• 戦略と組織開発⑦~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【110】~

戦略と組織開発⑦~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【110】~

企業における意思決定は毎日一つではなく、さまざまな意思決定が行われています。それは、長期的な戦略意思決定もあれば、業務的で戦術的な意思決定もあります。では、迅速に意思決定するチームはこのような多様な意思決定をどのように取り扱っていたのでしょうか。

 

調査では、より迅速に意思決定するチームは、幾つかの重要な戦略的意思決定と戦術的な意思決定を個別のプロセスとしてみるのではなく、統合して扱っていたのです。アイゼンハートの調査では以下の3点がその理由として挙げられています。

①異なる意思決定の統合は、トップ・マネジメントが特定の代替案の実現可能性をより早く分析するのを助ける。

②重要な戦略的意思決定は他の意思決定とつながっており、曖昧さに対処する上で、意思決定の統合はトップ・マネジメントを助ける。そして、関連する意思決定の詳細情報は、高い賭けをする意思決定で経営幹部が経験する不安を緩和する。

③意思決定の統合は、意思決定間の不連続性に関するリスクと、抽象レベルが高い状態で対応しなくてはならないリスクを軽減させる。

 

ここで分析されている3つの理由を見てみると、意思決定者にはシステム思考が必要であることがよく分かります。つまり意思決定すべき事柄の統合とは、戦略的意思決定で考慮しなくてはならないさまざまな要素や事象の相互関連性を考えることに役立っているということです。

ここから導かれる命題5.は、意思決定案件相互の統合が大きいほど戦略的意思決定のスピードは速くなる、です。

 

ここまで見てきたアイゼンハートの論文では、高業績企業は急速に変化する環境にペースを合わせることの重要性を示唆しています。このような企業のトップ・マネジメントたちを特徴づけるもの言いは以下のようなことです。

・あなたが革新しなければ、他の誰がするだろう。

・大きな機会を捕えなければならない。

・何か実行しなさい。ただ座って、意思決定で悩んでいるのはやめろ。

・我々の業界は止まっているわけではないので、長期的に考えることは利点がない。唯一の競争優位は早く移動する中に存在する。

調査対象である変化が早く、技術主導の産業は、迅速で良質な意思決定が報われるビジネス環境のタイプです。ですからすべての産業に当てはまるわけではありませんが、いろいろと示唆に富んだ調査です。

この調査から、アイゼンハートは戦略的意思決定スピードのモデルを導き出していますが、詳しくは「実践としての戦略」をお読みいただくとして、要約したものを掲載します。

 

 

第1の重要なファクターは「認知処理を如何にして加速させるか(認知的プロセス)」です。

これには、リアルタイムでの情報入手、複数の代替案の同時検討、助言プロセスの効果的な活用、意思決定の統合が貢献しています。

第2の重要なファクターは「円滑なグループプロセスの創造(政治的プロセス)」です。これは、意思決定チームにおけるメンバー間の相互関与の仕方を意味します。

例えば、リアルタイムでの情報精査は、経営幹部に業績に関する日常処理をお互いにリハーサルさせています。その結果、混沌とした状況でも協働できるチームワークが育っています。

また、承認付きの合意という方法を取り入れています。これは、経営幹部は自分の担当エリアでの役割について責任を持ちますが、チーム全体が関与することを否定するものではありません。そしてやはり助言プロセスの効果的な活用があります。

 

第3の重要なファクターは「実行の確信(感情的プロセス)」です。実行に対する不安は意思決定者の活動を鈍らせます。この不安に対処し実行の確信を高めるには、複数の代替案の同時検討、助言プロセスの効果的な活用、意思決定の統合が貢献しています。

複数の代替案の同時検討は、意思決定者が「あらゆる手段」を尽くして、有望なプランを徹底的に調査したという確信を提供します。そこで最も重要なことは、戦略的意思決定と詳細な業務計画を連動させていることです。

日々の業務や主要な意思決定間の繋がりへの注意は、ビジネスに関する熟達と管理可能性の感触を高め、実行への確信を高め実行可能な組織をつくることに貢献しています。

以上のことから、この論文は迅速な意思決定における認知的プロセス、政治的プロセス、感情的プロセスの重要性を指摘しています。

そうなんですよね、迅速で質の高い意思決定は、論理的思考だけでもたらされるものじゃないんですよね。

 

実践としての戦略の編者は、アイゼンハートの論文に全面的な支持をしているわけではありません。業界によっては、経営陣によって使用されるリアルタイムの情報タイプが内部の業績指標だけではなく、競争者や顧客市場といった外部情報が必要となることが予測されると評しています。

とはいえ、迅速で良質な意思決定にとって、組織内部での経営チームのどのような日々の行いが貢献しているのかを明らかにしている点で、組織開発の視点からはとても参考になる論文だと言えます。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です