• 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-142 -リーダーシップと対話

組織開発(OD)の実践って、どうするの?-142 -リーダーシップと対話

リーダーシップと対話

ODメディアでは、今回から改めてリーダーシップについて考えてみたいと思います。リーダーシップは古今東西最も関心の高いテーマの一つですが、組織開発でもそれはとても重要なテーマです。紹介するリーダーシップ論には、当時の時代背景や調査対象組織の特性がありますので、全ての状況の中で当てはまるものではないでしょう。それは、個々の読者の中で判断していただくこととして、ODメディアではそれぞれの主張を掲載していくことにします。1回目は、ラム・チャラン(元ハーバードビジネススクール教授)の「対話が組織の実行力を高める」から、組織開発でも重要な方法論として認識されている対話とリーダーシップについて考えていきます。

 

経営者であれば誰しも活性化した組織を望むでしょう。組織が活性化した状態とは、人によってその定義が異なるでしょうが、例えば、情報が共有されている、対立を直視し逃げずに対立を解決する、必要な時に必要な意思決定ができる、決定した事は最後までやり遂げるなどは活性化している組織の姿を現しています。このような活性化した組織風土をつくりあげるのはリーダーの仕事ですが、そのためには効果的で生産的な議論の仕方、すなわち対話を学んでいく必要があります。

効果的な意思決定と実行のための対話は、ただ単に話せばよいというものではありません。そこには4つの要件が満たされている必要があります。

  1. 開放的な話し合いが為されている
  2. 忌憚なく意見が出されている
  3. 形式にこだわらない
  4. 実行計画が作成されること

では、それぞれの内容を見ていきましょう。

  1. 開放的な話し合いが為されているとは、対話の結論をはじめから決めつけないことです。私たちは過去の経験から、特定のテーマについて自分なりの答えを持っていることがあります。そしてその自己解釈の枠組みを使って、自分なりに納得のいく答えを見つけようとします。しかし、そのような姿勢は過去の経験則が役立たない世界では、まったくもって効果的ではありません。私たちは、代替案を探し、新しい発見はないか探求し、そこから結論をつくり出していくという姿勢を持たなくてはなりません。大切なのは、質問しみんなの意見を聴くことです。
  2. 忌憚なく意見が出されるとは、口にしにくいことも表明することです。履行されていない責務を明らかにし、もし表面的な同意があると感じられる場合は、対立意見があることを伝え、もう少し話そうと周囲を促していくことです。私たちは、どうしても同調圧力に晒されます。特にチームワークを過度に重視すると、そのような状態になりがちです。ODメディアでもすでに紹介していますが、集団愚考やアベリーン・パラドックスはその典型です。
  3. 形式にこだわらないとは、会議全体の流れを周到に準備された台本通りに進めるのではないということです。誰かが事前に準備したプレゼンテーションをしてそれに対して合意、非合意を表明するというようなやり方ではなく、その場で出てきた意見や疑問には徹底的にその場で応えていくというものです。日本の、例えばコロナ対策における首相会見のような出来レースのようにしないということです。
  4. 最後に、実行計画が作成されることですが、これは対話にタガをはめて、参加者の責任体制を明確にし、実行にコミットメントさせる上で必要不可欠なものです。ワールドカフェという対話方式が日本でも実施されていますが、注意しておくべきは、多様性ということを重視して物見遊山な人が集まり、単なるガス抜きのような対話になり、誰も意思決定しないし、結論にコミットメントしようとしないことです。対話は、そのテーマに直接関係がある人たちが参加している必要があります。そして、アイデアベースではなく実行についての結論を出し、リーダーはそれに対してメンバーの責任を促す必要があります。

過日、福井県におけるコロナによる病床逼迫を起こさないための「野戦病院方式のケアー(医師によるトリアージをやるコーディネートセンターの設置や臨時施設の開設など)」がまとまるまでの経緯を、その対話のプロセスをリードした福井県医師会会長がお話しされているのを聞きました。この一連のプロセスでは他県や特に東京では難しいといわれている行政、国立大学病院、公立病院、民間病院、開業医、災害派遣医療チーム、看護協会などの意思決定者を一堂に集めて議論をするということを2020年4月からやって、その実行案を10月には決定していたというのですね。その議論では、声を張り上げるとか、罵倒するとか、要するに侃々諤々の議論が行われたようです。しかし、そのような議論でも「自宅療養者は出さない」という一点は明確な目標として最初に同意されていたということです。何を目指すかが最初に同意されていれば、それをどのように達成するかについては、それぞれの立場の主張を表明し、その上で譲るところは譲る、ちょっと我慢すれば済むことは我慢するということを互いが受け入れながら、納得性のある結論を導き出しています。ですから、いよいよ大変だとなった2021年6月には、福井県知事の迅速なコミットメントと5千万円の補正予算化が迅速に決定されました。OD的に言えば、対話型組織開発、つまり意思決定に重要な影響を与える関係者を一堂に集めた率直な対話方式ですね。実際にこの議論を見ているわけではありませんが、4つの要件が満たされた議論であったことが窺われます。

4つの要件を満たした対話が行われ実行が始まれば、引き続いて2つのアクションを加えることが重要です。それは「振り返り」と「フィードバック」です。マネジメント用語を使えば、業績評価と査定です。そしてここにも対話が大切です。これは、1on1とかチーム全体でのリフレクションなどが具体的な方法です。このような場で、マイナスな事柄についても率直なフィードバックが掛かるようになると、集団や組織は学習力を高めていきます。

組織の競争力を高める上で、商品力や経営資源は重要な要素ですが、持続的な成功に欠かせないのは効果的な意思決定を導く対話と、実行を支える振り返り、そしてフィードバックです。このような組織運営メカニズムは簡単に模倣できるものではありません。リーダーは個人的な資質によってリーダーシップを発揮するのではなく、効果的な対話のプロセスを構築するようにリードしていくことで、結果として実りあるリーダーシップを発揮できると共に、組織の競争優位の土台を構築することができるのです。そして、このプロセスに参画したメンバーは、自分自身が意思決定し実践しているというオーナーシップと達成感を得ることができます。

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。