• 「失敗の本質」から学ぶ組織論⑦~186 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-~

「失敗の本質」から学ぶ組織論⑦~186 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-~

「失敗の本質」を日本軍の組織特性に求める視点、組織上の失敗要因は以下の4つです。

「人的ネットワーク偏重の組織構造」「属人的な組織の統合」「学習を軽視した組織」「プロセスや動機を重視した評価」。今回は、プロセスや動機を重視した評価についてです。

 

企業や一般社会では、行動の動機や意欲・やる気というものを評価し、結果が出なくても「また次頑張れ」と、結果が出なかったことを責めるということをしない方が良いという風潮もあります。しかし「失敗の本質」では、日本軍の結果よりプロセスを重視した評価が、失敗の連鎖を生んでしまったという分析をしています。例えば、それは辻政信の人事に端的に見られます。ノモンハンから始まり、バターン半島攻撃で投降した米比軍捕虜の射殺事件、モレスビー攻略専断命令、ガタルカナルでの間違った総攻撃による壊滅的敗北など、彼の独断専行に対して日本軍(陸軍)はその責任を問おうとせず、しばしば転勤という手段で解消されたといいます。このような、個人責任の不明確さは評価をあいまいにし、評価のあいまいさは組織学習を阻害し、論理よりも声の大きな者の突出を許容し、このような志向が作戦結果の客観的な評価・蓄積(組織学習)を制約し、官僚制組織における下剋上を許容したというのです。

もちろん、結果とプロセスは切り離せるものではなく、求められる結果を出すには正しいプロセスを選択しなくてはなりません。ところが、当時の日本軍は、陸軍では精神力や白兵突撃戦法、海軍では大艦巨砲主義など日露戦争以来のパラダイムを墨守し、曖昧な戦略目的、短期決戦の戦略志向に凝り固まっていた組織です。そのような組織では、周囲はおかしいと思いながらも、従来の目的や戦術を当然のこととし、それを実行することこそが是であった空気の中では、積極果敢で勇猛なる言動は高く評価されたのです。林三郎著「太平洋戦争陸戦概史」では、「信賞必罰は陸軍部内では公正でなかった。積極論者が過失を犯した場合、人事当局は大目に見た。処罰してもその多くは申し訳程度であった。一方、自重論者は卑怯者扱いにされがちで、その上もしも過失を犯せば、手厳しく責任を追及される場合が少なくなかった」と述べられています。

海軍は、かなり公平な人事評価制度を持っていたといいますが、ミッドウエー海戦において海戦史に残る大敗北を喫した南雲長官や草鹿参謀長は、その後「仇討ち」の機会を与えるとして、次の作戦にも責任者として参加を許されています。「失敗の本質」には、このようなあいまいな人事評価の事例が他にも記載されています。陸海軍いずれにしても、合理的な信賞必罰が実施されず、評価においても一種の情緒主義が色濃く反映されたといいます。

 

「プロセス」とは「仕事で結果を出すために必要な行動」のことであり、「結果」につながらない行動を「プロセス」とは呼ばないとする主張もあり、「結果」と「プロセス」を切り離して考えると、おかしなことになります。これは当然のことです。しかし、この考え方は「結果」すなわち「目標」が正しい場合に限ります。目標があいまいで、かつ状況に合わない場合、その間違った目標を議論せずにプロセスを重視したのでは、傷口を大きくするだけです。結果とプロセスについてスポーツの事例が使われることがあります。例えば「プロ野球選手が朝早くから素振りをがんばっても、試合でヒットを打てなければ年俸は上がらない。このときコーチは、朝早くから素振りをがんばっているな、と的外れな努力をほめるのではなく、ヒットが打てるようになる練習方法を教えてあげる必要がある」というようなものです。スポーツの場合、目標はシンプルで分かりやすくし、多様な条件を入れなくてはならないものではないでしょう。しかし、戦争という極めて政治的な思惑や広範囲な条件を考慮しなくてはならない事象ついては、目標自体を問い直していく必要があります。それをダブルループ学習といいますが、日本軍はこれができていないのです。一般に、プロセスを評価するためには、部下に「正しいプロセス」を踏ませなければいけないといわれますが、当時の日本軍が当たり前としていた「正しいプロセス」は「古いプロセス」になっていたのです。人事評価の世界では、結果だけを評価すると、ズルをする人が出てきたり学習に繋がらなかったりして偏りが出てくると言われますが、プロセスだけの評価も情緒的な評価に堕してしまい、本人の学習や成長に繋がらないこともあります。目標(結果の期待)とプロセスは活動の両輪であり、両方について常にこれで良いのかと問い直していくことが、組織のダイナミズムを生み出すのです。

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。