• 「失敗の本質」から学ぶ:自己革新組織をつくる② 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-191

「失敗の本質」から学ぶ:自己革新組織をつくる② 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-191

今シリーズの自己革新組織をつくるの6つの条件を再度確認しましょう。

  1. 不均衡の創造
  2. 自律性の確保
  3. 創造的破壊による突出
  4. 異端・偶然との共存
  5. 知識の淘汰と蓄積
  6. 統合的価値の共有

今回は2,の自律性の確保です。

【自律性の確保】

「失敗の本質」の日米比較で必ず指摘されているのが評価システムです。日本軍は結果よりもプロセスや動機を評価している、片や米軍は明確に結果を評価し、信賞必罰を徹底させているというものです。その例として、以下のようなことが取り上げられています。

ミッドウエー敗戦後、山本長官は、草鹿参謀長の「敵討させて下さい」という懇願を受け入れ、南雲・草鹿をそのまま新編成の第三艦隊に留任させています。また、レイテ作戦を指揮した栗田第二艦隊司令長官も、その責任を全く問われていません。片や米軍は、日本海軍の真珠湾攻撃で損害を受けた米太平洋艦隊司令長官キンメルを直ちに解任し、軍法会議にかけています。また、第一線部隊の指揮官には人事権があり、例えば海兵隊ホーランド・スミス少将は、サイパン島戦において戦意不足ということで第二歩兵師団長ラルフ・スミス少将を戦闘中に解任しています。

一橋大学で「組織の<重さ>研究」というプロジェクトがありました。このプロジェクトのきっかけは、日本企業がかつて得意としていた「創発戦略」がうまくいかなくなっているのではないかという疑念だったそうです。組織の重さとは、「ミドル層を中心とする組織内部での調整過程の難しさのこと」を意味します。具体的には、「メンバー間の意見の違いを調整し、メンバーの努力を一定方向に引き出し、有効な組織活動として展開する難しさ」です。そしてこの組織の<重さ>は、気を付けないと創発的戦略行動を阻害するというものです。なんでこうなるのかというと、

  1. 事業戦略について十分な説明がない(事業部門長とその他のメンバーのコミュニケーションの距離が離れている)。
  2. 従って、公式ルートが確立できていない中で、非公式に情報を取らなくてはならない努力をしなくてはならない。
  3. その結果、事前の戦略計画がない。つまり、行動の標準化が進んでいない。(標準化が進んでいれば素早い行動ができるし組織は軽くなる)。
  4. 計画に縛られず個々人が自由に振る舞う組織は、少なくとも事業を担当する組織としては「弛んだ状況」を示唆している
  5. ミドルクラスの戦略リテラシーの不足により、後は「良きに計らえ」が横行した場合組織が右往左往する。
  6. メンバーが問題を直視せず、従来の思考と方法を踏襲する。

 

があるという事です。つまり、日本の組織は「和」を過剰に重視する傾向があり、身近な人間集団では波風を立てるのを避けようという意識が強く働きます。しかし、この性質は不確実性が少ない環境下の中で機能した性質であり、不確実性の高い現在はむしろ機能不全を引き起こす原因となっている可能性が高いのです。加えて、「和」は戦略実行を促進する手段であったものが、いつの間にか「和」を維持することが目的となり、管理者に過剰な調整能力を求めているともいえるのです。一橋大学の経営や組織研究の先生方は、野中さんのお弟子さんが多いとはいえ、現代日本の大企業分析の結果が、なんと日本軍組織の研究と重なるところが多いのかにびっくりさせられます。自律性を確保するには、

  1. 経営や組織として大事にする価値基準(ミッション、バリュー)を明確にすること。
    • 価値基準を明確にすることにより、ものごとの判断や意思決定に迷うことを少なくすることができる。
  2. 事業戦略について明確にし、ミドルクラスに十分な説明をすること。
    • 非公式に情報を取らなくてはならない努力が軽減される。
  3. ミドルクラスの戦略リテラシーを高めること。また、ミドルクラスの意思決定権限についての範囲を明確にし、自由裁量の範囲を拡大させること。
  4. 情緒的評価に流されず、結果に対する評価を明確にすること。
    • その為には、戦略目的(Goal 、Objectives)とその成果指標(Key Performance Indicator)を明確に設定すること。
  5. リアルタイムで市場や業績のデータが入手できるような業績管理制度・仕組み(例えば、前回ODメディアで紹介したインテル様な事例)を整えること。

などが求められます。精神論だけでは、自律性は確保できません。(続く)

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。