• 未来を共有する~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【84】~

未来を共有する~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【84】~

組織開発(OD)の役割や介入技法は時代と共に変化してきていますが、いずれにせよ組織開発(OD)は現状に対して何らかの変化を生み出す働きかけです。以前は、みんながその時点で効果的と考えている何らかの「あるべき姿」を基準にして問題を定義し、問題を引き起こしている原因を取り除くというアプローチを何の疑いもなくやっていた時代もありました。しかし今はそのようなアプローチでは組織の効果性は保証できません。

なぜか、それはハイフェッツが言うところの「適応を要する課題」が圧倒的に増えたからです。withコロナの世界はまさにそのような世界です。ですから「未来を共有する」とは、「価値観」の見直しにならざるを得ません。ところがこれが、とんでもないことになっているのが現在の世界です。利己的な価値観と行動が横行しているのですよ。

利己的な価値観は、最近では「〇〇first」といって特定の集団から歓迎される向きもあります。深層心理まで理解できているわけではありませんが、トランプさんはそれまで自尊感情を損なっていたランクの人々に熱狂的に支持されるようなことをやっているんでしょうね。良いか悪いかは別にして、置いてきぼりにされていた周辺の人々の感情に訴えたんですね。

いずれにせよ現代は、そういったさまざまな価値観やランク観を持つ人たちと共に未来を構築していかなくてはならないのです。「Black Lives Matter」は、私たちがこれまで避けてきたようなことに対して心底考え直せと問いかけています。

 

組織開発(OD)の世界で未来を共有するための場づくりといえば「フューチャーサーチ(FS)」というミーティングプロセスがあります。マーヴィン・ワイスボード、サンドラ・ジャノフが共同でつくりあげたプログラムです。FSが最も重視していることが「利害の異なるステークホルダーが一堂に会する」ということです。

要するに既存の権威者や従来の世界の中心に居る人が、自分たちが気に入った人たちとだけで未来を話すというようなことではないのです。私も何度かこのセッションのファシリテーションをしました。価値観や思惑が異なる参加者が議論を収斂させていくプロセスは、そりゃダイナミックです。

また、未来を共有しその実現に向かってポジティブに組織を変革させていくというプロセスでは、AI(Appreciative Inquiry)が有名です。このアプローチは、日本で出版された文献のタイトルにはポジティブ・チェンジという名称がついているように、問題の除去ではなく、組織やコミュニティにある強みに目を向けそれを最大限使っていきましょうというアプローチです。

ところが今回のコロナ禍がもたらそうとしている変化は、そんな悠長なことではなく「私たちは、否応なく従来の価値観に挑戦し変化しなければならない」という環境に置かれてしまったんですね。

企業を見てみると、withコロナの世界では、ビジネスモデルそのものの耐性が問われています。例えば、大きな打撃を受けた航空業界は従来の3密状態での運行スタイルを大きく見直さなくてはなりません。国際航空運送協会(IATA)の試算では、航空会社が乗客の社会的距離を保つために座席数を3分の1減らして運航すれば、運賃は5割前後引き上げなくてはならないそうです。GEの航空機エンジン部門は1万人のレイオフを強いられています。

こういう課題にはFSやAIは役に立たないでしょう。航空会社や航空機メーカーは、ち密な計算をして、その結果としてのオペレーションシステムを考案し、それを顧客や従業員に提示するしかないでしょう。

 

今回のコロナ禍騒動で改めて分かったことは、私たちは抗えない環境に否応なく置かれてしまうと、今までそんなもの無理だとか言っていたものが「いや、意外とできるじゃん」となったり、今まで十分に価値を認められていなかった仕事が「やっぱりこれがないと世の中回らないよね」と改めて価値を再認識したりしたわけです。そうすると、未来を共有するプロセスって何? という大いなる疑問が湧いてきたのですよ。

泳ぎを覚えるさせるには、いきなり水に入れて溺れさせるのが一番、なんて話を昔はよく聞かされていたのですが、安全や安心という言葉が社会の中に入ってくるにつれて、「溺れさせるなんてとんでもない」という価値観が大勢を占めるようになったのでしょうか、いきなり溺れさせるというようなやり方を聞かなくなりました。というようなことをつらつら思いながらODメディアを書いていると、以下のような記事に出会いました。

「子供がプールで浮くのが怖いと言っていますが何か良い方法はないものでしょうか?」という問いに対して、「アメリカで、専業ではないですがアスレチックトレーニングを教えている者です。こちらでは、1歳になる前の子供をプール(もちろん足の届かない深さです)に投げ入れるといってもいいほどのやり方で水の中に入れます」というアンサーがありました。

このアンサーの後、「もちろん、もの心着いた子供にはそれはできない」と書いてありました。いろいろ自我が目覚めてきた子にはやっぱり無理みたいですね。先々、このままではだめだと分かっているのに変わらない大人の世界は、やっぱりただ溺れさせるだけではダメなのですね。どうしよう?

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です