂行していくために業務プロセスといった構造的側面に目を向けていく傾向がありますが、現実にはその業務プロセスに携わる人々の関係性があり、その関係性の良し悪しがボトルネックになっていることは、実は多くの人たちが経験していることです。しかし、このような関係性がもたらす影響は普段は面と向かって話し合うことはされず、非公式な場で「愚痴」のように語られることが多いものです。組織開発のアプローチは「集団」という人々の関係性に踏み込んで、なんとなくモヤモヤしている関係性の問題を公式の場で話していく効果的なアプローチであり対話の方法です。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です