• SQリーダーシップ② ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-171~

SQリーダーシップ② ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-171~

今回のODメディアは、SQリーダーシップの主張の根底にある脳神経科学の研究から何が言えるのかを見ていきます。前回のODメディアで、ミラー・ニューロン、紡錘細胞、オシレーターについて触れましたが、焦点は「社会脳を活性化させる」です。まず、SQの高いリーダーと低いリーダーとでは業績に大きな差があるということに関する調査を見てみましょう。

全米で事業展開する大手銀行のリーダー層を対象にした調査(ヘイ・グループが実施)によると、自己認識や自己管理といったEQよりも、SQの方が毎年の業績との相関が高いことが判明しました。カナダのある州で医療制度の大改革が行われ、組織が抜本的に再編成されたある病院では、医療最前線でフラストレーションが高じて、患者に行き届いたサービスができなくなっていました。そのような中でも、上司のSQが高い看護師たちは、心の平穏を保ち、患者の世話に対して能力を発揮することができたのですが、SQが低い上司の下では、患者の医療ニーズに十分こたえられない割合が3倍以上に高まり、心がすさんだ割合は4倍になったそうです。少し、ストレスのメカニズムについて確認しておきましょう。脳はストレスを感じると、アドレナリンやコルチゾールなどのホルモンが分泌され、適度であれば思考力や他の精神機能を効果的に促進させます。しかし、要求水準があまりに高く、どうしてよいか分からない状態に置かれると、大量のコルチゾールが分泌され、しかもアドレナリンが追い打ちをかけるため、重要な能力がマヒしてしまいます。そうすると、仕事に集中するよりもプレッシャーに気を取られて、記憶力、計画性、創造性などがすっかり弱くなります。研究からは、このようなネガティブな状況ではミラー・ニューロンやオシレーターなど、対人関係を司る細胞の働きにより、周囲の人たちにも緊張が伝わっていきます。気づかない内にネガティブな感情がグループ全体に伝染し、成果にマイナスな影響を与えるのですね。

 

偉大な経営者たちは折に触れ「直観に頼っている」と口にすることが多いのですが、リーダーシップの専門家によれば、これは「パターン認識」の一種と見なすことができ、幅広い経験から培われるといいます。そして、偉大な経営者たちは「直観を信じることに加え、意思決定を下すときには、さまざまな意見や情報を参考にするように」とアドバイスします。しかし、神経科学の知見に従えば、このアプローチは慎重すぎるようです。

直観は、脳内の紡錘細胞によって生み出されます。この細胞は、非常に長い軸索を通して他の細胞に密着し、考えや感情を速やかに伝達します。多くの反応の中から最善のものを選ばなければならない状況に置かれると、紡錘細胞は活発に神経系に働きかけます。例えば、人材評価などでも、相手についての感情を1/20秒という高速で処理するようです。これが直観であり、このような瞬時の判断は極めて精度が高いようです。このため、リーダー達は、ストレスがなく、周囲との調和が保たれている限り、迷わず直観的な判断に従って行動すべきであるというのが、ゴールマンたちの主張です。

優れたリーダーの下で働く部下たちは、リーダーに「共鳴」します。このような感情は概ねミラー・ニューロンや紡錘細胞の働きにより無意識のうちに生まれますが、これに関わるもう一つの細胞にオシレーターと呼ばれる細胞があります。オシレーターは、他者の体の動きを見て、その通りに身体を動かすように指令を出す機能がある発信回路のようなもので、何人もの動きを調和させることができるようです。舞台での人々のさまざまな動きの調和は、オシレーターの貢献ですね。

社会性を司る神経が活発に働く様子は、ここかしこに見受けられるでしょう。楽しい場の雰囲気を思い出してみれば、それは明らかです。会社でも、豊かでポジティブな感情発信があるトップものとでは部下もポジティブで豊かな感情発信をするものです。サウスウエスト航空が「Fun」で有名なのは、元CEOのハーブ・ケレハーがFunな人だからです。ケレハーは、全社大会のパーティの席に女装して現れたことがありますが、その手の逸話には事欠かない人です。

ところが、残念なことに社会脳を活性化させる詳しいメカニズムはよく分かっていないのです((+_+))。しかも、SQを発揮しようとして力むと、かえってぎこちない振舞いになりかねません。社会脳をうまく発達させるには、行動パターンを変えようと一生懸命に努力することが求められます。やはり訓練が必要なのですね。次回ODメディアは、SQを高める方法です。(続く)

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。