• 実践でのコンテントとプロセス:転換過程を管理する①~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【94】~

実践でのコンテントとプロセス:転換過程を管理する①~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【94】~

組織開発(OD)でビジョンなり希望する姿について関係者の合意ができると、現状から希望する姿へ変わっていく「転換過程(transition state)」が始まります。混乱が解消されずに物事が進んでいくこともある、もっとも苦労するフェーズが始まるということです。組織開発(OD)や組織変革(Organization Change)において、本当の介入はここから始まるのかもしれません。

 

転換過程を管理するということについては大きく2つの課題があります。一つは、転換過程で生じる様々な不具合を大袈裟にならない内に修正し、業務が滞りなく回るようにするという管理です。組織メンバーは新しいことをいきなりうまくやれるわけではありません。様々なシステムや人間関係が変わっていくとき、問題が噴出します。モノづくりの会社でよく使われる「変化点管理」と同じです。

例えば、仕事のやり方・材料・人などが変われば、それをよく理解しておかないと計画通りに物事が進まず、QCDSに問題が起こります。組織変革も同じです。このようなことは、ロナルド・A・ハイフェッツ が言うところの技術的問題への対処です。

 

もう一つの課題は、ビジョンを具体的に定着させるために組織文化、つまり人々の意識と行動を見直し転換させていくという作業です。日常のオペレーションというものは、単にシステムというよりはさまざまな暗黙のルールや規範の上に成り立っているものです。

組織行動の整合性モデルで有名なD.ナドラーは、「組織文化とはその組織独自の業務運営のやり方である」と定義としていますが、変わりつつある「転換状態」の組織では、以前の組織文化の上に新しい業務システムが乗っかるというようなことが起きてきます。いずれにしても、transformation(ビジネスモデルが変わる)というような変革の場合は組織文化の変革に手を付けざるを得ません。

適応を要する課題への対処です。このケースでは、以前にODメディアでも取り上げましたが、マイクロソフトCEOのサティア・ナデラがやったことを見てみましょう。

 

『2019年6月期のマイクロソフトの株価は140ドルを超え、時価総額は1兆ドルを超える。業績だけでなく「社会性」も身につけたと言われ、マイクロソフトを「悪の帝国」という人はいなくなった。なぜだろうか。この立役者が2014年にCEOに就任したサティア・ナデラである。彼は、P.ドラッカーの「文化は戦略に勝る」という言葉を信奉している。

「文化は戦略に勝る」を実践する裏付けとしてナデラCEOが使っている概念が「Fixed Mindset」から「Growth Mindset」への転換という概念だ。「Fixed Mindset」は、従来の考え方に縛られた行動のこと。「Growth Mindset」は逆に従来の考え方に縛られない行動。ナデラCEOの言葉をそのまま引用すると「社員一人ひとりが難題に立ち向かい、乗り越えようとすることで、個々人が伸び、その結果、会社も伸びる」というMindsetであり行動である。

ナデラCEO自身の事例でいうと、Growth Mindsetの実践は例えば次のような行動となる。ウインドウズ10の公開時、ナデラCEOはケニアの小さな村でセレモニーに臨んだ。これまでは重要商品の発表はすべて米国でやってきた。マイクロソフトのトップは、これまで日英独など主要市場には毎年1回訪問するという決め事(プロトコル)があったが、それをしなくなった。「必要な時に必要なところに行く」という行動に変えた。ナデラCEOは「フレネミー(friendとenemyを合わせた造語) 」という言葉が好きで、過去の競争相手とも手を組む。例えば、データベースでのオラクルとの相互接続も実現させた。(以上、日本経済新聞2019年8月5日 核心より引用)』

 

文字面だけ見れば、「なんか私たちもできそう」ということかもしれませんが、なかなかどうしてこれが難しい。それは、組織の人たちが従来依存していたものからの決別を意味するからです。いわば、これまでやってきたことに対する依存症からの脱却です。苦しむことが必要なんですよ。

~介入して分かること~

ついでにもう一つ、Action-Researchはクルト・レビンの介入に対する基本的スタンスとしてとても有名です。これは「no action without research , no research without action」を省略した言葉とされていますが、とても示唆に富んでいます。実は真の問題はリサーチだけでは分からない事が多いものです。組織という人々の集まりでは、むしろアクションという介入をして、別の言い方をすれば変化を起こそうとして初めて問題が分かるということの方が多いかもしれません。

つまり、何らかの介入というアクションを取れば、それに対するリアクションがあるからです。このリアクションで当初の診断では分からなかったことが分かってくることも多いのです。分かるという表現よりは、問題が姿を現すと言った方が良いかもしれません。皆さんも、問題を解決しようと思えば介入というアクションを起こしてみることです。きっと真の問題が姿を現しますよ。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です