• 組織が開発されるとは①~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【119】~

組織が開発されるとは①~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【119】~

「組織開発(OD)の実践って、どうするの」を執筆してきて2年半ほどになりますが、そういえば組織がより開発あるいは発達した姿ってどんな状態をいうのかということについては、あまり言及していませんでした。

今回のテーマは、Organization DevelopmentのDevelopment(発達、開発)ってどういうこと、を考えてみたいと思います。その為には、まず「組織:Organization」について私たちはどのように捉えているのかを問い直す必要があります。組織っていったい何? 皆さんはどのようにお考えでしょうか。

 

ところで、組織開発(OD)の定義としてはどのようなものがあるのか、有名所を3つほど見ておきましょう。

まずは大御所のリチャード・ベックハードの定義から。「ODは、計画に基づいて、組織全体を対象にして、トップマネジメントがリードして、組織の健全さと有効さを高めるために、行動科学を応用して、組織プロセスに計画的に介入する事」。

次に、日本にもいろいろと組織開発(OD)の理論や実践者・研究者を紹介してくれたウォーナー・バークの定義。「ODは、行動科学の技法、リサーチおよび理論を活用して、組織文化の中に起こす、計画的な変革プロセスである」。

最後に、立教大学中原教授と南山大学中村教授の共著である「組織開発の探求」から。「ODは、組織を円滑に機能させるための意図的な働きかけ(介入)」。

この4人の方々が組織について同じような認識をしているかというと、それは分かりません。皆さん方はどうでしょう。Organizationについての認識が異なれば、Developmentについての認識も異なりますよね。

 

以下、幾つか組織の捉え方(メタファーあるいは概念)を見ていきましょう。

a. 組織とはある目的を達成するために、分化した役割を持つ人々の集まりである。

多くの人が同意する見方ですね。この喩えでいえば、組織が開発されるということは「目的が達成される能力を組織が有すること」あるいは「組織内の人々が、自分が担っている役割を十分に果たしえるようになること」ということになるのでしょうか。

ということは、組織能力(capability)の開発や個々の人々が役割を全うできるように知識やスキルといった能力を身につけることが、組織開発なのでしょうか。株式会社であれば、財務的成果を上げることを組織が開発された状態というのでしょうか。

最近、経営戦略論の流れの中でダイナミック・ケイパビリティ(変化に素早く対応できる能力)が流行っているようですが、これと同じなのでしょうか。因みに、ダイナミック・ケイパビリティに近い概念を組織開発(OD)の文脈で論じているのがC.ウォーリーのアジリティ概念だと思います。

 

b. 組織とは機械のようなものである。決められたことを決められたように進めていくために、機能という組織の構成要素(部品)が精緻に組み立てられている。

これでいえば、決められたことが決められたように運営されている状態が、組織が開発されたというのでしょうか。

 

c. 組織とは有機体である。

なるほど、これも魅力的ですね。有機体という意味は「多くの構成メンバー、構成要素からなり、それらが互いに関連し依存しあうことで成り立っている」ということですので、組織が開発された状態とは、人々の協働が高度に進んでいる状態のことなのでしょうか。

 

d. 組織とは外部資源を価値ある財に変換するシステムである。

これはちょっと難しい表現ですが、組織をインプット・アウトプット・システムとして理解しようとする試みです。80年代から90年代にかけての組織変革という取り組みの土台になるようなメタファーです。

インプット・アウトプット・システムモデルでは、システムつまり組織を構成する要素が重視されました。例えば、ODメディアでも取り上げたコングルーエンスモデル(組織の整合性モデル:ナドラー、タッシュマン)ではインプットは「環境、資源、歴史、そして戦略」、インプットを変換する組織の諸要素は「タスク(業務)、公式組織の取り決め、人間、非公式組織の取り決め(組織の慣習・文化)」、アウトプットは「戦略目標の達成と財務的成果、ユニット単位の成果、個人の成長・満足度」です。

このモデルによれば、組織が開発された状態とは、インプットされた諸資源が効果的にアウトプットされる組織の整合性をつくることになります。でも、ナドラーもタッシュマンも、確かに組織が開発されるというようなことは言っていなかったな。組織変革という言葉を使っていましたね。

 

e. 組織とは意味を形成するシステムである。

同じくシステムという言葉が使われていますが、インプット・アウトプット・システムの概念とは異なります。

意味を形成するとは、私たちが現実として理解する世界は人々がそこにそれが存在すると合意することによって出来上がる、社会的成果なのであるという考え方がその土台にあります。こういった考え方を社会構成主義と言います。

ここでのポイントは社会的合意ということです。人間社会におけるさまざまな現実や価値評価は、人々の関係性に基づいて定義されます。例えば、ある組織で「良い/常識」と認識されていることが、他の組織では「悪い/非常識」と認識されるかもしれません。

そして関係性の観点から言えば、その集団で「何が」「どのように語られるか」は、その人間集団の慣習(文化)をつくり出します。

従って社会構成主義の立場に立てば、組織が開発された状態とは、語られる言葉の文脈的意味(ディスコース)が変わって、それに伴い行動が変わってくるということになります。そこでは、変化は持続的に発生するものになります。

 

如何でしょうか。ここに掲載した事例は組織の見方の一端を紹介しているに過ぎません。ここで考えてほしいのは、あなたは、あるいはあなたが所属する組織の多くの人たちは組織をどのように見ているのか、あるいはどのようなメタファーで理解しているのかということです。

その見方、すなわち「組織とは何か」に対する理解の仕方によって、組織の現実を変えていくアプローチ方法や、目指すべき組織が開発された状態という意味が変わってくるということです。

 

※この記事の書き手はJoy