• 「失敗の本質」から学ぶ組織論➅~185 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-~

「失敗の本質」から学ぶ組織論➅~185 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-~

「失敗の本質」を日本軍の組織特性に求める視点、組織上の失敗要因は以下の4つです。

「人的ネットワーク偏重の組織構造」「属人的な組織の統合」「学習を軽視した組織」「プロセスや動機を重視した評価」。今回は、学習を軽視した組織についてです。

 

「失敗の本質」によれば、およそ日本軍には、失敗の蓄積・伝播を組織的に行うリーダーシップもシステムも欠如していたという厳しい見方をしています。ノモンハンの失敗は、近代戦の性格について学習すべきチャンスであったにもかかわらず、それをしていない。そして、それは日米戦争を通して改善されなかったというのです。例えば、ノモンハンは戦車や重砲が決定的な威力を発揮したが、陸軍は装備の近代化を進める代わりに、兵力量の増加を重視します。かつ、装備の不足を補うのに、その精神力の優位性を強調したのです。こうした精神主義は、敵戦力の過小評価と自軍の過大評価を招きます。海軍も同じで、ハワイ奇襲攻撃の成功があったにもかかわらず、大艦巨砲主義・艦隊決戦の呪縛から逃れられませんでした。要するに、物事を科学的・客観的に見るという基本的な姿勢が決定的に欠如していたのです。その原因は、すでに述べている「人的ネットワーク偏重の組織構造」「属人的な組織の統合」です。これにより、失敗から謙虚に学び取ろうとする姿勢よりは、対人関係・人的ネットワークに対する配慮が常に優先するのです。ミッドウエー島攻略の図上演習を行った際、空母赤城に命中弾9発という結果が出た時、連合艦隊参謀長宇垣少将は「ただ今の命中弾は三分の一、3発とする」と宣言し、本来なら撃沈とすべきところを小破にしてしまいます。このことについて、作戦担当の黒島先任参謀は、戦後「本来ならば、関係者を集めて研究会をやるべきだったが、これを行わなかったのは、突っつけば穴だらけであるし、みな十分反省していることでもあるし、その非を十分認めているので、いまさら突っついて尻に鞭打つ必要がないと考えたからだった」と述べています。

集団決定の研究に「グループ・シンク(集団浅慮)」という名前がついた状態があります。1970年代にアーウィン・ジャニス博士によって命名されました。グループ・シンクとは、主に合意に至ろうとするプレッシャーから、個人が集団において物事を多様な視点から批判的に評価する能力が欠落してしまう傾向をいいます。端的に言えばグループでまとまって物事を考えて同意を得た結果、時としてその意思決定の質が低くなってしまうことを指します。グループ・シンクは、まとまりの強いグループほど陥りやすいという厄介な存在です。グループ・シンクは、集団の凝集性が表面的に高い場合や、集団が外部と隔絶している場合、あるいは集団内に支配的なリーダーが存在する場合などに際だって起きやすいという特徴があります。近年の歴史の中での例は、1986年のスペースシャトル「チャレンジャー」号の事故、2003年2月のシャトル2回目の爆発事故(コロンビア号)が挙げられます。グループ・シンクを避けるためには、異なった意見を十分に受け入れ、建設的な批判を重視し、選択肢の分析に時間をかけるなどの配慮が必要です。建設的な批判を集団が受容できるようにするには、メンバーが相互に信頼感を持ち、各々が持つ不安や恐れについてもコミュニケーションができる状態になっていることが重要です。当時の日本軍は、まさに「グループ・シンク」状態だったのですね。

当時の日本軍がグループ・シンク状態に陥った原因の一つでもある幹部教育について見ておきます。「失敗の本質」では、日本軍の教育は与えられた目的を最も有効に遂行しうる方法を如何にして既存の手段軍から選択するかという点に教育の重点が置かれたといいます。学生にとって、問題は絶えず、教科書や教官から与えられるものであって、目的や目標自体を創造したり、変革したりすることはほとんど求められなかったし、また許容もされなかったといいます。ほとんどの場合に問題になるのは、方法・手段であり、その方法・手段も所与のものを機械的に暗記し、それを忠実に再現することがもっとも評価され、奨励されたといわれます。いわば「模範解答」が用意され、その解答への近さが評価基準となっていたのです。

学習理論の観点から見れば、日本軍はアージリスが言うところの「シングル・ループ学習(方法や手段の見直し重視)」が中心であり、「ダブル・ループ学習(既存の仮定や仮説の見直し)」はほとんどなされていなかったのです。人的関係性や属人的な組織構造とそれに基づく意思決定、および自分で理論を考え出す教育の不足などが重なり、日本軍は経験から学習をしない組織になっていたのです。組織開発的に言えば、アクション・リサーチが全くない組織だったのです。これでは勝てないはずです。(続く)

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。