• 実践でのコンテントとプロセス:転換過程を管理する③~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【96】~

実践でのコンテントとプロセス:転換過程を管理する③~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【96】~

~逸脱を肯定する~

転換期では、従来の当たり前を具体的に見直していき、最終的には人々の思考と行動の変容につなげていくことが求められます。W.バークはそれを「リーダーシップと組織文化の変革」と言っているわけですが、いずれにせよ人々は異なる体験から新しい学習をし(learning)、古い思考と行動を棄却していく(unlearning)作業をしなくてはなりません。

 

ところが、これが中々に難しい。何故かといえば私たちは往々にして集団規範から逸脱することを嫌うからです。日本では集団主義という言葉で逸脱を嫌う文化を語ることが多いようですが、アメリカの研究でも「グループシンク」や「アベリーン・パラドックス」として集団同調/集団の中での自己検閲があり、集団規範からの個人の逸脱は難しいことが分かっています。では、個々人の集団規範からの逸脱は全く困難なことでしょうか。

 

ODメディアでも既に紹介したポジティブ組織開発の重要な価値観の一つに「ポジティブな逸脱」を容認するというものがあります。改めて、振り返ってみましょう。

 

キム・S・キャメロン、グレッチェン・M・スプリッツァーなどによるポジティブ組織研究(POS)によれば、ポジティブという意味は以下の4つの意味に収斂しています。

  1. Positiveというメガネをかけて組織活動を見ることで、課題や障害は「厄災や問題」ではなく「機会や強さ」を再確認し構築する経験になる。
  2. 非常に優れた成果や肯定的/プラスに逸脱したパフォーマンスはどのようにして生み出されたのかに焦点をあてる。
  3. 積極性や機知に富んだ行動が個人や集団・組織の持つリソースや能力をどのように広げ・構築し強化されるのかに焦点をあてる。
  4. 善良さあるいは徳という概念に焦点をあて、組織がより良い状態を目指すことを奨励する。

これを集約していえば、物事に対して「ポジティブというバイアス」を敢えてかけて観てみるということです。そうすることで、起こっていることや個々人の行動に従来とは異なる解釈ができるかもしれません。

ま、私が言うまでもなく組織や世の中を変えていく人には変人が多いですよ。人気小説でありTVドラマである「半沢直樹」、ありゃ普通から見れば波風立てる変人ですよ。S.ジョブスはApple経営者でなければ詐欺師かもしれません。ビル・ゲイツは、新入社員で入社したら(絶対に新入社員として入社しないと思いますが)生意気な跳ねっかえりで、先輩や上司からボコボコにされるかもしれません。でも、ポジティブなバイアスをかけて観ると違った人物像が見えてくるんですね。

 

転換期は、もちろん計画的に進めていく訳ですが、全てが計画的に進んでいく訳ではありません。予期せぬことが起きるんですよ。コロナ禍もそうかもしれません。2020年に飛躍しようと準備していた企業や個人は、全く予想外のCOVID-19の惨禍に見舞われ当初計画を余儀なくされたでしょう。にもかかわらず、新しい挑戦をしているところは個人の発想からそれを始めている筈です。つまり個人の逸脱ですね。そこが出発点です。全ての変革は従来とは異なる思考で行動を起こす個人から始まります。それを容認できるかです。

 

ところが、計画好きな人々、あるいは自分の考えを絶対正しいと思っている人たちはそれができない。異なる行動はジャマなだけなんですね。アクション・ラーニングで大切なのはアブダクション(起こった現象を最もうまく説明できる仮説を形成するための推論法。平たく言うと、「これって、ひょっとしたら〇〇じゃない?」と推論すること)なんですが、これができない。トップが強い権力志向の場合もアブダクションができない。みんなトップを忖度し「御意」と言ってしまいますから。アービン・ジャニス(イエール大学)は、これをグループシンク(集団愚考)と名付けました。

 

転換過程の管理は、逸脱を容認しない管理ではなく、逸脱を吟味しながら進んでいくことが求められます。サンリオピューロランドの小巻さんがやった、カメラオタクの拘り社員だった河原さんを発見し活躍の場を与えたように(河原さんは、サンリオピューロランドが赤字だったころ、キャラクター愛が半端ないカメラオタクと呼ばれ、周囲から浮いた邪魔なコストとしか見られていなかった:NHK総合「プロフェッショナル 仕事の流儀」より)。

 

逸脱のネガティブな側面だけではなくポジティブな側面を発見していく、そんな関わりができれば新しい挑戦の輪が広がっていくのではないでしょうか。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です