• ~「失敗の本質」から学ぶ:総括~③ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-189

~「失敗の本質」から学ぶ:総括~③ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-189

「失敗の本質」から学ぶ組織の過剰適応について、今回は組織学習と組織文化についてです。

 

【組織学習(Organizational Learning)】

先ず定義から確認しましょう。組織学習とは、一般には「組織の行為とその結果との間の因果関係についての知識を、強化あるいは変化させる組織内部のプロセスである」と定義されています。しかしながら当然のことですが、組織が学習することはないわけで、学習するのはあくまで一人ひとりの組織の構成員です。要するに組織学習は、組織構成員一人ひとりによって行われる学習が、互いに共有され、評価され、統合されるプロセスを経て初めて起こるのです。そのような学習が起こるためには、組織そのものが学習プロセスを許容し後押しするようになっている必要があります。

「失敗の本質」によると、日本軍は既存の知識を強化させるという面ではまことによくできたプロセスを持ったいたといえるそうです。そして、実際に陸軍の白兵銃剣主義の成果は決して悪いものではなかったのです。満州事変、日中戦争などで対戦した近代的陸軍とはいえない中国軍に対しては、個々の戦闘では十分に機能しているのです。大東亜戦争の緒戦でも連戦連勝でした。これで陸軍は、ますます勘違いしてしまったんですね。満州からシンガポールに至るまでの戦いで、火力に頼らずともやれたという自信と相まって、白兵銃撃戦はますます強化されます。皮肉にも、それが太平洋における米軍との戦いでは全く通じないものになってしまうのです。帝国海軍の場合は、戦艦を中心とした兵器体系、連合艦隊中心の組織編制、砲術・水雷中心のエリートを集中させた昇進システム、艦隊決戦の戦略原型を徹底した海軍大学校、「月月火水木金金」の猛訓練を反復させた教育システム、などの組織体制及び教育システムの成果であるとしています。成果という点からいえば、帝国海軍は真珠湾攻撃の成功で、それまでの艦隊決戦主義を脱却できるはずだったのに、そうはなりませんでした。いずれにしても、帝国陸海軍は戦略・資源・組織特性・成果の一貫性を通して、それぞれの戦略原型を強化したという点では、徹底した組織学習をしたといえます。

ところで、組織学習が発展的・効果的になされるためには、意図と成果の間にギャップがあった場合は、既存の知識を疑い、方法論の見直しだけではなく、新しい知識を獲得していくというダブルループ学習が求められます。これには、学習棄却という自己否定的学習ができるかどうかが鍵となります。この点では、帝国陸海軍はまったくもって失敗しており、既存の知識の強化に終始しているのです。先輩諸氏がメンツに拘り過ぎたのですかね。

 

【組織文化】

旧日本軍の組織文化については、すでに述べてきたこと自体がその組織の文化であるといえます。ところで文化とは、文化人類学では「シンボルによって獲得され伝承される、明示的・目次的な行動の形」(クローバー、クラックホーン)、あるいは「教示もしくは模倣によって獲得した共有された諸概念、条件づけられた情緒的反応、習慣的行動の形などの総和」(ソントン)などと定義されます。「失敗の本質」では、「組織が環境に適応した結果、組織成員に明確にあるいは暗黙に共有されるに至った行動様式の体系」としています。他にも、E.シャインなどの定義もありますが、ここでは割愛します。組織開発(OD)の視点で述べるまでもなく、組織が新たな環境に直面した時に最も困難な課題になるのは、蓄積してきた組織文化を如何にして変革するかということです。

「失敗の本質」によれば、組織文化は、①価値、②英雄、③リーダーシップ、④組織・管理システム、⑤儀式、などの一貫性を持った相互作用から生まれるとしています。

E.シャインによれば、組織文化は以下のような要素の相互作用で生み出されます。

  1. リーダーが注目し、測定するもの。何に報い、何を罰するのか
  2. 組織の重大な出来事に対するリーダーの反応
  3. リーダーによる役割モデリング、教育、指導
  4. 採用、選抜、昇進、退職、免職に関する基準
  5. 公式及び非公式の社会化(価値や考え方の教化)
  6. 組織のシステムと手続き
  7. 組織のデザインと機構
  8. 物理的空間や建物の設計(オフィス・レイアウト)
  9. 重要なイベントや人物に関する物語、伝説、神話
  10. 組織の倫理規定、設立趣意書、価値観などを記述した文書

10項目は、番号が若いほど組織文化に影響を与えます。

 

「失敗の本質」とシャインの10項目はほとんど同じことを示しており、興味深いです。どちらも、組織の価値・価値観やそれを体現する英雄・リーダー、およびリーダーシップが上位3つに入っており、従って組織文化を変えるということは、この3つに手を付けなくてはならないということです。ですから、現実にはとても難しい作業になるということです。ODメディアでもたびたび指摘していますが、草の根運動をしたから組織が変わるわけではないのです。草の根レベルの運動は重要な手段の一つですが、やはりリーダーが変革に真にコミットし、自己否定ができるかどうかが問われるのです。次回からは、「失敗の本質」が提案する自己革新組織について学んでいきます。(続く)

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。