• リーダーシップは本当に変えられるのか~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【101】~

リーダーシップは本当に変えられるのか~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【101】~

前回まで、ポジティブな組織を創造していくためのリーダーに求められる「リーダーシップ:5つのコア戦略」に焦点をあててきました。

①質問する(Inquiry):ポジティブでパワフルな質問を投げかける

②見える化する(Illumination):人や状況の中にある最高の状態を引き出す

③巻き込む(Inclusion):人々を巻き込み未来を共に創造する

④刺激・鼓舞する(Inspiration):創造的な精神を呼び覚ます

⑤誠実に接する(Integrity):全体にとってより良いことのために意思決定する

 

リーダーシップに「参画型」が必要だと認識される昨今、あらためて見てみると「そりゃそうだ、納得」というように感じる方が多いのではないでしょうか。とはいえ、この5つを日常的に意識せずに実践するのは相当の熟練が必要になると思います。

私たちは、つい自分と人を比較したり、その中で相手より自分が上だなと認識することで自分の優位性を保とうとしたりします。そしてその優位性がリーダーシップをとる根拠と思ってしまうことも多いものです。

私たちはリーダーシップをとるということを「自分が先頭に立って他者に指示命令すること」と思っている節があります。そして、自分が他者に指示命令することで優位性を感じ、自己満足的に「私がリーダーシップをとっている/とれている」と勘違いすることもあります。そうです、これ勘違いです。

 

リーダーシップはそのスタイルとして「自分が先頭に立って他者に指示命令すること」だけではないです。リーダーシップの本質は「目指す目的を実現すること」です。

ですから、その過程で率先垂範することが必要であれば率先垂範するし、縁の下の力持ち的に行動することが求められるのであれば、そのように行動すればよい訳です。

ですが、「俺やっているだろう!」と承認欲求が強ければ、また周囲に「俺やってる」ということを見せなければ評価が低いというような環境に居れば、どうしても独善的で統制的なリーダーシップスタイルを選択してしまいます。

ですから、リーダーシップ行動を変革するということは、個人と環境の両方がそれを認めるようになっていないと実現できないのです。レビンの「行動は個人と環境との関係で決まる B=f(P・E)」という公式はやっぱりそうなんですね。

組織の現実では、このP(person)とE(environment)両方に影響を与えるのが、その組織や職場チームの任命されたリーダーの役目です。

 

さて、そのリーダーは本当に自分のリーダーシップを変えられるのでしょうか。言い換えれば、私たちは変わることができるのでしょうか。結論から言えば、人は変われます。しかし、簡単には変われない。

 

以前このODメディアでも取り上げていますが、訪問販売を主としたある化粧品製造販売会社で、優秀経営者のキャリア開発プログラムの設計支援をしたことがあります。

私が担当したのは、初心者から店のオーナー(経営者)になるまでの過程で、何が大切なコンピテンシーになるかを把握するインタビューです。

その中で分かったことは、優れたオーナーはみんな一度挫折しているんですね。数字を上げるために「私がやらねば」と頑張ってきた彼女たちは、その過程の中で仲間を失っているのです。

そこで初めて、組織化された商売にしていくには、人が大切であるということが心底分かったと言っています。こうしないと、ビジネスとして成長しないんですね。

 

外傷後成長(post traumatic growth:PTG)という概念があります。定義は「危機的な出来事や困難な経験との精神的なもがき・闘いの結果生ずるポジティブな心理的変容の体験」というものです。こういったことを経験した人は、本当に人が変わるそうです。その変化は以下のような内容です。

①他者との関係がポジティブなものへ変化する

②心のあり様が変わる。存在や霊性(自分を超えた世界)への意識が高まる

③人生に対しての感謝の念が増える(生きているだけで丸儲け)

④新たな可能性に挑戦しようとする(人生や仕事への優先順位が変わる)

⑤人間としての強さ、自己の強さの認識が増す

 

代表例として、オーストリアの精神科医のビクトール・フランクル氏が例に上がります。フランクルは、ドイツ軍によってユダヤ人強制収容所に収監され、その中で家族を亡くします。同じ収容所のユダヤ人がガス室に送られていく中で医師であるフランクルは、傷ついた者に対して出来うる治療を施します。

そうした過酷な中で、自ら打ち立てたロゴセラピーの理論の中心テーマである「人生の意味を見出している人間は苦しみにも耐えられる」ということを実体験し、正当性を証明しました。

この事例は極端な事例であるかもしれません。まさに、極限状態の中における体験ですから。

 

 

先の化粧品販売の優績オーナーの彼女たちも、できるなら後輩には苦労をさせずに成功してもらいたいと言います。とはいえ、一度は「私の数字を上げる」という行動を誰しも選択しているのです。

この成長プロセスはとても大事だと思います。つまり、ある時期、何かに徹底的に打ち込み自分自身を追い込む経験することが必要ではないかということです。

組織開発(OD)に取り組もうというリーダーであるなら、変わるべきは従業員ではなく自分自身であることに、まず気づきを得ることが大切です。そしてリーダー自らが率先して従来とは異なる行動を実践することがとても大切です。

何故かというと、今の組織をつくっているのは他ならぬリーダー自身であるからです。そのようにして、リーダー自らがこれまでのナラティブ(過去への依存)から脱却する努力をしてこそ、変化が訪れるのではないでしょうか。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です