• モチベーションとOD:①~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【135】~

モチベーションとOD:①~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【135】~

社員のモチベーションが高ければ、企業の業績は向上するというのは一般通念でしょう。社員のモチベーションと企業の業績は強く関係していると言って良いでしょう。であるならば、ODを実践する私たちの姿勢としては、モチベーション(やる気)を個人任せにするのではなく組織的に高めていく施策を実践していかなくてはなりません。

ということで今回は、モチベーションとODについてです。参考とする資料は、HBR.2008年10月号.新しい動機づけ理論(N.ノーリア、B.グロイスバーグ、L-E.リー)です。ODメディアでは以下便宜的に、3人の頭文字を取って「NBL動機づけ理論」とします。

 

ところで皆さんは、動機づけというとどのような理論/モデルを思い浮かべるのでしょうか。マズローの欲求段階説、ハーツバークの衛生維持要因と促進要因の2因説、それともブルームやローラーの期待理論、どれも有名ですが今回ご紹介する「新しい動機づけ理論」は、新しいというだけあって前記の3つの理論とは大いに異なるものです。

「NBL動機づけ理論」は、神経科学や生物学、進化心理学などの研究から導かれた理論です。それによると、人間は進化の過程で残された基本的な感情のニーズ、すなわち「欲動(drive)」に駆られることが示されたのです。では、その欲動を見ていきましょう。4つあります。

●獲得(drive to acquire):社会的地位などの無形なものも含めて、希少なものを手に入れること

●絆(drive to bond):個人や集団との結びつきを形成すること

●理解(drive to comprehend):好奇心を満たすことや自分の周りの世界をよく知ること

●防衛(drive to defend):外部の脅威からわが身を守り、正義を広めること

研究では、この4つの欲動が私たちの行動の全ての基盤になっているということです。冒頭で述べたように、「社員のモチベーションが高ければ、企業の業績は向上するというのは一般通念である」ということに異論がなければ、マネジメントではこの4つの欲動を上手く取り扱えているのだろうかというのが課題となります。

 

NBL動機づけ理論は、4つの欲動と職場における重要なモチベーション指標との関連性を明らかにするため、フォーチューン500社企業の内300社の社員を対象にした調査と、グルーバル企業や大手金融サービス会社及び有力ITサービス会社の社員385人を対象にした調査を実施しています。

職場における重要なモチベーション指標は「仕事へのエンゲージメント」「従業員満足度」「コミットメント」「離職意思」の4つです。この調査によると、モチベーションのバラツキの60%は4つの欲動との関係で説明できることが示されたそうです。古典的な動機づけ理論では、30%を説明するのがせいぜいだったようです。

そして、この4つはモチベーション向上に対して足し算的なものではなく、掛け算的なものなのです。4つの内、3つが良くても1つが悪ければモチベーションは期待通りに向上しないということです。この4種類の欲動は、人間の頭脳に先天的に備わっているため、それらがどの程度満足させられたかによって、感情ひいては行動が直接左右されます。

ということで、各欲動がどのように作用するのか、もう少し詳しく見ていきましょう。

●獲得(drive to acquire)

人は幸福感を高める何かを欲して行動する。この現象は、衣食住などの物質的なものだけでなく、旅行や娯楽などの経験、昇格・昇進などに対しても起こる。獲得の欲動は相対的であり限界がない。

●絆(drive to bond)

人は親や血族のみならず、組織や社会といったより大きな集団とのつながりを求める。これが満たされると愛情や思いやりなどの前向きな感情を持つことが出来る。満たされないと孤独感を感じたり、モラルの崩壊を引き起こしたりする。社員がその組織に属していることを誇りに思えば、モチベーションは向上する。

●理解(drive to comprehend)

人は自分を取り巻く世界の意味を理解したいと思う。物事を解明し、世界を説明したいと望む。自分の力が試され成長に繋がる仕事はモチベーションが上がる。有能な社員は閉塞感を覚えるとチャレンジングな環境を求め組織を去ることが多い。

●防衛(drive to defend):外部の脅威からわが身を守り、正義を広めること

人は本能的に自己、財産、家族、友達、業績、ビジョンや信念を外敵から守ろうとする。この欲動の根源は、ほとんどの動物に共通する危険に対する「闘争か逃避」の反応である。

人の場合、それは単なる闘争か逃避に終わるのではなく、正義を求め具体的な目標と態度を示し、自分のアイデアや意見を表明できる組織を生み出したいという希望となる。防衛への欲動が満たされれば、安心感と信頼感に繋がる。

 

NBL動機づけ理論によれば、いくら高い給料を支払っても、社員同士の絆に無関心な組織、仕事が無意味に思える職場、ハラスメントが横行する組織では、その高い給与に見合う働きは期待できないということになります。

当然、まともな給与が支払われず、退屈な仕事をこなすだけという職場では、いくらチームの絆を訴えてもそれは寝言にしかならないということです。では、どのようにすればよいか。次回はそれを見ていくことにします。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です