• ポスト・コロナの組織を考える①~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【69】~

ポスト・コロナの組織を考える①~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【69】~

今回からポスト・コロナという視点でこれからの組織を考えてみたいと思います。

組織の状況論でいえば、環境混乱期では統制機能をトップに集中させる中央集権型組織が望ましいと言われます。事実、日本電産は現在、永守社長に権限を集中させ一気呵成にマネジメントの大変革を実施中のようです(日本経済新聞 2020年4月21日)。一方で、日本政府の中央集権型組織は、どうも十分機能しているとは見えません。このような情勢の中で、ODを実践する私たちは組織の未来を改めて考えてみる必要があると思うのです。

 

そこで、これからの組織を考える下敷きとして、ティール組織のフレームワークを拝借して話をスタートさせてみたいと思います。日本では、2018年に英治出版から「ティール組織:フレデリック・ラルー著」が出版されました。ティール組織は、組織の進化を「色」で表現しています。

これは単に組織のタイプというよりは、人々の意識の発達による「組織化方法」の違いと捉えられます。組織論としては5つの発達段階があります。簡単に見ておきましょう。(詳しくは「ティール組織」を参照してください)

 

・レッド(赤色)組織は、提唱者のラルーによれば、最古の組織モデルです。今を生きるために、人々は生きる力がもっとも高い個人に依存します。組織運営の特徴としては、特定の個人の力によって支配的に運営するスタイルとなり、下部組織はその特定個人に依存的になります。時間軸は「今」という短期的思考です。いわゆる、権力志向の組織です。

 

・アンバー(茶/琥珀色)組織は、意思決定や組織運営の基本は長期的展望による上意下達で、厳格な役割に基づく階層別組織構造が特徴です。ラルーによれば、大半の政府機関や公立学校、宗教団体、軍隊がこのアンバー組織に該当するといっています。いわゆる、役割志向の組織です。

 

・オレンジ(橙色)組織は、社会的な成功を最終目標に掲げた、いわゆる課題達成型の組織です。失敗やリスクを恐れずに挑戦し続けるからこそ、消費者やユーザーに感動や衝撃を与えるイノベーションを生み出すことができる組織です。いわゆる、課題志向の組織です。

 

・グリーン(緑色)組織は、オレンジ組織のような実力主義に基づくピラミッド型の階層構造に、多様性の重視や利害関係者のマネジメントなどの概念を加えたものです。意思決定はボトムアップを重視します。いわゆる、人間志向の組織です。

 

・ティール(鶯色)組織は、組織は一つの生命体であり、組織メンバーは社長や平社員も、生命体である「組織の目的」を実現し続けるために、共鳴しながら関わっていると捉えています。そのため、社長や管理職からの指示命令系統はなく、組織の進化する目的を実現するために、メンバー全員が信頼に基づき、独自のルールや仕組みを工夫しながら、目的実現のために組織運営を行うというスタイルを取ります。私は、このタイプを自律共創型組織と捉えています。

 

提唱者のラルーは、ティールに近いほど人々の意識が高度に発達しているという捉え方です。ですから、組織構造をティール型にしたいけどどうしたらいいかな、というような組織設計の問題ではなく、人々の意識の発達・成長と合わせて考えていくべき組織概念です。

とはいえ日本電産のマネジメント革新のように、急激な変革期にはレッドやオレンジ的なトップダウン型リーダーシップは、急激な変化対応時には必要であるという論も確かにあります。このような強力なリーダーシップへの期待は、別の見方をすれば私たちの意識が発達していないことの証かもしれません。

強力なリーダーが組織を引っ張ってきて後継者が育たないとリーダー自身が嘆く姿が多くの組織で見られますが、ティール的に言えばその組織の構成員の意識が発達しなかったという事になるのでしょうね。統合(集権)と分化(分権)は、昔から難しいテーマです。

 

ところで、私がここでいうまでもなく、世界はグローバル化による負の側面に対して「反対」と唱える人たちが多くなり、政治屋はそれを利用し、先進国でも「自国ファースト」の政策が大手を振ってまかり通るようになりました。一党独裁国家だけでなく、自由民主主義を標榜してきた国家でさえ「自分さえよければ(これを仏教用語では我利と言います)」というような意識を前面に出している始末です。

このような考え方は、人の自然な発達/成熟とは異なる思考と行動です。私はティール礼賛でもなく、さまざまな事業特性や組織の成長段階に応じた組織運営の仕方があると考えますが、少なくとも組織を構造論の視点で理解していては、これからの組織づくりの方向性を間違ってしまうと思うんですね。

組織という概念の理解の仕方はいろいろあると思いますが、「組織は人々の集まり」という事は間違いがない概念ですので、組織論はそれを構成する人々の意識や成長を抜きにして語れません。社会心理学や成人発達理論は個別にいろいろな研究がなされてきていますので、そのような研究成果を基にポスト・コロナの組織を「推論」をしてみることは意味があることだと思います。皆さんも一緒に考えて頂けると有難いです。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です