• withコロナの人材開発~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【79】~

withコロナの人材開発~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【79】~

「日本企業は社員の能力開発にお金をかけていない」、日本経済新聞2020年6月18日一面の記事です。厚労省出所の「労働経済の分析」によると、GDP比に占める企業の能力開発費の割合は、1995年以来日本は年々下がっており2010年~2014年では0.1%。米国は2%を超える。フランスは1.8%程度、ドイツは1.2%程度、英国は近年低下しているがそれでも1%を超え、イタリアも1%を超えている。

米国以外は日本よりGDPが低いので額的には日本もそこそこお金を出していると言えるかもしませんが、米国とは額でも雲泥の差ですね。こりゃ勝てないはずです。

 

以前のODメディアでも書きましたが、特に日本は従業員の教育・育成にOJTを重視する傾向があります。最近でもそこそこの会社が「OJT強化」という名のもとに「OJTスキル」を強化しようとしているのですが、現場主義や現場力をはき違えていると言わざるを得ません。現場主義や現場力とは、従業員が最も力を発揮する職場環境を整えることであり、OJTを強化することではありません。

職場における人材育成力の低下原因には、例えば

①組織のスリム化やフラット化による職場の社会的関係の希薄化

②成果主義が浸透していく結果、出来る人への仕事の偏り

③IT化の進展による対面での情報共有の減少

があると言われていますが、今回のコロナ騒動でこの3つは今後も続く持続的環境要因になってしまいました。つまり今後は、職場における人材育成力の低下を前記のような3つの要因のせいにできなくなったわけです。

Job型への転換が期待される日本は、労働規制によってそれが阻まれているという面もありますが、遅かれ早かれJob型へ移行していくでしょう。そのような中で、上司のOJTスキルが低下したから人材が育たないなんてことは言ってられないわけですよ。

上司側も過去の経験や知識がそのまま役に立たないことは十分に承知しており、指導スキルが未熟だと言われても、指導する機会が圧倒的に減少してくる中で、現場で人がface to faceで仕事をしているような環境でない限り、従来型OJTは適応できないということになります。OJTは「1.計画的であること、2.重点的であること、3.効果的な経験の場をつくること」の3つが大切だと言われますが、テレワーク中心の仕事環境ではこれができないわけです。

 

じゃどうするかという事ですが、会社や組織は少なくともその仕事の専門知識と技術を提供することを、会社や組織の責任として実施していくことが求められます。これは専門性を重視した通年採用に変わっていっても同様に重要です。自己投資で資格やスキルを身につけてくださいというのは、企業としての競争能力向上に対する投資を怠っていることと同じであり、個人が自分の投資で身につけた資格やスキルを企業が自由に使うことは、それに見合う職務給を提示することがかなわない限り、今後は労働搾取と言われるかもしれません。

それぐらい雇用環境が変わってきているのじゃないかと思うわけです。問うべきは、「人が育っていない」ではなく、「わが社のマネジメント慣行と組織環境(制度・仕組みや・設備を含む)は、個々人が最高のパフォーマンスを発揮できるものであるだろうか」です。

 

ポジティブ心理学の研究から生まれたPERMA-Wというモデルがあります。これは私たちが健全に仕事をしていく上で大切な要素を明確にした尺度として、Well-Beingの具体的な取り組み項目として活用されています。

①Positive Emotions:ポジティブな感情

ストレスがあったとしてもそれとうまく付き合い、エネルギーに変える。

②Engagement or Flow:積極的な関わり

自分の活動や仕事に集中できている。

③Relationships:柔軟な相互関係

お互いを理解したコミュニケーションがなされ、チームメンバーの協働関係が成り立っている。

④Meaning:仕事の意義

仕事の意味や意義を共有し、目指す方向に向かって着実に進んでいる。

⑤Achievement:達成への活動

目標にコミットメントし、責任をもって活動の実践がなされている。

⑥Wellness:身体的な健康

 

Well-Beingというと、日本では福利厚生的な見られ方をしていますが、個々人が最高のパフォーマンスを発揮できる環境という視点で見ると、マネジメントにとってとても大切なモデルです。このような環境を創造していくことは、人材開発(personnel/career development)というよりは組織開発(OD)の主要な領域です。

これに対する答えを各社が個別事情に合わせて見つけることがwithコロナでの競争力向上を確実なものにしていくのではないかと思います。人材マネジメントの優劣がますます企業競争力の優劣に直結する時代になったと感じます。

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。