• 適応のリーダーシップ④~165 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-~

適応のリーダーシップ④~165 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-~

ハイフェッツの適応を要する課題に挑戦するリーダーシップ6つの原則は、ポジティブ逸脱を活用する(パスカル、スターニン)や心理的安全(エドモンドソン)の研究とつながるところが沢山ありますね。

R.ハイフェッツは、リーダーシップとは学習の産物であると言います。リーダーシップは、アメリカでは、単に豊富な知識と押し出しの強さの組み合わせに過ぎないかのように思われている節もあるが、このような考え方が根底にある限り、適応に挑戦することでビジネスを成功させる方法など到底理解できないのではないかと言います。適応に挑戦しなくてはならない状況を、テクニカルに解決できる問題のように考えてしまうのは、古くて新しい過ちです。例えば、M&Aやリストラクチャリングといった方法で企業変革に取り組むと、却って組織を弱体化させることもあります。どうしてかというと、財務的な視点が強すぎて、どうすれば適応力に優れた組織にできるのかという視点が疎かにされるからです。

戦略立案については、戦略研究家や外部コンサルタントから、さまざまな方法論とツールが提供されそれを利用することができます。ビジネススクールでも、大量のケースを使って戦略立案についての学習ができます。ところが、一見して美しい戦略も、実行段階で失敗することが少なからずあります。経営管理者は、その失敗を振り返って「戦略は良かったが、それを上手く実行できなかった」と分析してしまいます。逆に下位層では、「またうちのトップが、現場を知らずに何か言っている」といって、戦略を批判したりします。要するに、ズレているのです。戦略立案プロセスは、適応について考えそれを具現化していかなくてはならないのですが、たいていの場合、リーダーが自己流の考え方とやり方で問題解決に取り組み実行しようとします。そして、立案した戦略が現場に伝わっていない場合は、コミュニケーションが問題であるとなり、戦略理解についてもっと話し合うようにというお達しが出ます。本当にそうなのでしょうか。例えば、かつてリエンジニアリングという変革手法が流行ったことがありますが、多くは失敗に終わりました。それは、業務プロセスの再設計をテクニカルな問題として取り扱い、いま行われている業務プロセス根底にある考え方や、その業務プロセスに従事している人たちの思考と行動を十分考慮せずに改革を行おうとしたからです。

R.ハイフェッツは、ビジョンを掲げ、そのビジョンで人々を結束させるという、広く支持されているリーダーシップは破綻していると言います。なぜなら、そこでは、適応すべき状況も、やはりテクニカルに解決できると考えているからです。つまり、社内で経営トップが自社はどの方向に進むべきかを指し示せば、社員たちはそれに従うというのが前提になっているからです。日本の企業では、今でもリーダーがビジョンを示すことは期待されていることであり、もしビジョンを示さなければリーダーたる資格がないと思われても仕方がないでしょう。しかし、ビジョンを示すリーダー待望論に乗っかると、その考えが過ぎる人は、どのような状況の中でも無意識に他の誰かがビジョンを示してくれることを待つ、受動的な姿勢になりかねません。適応を要する状況は頻繁に起きてきます。従って、適応するための手段はリーダーが提示するものではなく、不確実な状況に直面したその人が、自分の力で見出していかなくてはならないものなのです。リーダーシップは日々要求されます。それは、めったにない経験でもないし、特定の少数の人たちだけに課される責任でもありません。ビジネスでは、多くの人に絶えず適応への挑戦が求められるのです。このように見てくると、リーダーシップには経験による学習が不可欠です。不確実性は事前に定義することはできません。その都度、やってみて、振り返り、そこから何かを発見していくプロセスが大切なのです。リーダーは、要求するだけでなく、しかるべき責任を持って不確実な状況に対峙し、答えの無い質問に対して自分の考えとやり方を常に自問自答しながらそれに取り組み、みんなを導いていくことが求められます。なるほど、入り口は異なるけど、ドナルド・ショーンの実践的省察やロバート・キーガンの成人発達研究などは、R.ハイフェッツが主張するリーダーシップと同じ地平にあるのですね。

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。