• 組織文化とOD⑨:文化はどのように形成されるのか①~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-207~

組織文化とOD⑨:文化はどのように形成されるのか①~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-207~

組織文化について、前回のODメディアでは、文化が持つ機能について見ていきました。今回から、組織文化はどのようにして形成されるのだろうかということについて見ていきます。組織開発は、多くの場合、組織文化を変革していく取り組みでもあります。であれば、組織文化がどのようにして形成されるのかを理解しておく必要があります。シャインは、組織文化の形成を理解する上で中核となるのは、集団力学理論とリーダーシップ理論と学習理論を統合したものになるだろうといっています。では、この3つについてそれぞれどのようなことなのかを見ていきましょう。

 

  1. 集団力学理論~社会力学理論

シャインは、集団力学理論を社会力学理論と名付けています。集団力学は、社会生活における人と人との関係性を扱っているからそう名付けたのかもしれませんね。そして、この分野における研究-訓練グループ、治療グループ、職場グループを仔細に観察する-は人々の情緒的なプロセスを曝け出しました。このプロセスは、私たちが「ある問題について多数の人たちが共通の考え方を共有し共有の解決策を育て上げる」といった場合、それがどういう意味なのかを説明することを助けます。この文脈において「共有」という観念が何を意味するのかを理解することが必要です。では、私たちの間で「共有」ということが如何にして起こるのでしょうか。そのプロセスを知るには、集団が形成されていく過程で直面する幾つかの課題について理解しておくことが役に立ちます。組織文化における外的適合課題と内的統合問題を区別する考え方は、そもそも新しい集団に仲間入りしようとする個人は、他のメンバーたちを当初、自己の外的環境として認識するものだという観察から出発しています。各個人は、他のメンバーに相対しつつ、その集団で生き残らなければならないし、人格的統一を保たなくてはなりません。そこで私たちが理解すべき最初の重要な点は、以下のようなことです。

・自分がその集団の一員であるという気持ちを如何にして持てるのか

・集団に包まれたい/溶け込みたいという願い(個人のアイデンティを喪失する懸念)と集団から自由でありたいという願い(集団からの疎外・メンバーとしての資格の喪失という懸念)との葛藤をいかに解決するか

以下、この懸念に関しての理論的枠組/モデルみを見ていきます。

【集団の関心に対する個人の欲求】

集団で生活する場合、個人は基本的に3つの主要な欲求を持つというモデルです。シャインもこのモデルについて言及していますが、このモデルでとくに有名なのは、W.シュッツです。3つの欲求とは、包含/仲間性:Inclusion、統制力/影響力:Control、受容/親密性:Affection  です。

以下、3つについて補足的に説明を加えます。

  • 包含/仲間性:Inclusion

E.シャインによれば、人は誰しも自分がそのグループの中にいるのか、それとも外にいるのかを知る必要があるといいます。そしてそれは、グループ内での役割をどのようにとるかに影響します。

W.シュッツによれば、集団メンバーとどの程度の関係性を持つか人はそれぞれ欲求の度合いが異なり、集団内に居る(in)と集団の外に居る(out)という行動の違いに現れます。

 

  • 統制力/影響力:Control

E.シャインによれば、新しいグループに入ろうとする人は誰しも、環境を支配したいという影響力と行動力を必要とするといいます。これによって人は、集団への依存と独立ということに対する葛藤に対処しなくてはなりません。

W.シュッツによれば、集団における統制欲求は人によって異なるといいます。常に上に立って統制したいと思うか、それを好まないかによって個々人の取る行動は異なりますし、人間関係の中ではその異なる行動が軋轢を生むことにもなります。

 

  • 受容/親密性:Affection

E.シャインによれば、新しいグループに入ろうとする人は、包含という基本的欲求以上に、ある程度の個人的受容感を持つ必要があるといいます。これが満たされることで個人はそのグループにおける安心感を得ることができます。

W.シュッツによれば、人は誰しも他の人との関係の中で個人的な内面についてよく知り合いたいという度合いが異なるといいます。つまり、心を開いて他者と親密になりたいのか、そういうことは煩わしいことであると思うのかは人によって異なります。

 

シュッツのモデルは3つの欲求の頭文字をとって「ICOモデル」と言われることもあります。このモデルは、欲求と実際の行動の違い、また欲求が感情や自己概念とどのように関係しているのかも説明しています。私(筆者)は、シュッツから学んでいることもあり、シュッツのICOモデルの方が、奥が深いと思います。詳しくは「自己と組織の行動学:春秋社」を参照してください。

いずれにしても、個人の欲求が、安心感や環境支配や愛を求める人間の基本的欲求の反映である限り、それは「障害に出会った場合は不安と懸念」の、「充足される過程においては積極的エネルギー」の強力な原動力として作用します。新しいグループの成員は、グループの創始者を含めて、これら3つの分野で自分自身の欲求を充足させようとして苦闘します。従って、新しいグループがその使命を達成できる機能的グループとして存在しうるのは、メンバーが個々の欲求をある程度充足しうることを学習した上でのこととなります。そのとき初めて、メンバーはグループに関心を移すことができるようになります。このようにして「共有」についての最も強い体験をするのは、全員が同じような不安と疎外感を抱いていることをメンバー全員が発見した時です。言うまでもなく、成人は新しいグループに入るとき、前に所属していたグループ、例えば家族、職業、隣近所、前の会社などから持ち込んだ別のアイデンティティを持っています。しかし、新しい配置の下で、新しいグループが自らの文化を展開するためには、まず新しいアイデンティティを構築し、相互にこれを受け入れる必要があります。実際、グループの中で様々な葛藤が起こるのは、各人が以前の文化的経験や役割を持ち込んでくるからです。もし、個人がたった一つの役割と文化学習を持って新しい状況に対処するのであれば、新しい状況で種々の選択をしなければならないことから生ずる不安や懸念を経験することはないでしょう。

と、ここまでシャインの説明をなぞってきたら、グループにおける個人の欲求充足の問題を理解するのに最適な学習は「Tグループ(トレーニング・グループまたはラボラトリー・トレーニング)」だな、と思いました。今回書いたことが、そのまま起こり、体験的に学習することができます。(続く)

注:Tグループについては、ODメディア7、14、15を参照してください。

 

  • 参考文献 「組織文化とリーダーシップ;H.シャイン」

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。