• 「失敗の本質」から学ぶ:自己革新組織をつくる ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-193~

「失敗の本質」から学ぶ:自己革新組織をつくる ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-193~

今シリーズの自己革新組織をつくるの6つの条件、最終回です。

  1. 不均衡の創造
  2. 自律性の確保
  3. 創造的破壊による突出
  4. 異端・偶然との共存
  5. 知識の淘汰と蓄積
  6. 統合的価値の共有

今回は④異端・偶然との共存、⑤知識の淘汰と蓄積、➅統合的価値の共有です。

 

【異端・偶然との共存】

異端・偶然との共存は、自己革新組織を実現する不均衡の創造、自律性の確保、創造的破壊による突出すべてに関係します。現代風に言えば多様性を内包させるということです。軍隊組織はそもそも官僚制であり、官僚制はあらゆる偶然の要素を徹底的に排除した組織構造を持ちます。しかるにイノベーションは、異質な人、不確かな情報、偶然を取り込むところに始まります。確かに、日本軍にもイノベーションを起こすような異端者はいました。例えば、ガタルカナル島放棄論を唱えた二見秋三郎参謀長、海軍の空軍化という独創的戦略論を唱えた井上成美航空本部長などです。しかしいずれも異端者は組織の中枢を占めることはありませんでした。山本五十六長官のように権力を握った者のみが真珠湾攻撃のような異端な作戦を遂行できたのであり、ボトムアップによるイノベーションは困難でした。

「失敗の本質」によれば、日本軍の組織は組織内の構成要素間(各部や課)の交流や異質な情報・知識の混入が少ない組織でした。例えば、参謀本部における最大の欠陥は、作戦課の独善性と閉鎖性にあったといわれます。山本七平の指摘によれば、日本軍の最大の特徴は「言葉を奪ったことである」と指摘していますが、日本軍では組織末端の情報、問題提起、アイデアが組織の中枢に繋がることを促進するプロセスが許されなかったのです。

このような状況では、イノベーションは生まれてこないでしょう。以前ODメディアで取り上げましたが、ポジティブな逸脱や現場情報のボトムアップで組織の基本戦略に影響を与えるということがなかったのです。偶然の発見を組織内に取り組むシステムや慣行を育てていくというのは、自己革新する組織づくりにとってとても大切なことなのです。

 

【知識の淘汰と蓄積】

知識の淘汰と蓄積とは、すなわち学習する組織の構築です。学習が組織的になされる基本は対話であり、それには自分たち自身の行動とその土台となっている考え方や信念レベルに対する真摯な振り返りが必要です。「失敗の本質」がすでにあぶり出しているように、日本軍にはそれがなかったのです。「日本海軍の戦略発想:千早正隆」によると、海軍大学では航空戦術、砲戦術、水雷戦術、潜水艦戦術等に分かれて、それぞれの部門の研究をしたがそれを総合しての作戦の研究というものはほとんどなかった、といいます。

戦略的思考は、日々のオープンな議論や体験の中で蓄積されます。米軍では、海兵隊の水陸両用作戦のドクトリン(教義)を開発した時には、海兵隊学校の通常授業をストップし、教官と学生が一体となって自由討議の中から積み上げていったといいます。対する日本軍は、日露戦争の幸運なる勝利についての真の情報が開示されず、その表面的な勝利が統帥綱領に集約され、戦略・戦術は「暗記」の世界となっていたようです。

 

【統合的価値の共有】

自己革新組織は、その構成要素に方向性を与え、その協働を確保するために統合的な価値あるいはビジョンを持たなくてはなりません。「失敗の本質」では次のように指摘しています。「自己革新組織は、組織内の構成要素の自律性を高めると共に、それらの構成要素がバラバラになることなく総合力を発揮するために、全体組織がいかなる方法に進むべきかを全員に理解させなければならない。組織の構成員の間で基本的な価値が共有され信頼関係が確立されている場合には、見解の差異やコンフリクトがあっても、それらを肯定的に受容し、学習や自己否定を通してより高いレベルでの統合が可能になる」

自己革新組織にとって、P.センゲの学習する組織の5つの原則「自己マスタリー、共有ビジョン、メンタルモデル(の再考)、チーム学習、システム思考」や、A.エドモンドソンの心理的安全はやはり大切なんですね。これは「失敗の本質」が指摘していることとピッタリ符合します。

 

さて、「失敗の本質」は当然のことながら、日本軍に特徴的であった組織特性が、現在(1980年代の日本)も残っているのか、そしてそれは有効なのかと問うています。官僚制と集団主義が入り混じった組織、特定のパラダイムに固執する思考形態、帰納的思考中心の戦略策定(オペレーション志向)、組織構成員の頻繁な相互作用(情緒的コミュニケーション)を通した組織運営などに対して、「失敗の本質」の著者たちは強みがあると認めつつも、変革の必要性を強く主張しています。「失敗の本質」から学ぶシリーズは今回で終了ですが、2022年の今日でも失敗の本質の主張は、組織開発(OD)の実践に多くのことを教えてくれます。私自身改めて、経営者必読の本といわれる「失敗の本質」から多くのことを学び、確認することができました。皆さんは、どのような学習ができたでしょうか。

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。