• 変革における情緒的側面の重要性~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【97】~

変革における情緒的側面の重要性~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【97】~

大阪維新の会の一丁目一番地である大阪都構想が、前回に引き続き1万7千票余りの差で否決されました。11月1日の住民投票までのプロセスを見て、賛成派が優勢だったのが最後の最後に否決されたのは、大阪都構想が必ずしも論理的に現状より劣っていたからであるとは言えないようです。そこには大阪住民の情緒的反応があったように思えてなりません。

例えば、

①2025年に大阪市がなくなります。(反対派は、それでいいのかと、まさに情緒に訴える。維新でも出口調査で12%が反対で、前回より反対が増加)

②公明党、選挙のために党として賛成に回ってどうする。(情けないと、情緒的に反応。公明党支持者の賛成は出口調査で48%程度)

③4分割で218億円のコスト増(なんでと批判的に考えず、え~~大変や、と感情的に受け止める。実はこの試算は間違いだと大阪市が発表を撤回)

 

これ、どれも情緒的・感情的に「イヤ!」ということではないでしょうか。これは、組織開発を実践する私たちも肝に銘じておかなくてはいけないことだと思います。以前のODメディアでも触れましたが、もう一度脳の構造について見てみましょう。

 

脳科学の研究により、私たちはネガティブな感情を持つことができるから、太古の昔から今日まで生き抜き繁栄しているということが分かっています。怒り・恐れ・悲しみ・喜びなどの基本的な情動(emotion)は、進化のプロセスの中で自然選択によって生得的にプログラミングされたものであり、ヒトの生存戦略のメカニズムとして重要な働きをしています。

 

例えば、危険なものからすぐさま逃げるとか。この情動刺激を検出して情動反応を誘導するのが大脳辺縁系にある扁桃体です。情動の制御は通常はあまりうまくいきません。もともと脳の回路では情動をつかさどる部分の方が、合理的な部分よりも行動への影響が強いからです。

意に反する情動反応における自動的な生理的反応を抑止することは極めて難しいと言えますが、やや遅れて前頭皮質が抑制的に働いて状況を適切にコントロールすることは可能です。注意すべき点は、扁桃体は無意識のうちに情動的刺激を検出して処理するだけなく、無意識下でも「評価を伴う心的事象を記憶し、それを蓄積させている」ということです。

しかも無意識の記憶は非常に強力でそれを意識的に取り除くのは難しいとされます。特に強いストレスを受けているときは、ストレス下で放出されるホルモンや神経伝達物質が扁桃体の興奮をさらに高めるため、無意識の記憶は形成されやすく、意識的な記憶の処理にも影響を与えます。

とはいえ、扁桃体の神経細胞は、暴走しないように常に抑制的な制御をかけられています。そのブレーキの機能を担うのが、脳の司令塔といわれる腹外側前頭前野です。そして、偏桃体と前頭前野を結ぶのが前頭眼窩野(ゼントウガンカヤ)です。前頭眼窩野は短期的な利益を追求して利己的な行動に走る衝動を抑制すると生まれる快感情を活用し、人間同士の協力関係を維持させる、社会的な「心の営み」を担っていると考えられています。

 

通常脳は、脅威に直面すると前頭葉の血流が止まり感情抑制と理性的判断が失われ、戦う(fight)か逃避(flight)するかの判断に走ります。脅威に直面すると、思考が衰えて感情抑制できなくなるため、外界を現実以上に敵対的に理解して成果が落ちます。まとめて言えば、「不安や恐れという感情は理性の力よりも強く、私たちの行動に影響を与える」という事です。

深く感情を理解する事は、状況に応じて適切な対応を選び、避けるべき状況を理解できることを意味します。感情脳が機能欠損すると、危険が分からないなど、簡単な意思決定すらできない症例は数多く報告されています。ここに感情をマネジメントする重要な理由があるのです。

 

「2025年に大阪市がなくなります(悲しい、😢)」、これはどちらに投票しようかと迷っていた人には効きましたね、多分。

 

だから、組織開発という人々の考え方や行動の変容を求める変革の第一歩は、「人々の抵抗や不満にうまく対処すること」、また「人々の感情的側面を十分考慮すること」が求められているのです。リエンジニアリングのように技術的な問題への対処ではうまくいかないのです。

ポジティブ組織研究(POS)に待つまでもなく、私たちは生き残りの原動力として、外界の変化予想や働くための目的生成が脳に必要ですが、急激な組織変化はこの能力を脳から取り去り脅威状況に追い込むことになります。

変化が状態の今日の組織環境にあって、高いパフォーマンスを発揮するには、人の社会性の根底にある感情をうまく扱うことがますます求められるのです。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です