• チェンジ・エージェントの必要性~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㊼~

チェンジ・エージェントの必要性~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㊼~

~チェンジ・エージェントの役割

組織開発の中に「チェンジ・エージェント」と呼ばれる人たちがいます。もともとは、対象組織の外部にいる人たちのことで、その役割は変化が必要な組織にいる当事者である人たちを様々な方法で支援することです。現在は、対象組織の内部や外部に関わらず、その組織の変革をリードしたり支援したりする人たちのことを「チェンジ・エージェント」と呼ぶことが普通になっているようです。

しかし、本来チェンジ・エージェントは「変革の発案者あるいは発起人」ではありません。変革の発案者あるいは発起人は別に存在します。それは組織の長である場合もあるし、ラインの管理者や人事などのスタッフである場合もあります。しかし、このような人たちは必ずしも「変革の方法」に長けているわけではありません。だからこそチェンジ・エージェントの存在価値があるのです。

 

そこで、トップマネジメントやライン管理者を支援するチェンジ・エージェントの仕事を概略すると以下のようなことになります。

・発起人との打ち合わせ。その人たちの問題意識とどうしていきたいのか話を聴く。例えば、なぜ変革が必要か。何が実現できればよいのか、希望する姿はどのようなものなのかといったことです。

次に、その問題であることに関わっている人たちはどのように感じているのか、現地の意見や認識を聴く。要するに問題状況の把握をするわけです。

その上で、問題解決のための方法を計画する。つまり5W2Hをどうするか発起人と話し合う。

支援を実施する核となるメンバーを選抜し、彼らと問題認識を共有する。

支援の実行部隊となるチェンジ・エージェントで計画を具体化する。例えば、どこから始めるか、いつ始めるか、どのような方法で支援するか。

現場に対する具体的な支援。例えば、対象となる現場の長としっかり関係をつくる。具体的な働きかけを実施する。

変化の進捗をモニタリングし、トップマネジメントや利害関係者に報告する。

などなど、いや大変ですよ。これをやる能力をどうやって身につけるのか?

~チェンジ・エージェントに必要な能力

チェンジ・エージェントには、どのような能力が必要になってくるか、まずはそこから見ていきましょう。これについては、組織開発研究者たちがいろいろと研究してきた歴史がありますが、整理してみると以下のような能力になります。

 

①人々と関係性を築く:他の人たちと強い信頼関係を築き、維持する能力

・困っている人たちを支援し何らかの変化を起こしていくには、その当事者とコミュニケーションを取り相互に理解を深めることがとても大切になります。教えるというスタンスは初めのうちはいいでしょうが、こればかりだと当事者の主体性が発揮されません。

②チームの状況を診断する:観察力、傾聴力

・組織開発(OD)は、集団や組織に起こっていることの問題解決です。その問題は、人と人との関係の中で起こっています。そのような関係性の中で起こっていること(これをプロセスといいます)を的確に診断することができなければ効果的な介入はできません。

・状況を診断するもっともよい方法は「当事者自らが参画した問題定義」の場に参加し、共に問題を明確にしていくことです。

③政治的力関係を診断できる:影響力や実力の在り処を見定め、それを活用できる能力

・組織は多かれ少なかれ、個人や集団が持っている「力」がぶつかり合う人間の集まりです。例えば、その力は公式な立場として付与されているものもあれば、歴史の中で個人や集団が獲得してきたものもあります。通常組織の中では、例えば「あいつがウンと言わないと動かないな」とか「うちの組織は〇〇さんで動いているからな」というのが「力」、つまり政治的な力です。この力の所在を把握し、どのように活用できるかは組織開発(OD)にとって極めて重要です。

④改善のプログラム(実行計画、具体的な行動計画)をつくれる

・組織状況により組織開発(OD)の進め方や具体的な介入ツールは変わってきます。つまり、組織開発(OD)はすべてオーダーメイドです。その計画を立案し、責任者と協働の関係をつくり、実施プログラムについて合意を形成する必要があります。もちろん予算も獲得しなければなりません。

⑤自分自身への気づきを深める:自分の思考、感情、行動、生理的反応に注意を払う能力

・具体的な支援や介入の実施となると、それは生身の人間に対する働きかけとなります。その中では「感情的なぶつかり合い」が発生します。そのような時に、チェンジ・エージェント自身が「我を忘れる」というようなことになれば、問題は混迷の色を深めます。

・また、私たちは「起こっていることを、自分が見たいように見る」傾向があります。このような「自己解釈のクセ」をよくよく自己理解し問題に対処できる力を身につける必要があります。

⑥自分をコントロールできる

・自分をコントロールするとは、望ましい状況を得られるように自分の思考、感情、行動、生理的状態をコントロールする能力のことです。この前提として自己への気づきがあります。

・加えて、自分自身を肯定する力が求められます。これは自己肯定感とかEQと言われる能力です。

⑦現実的な楽観性を持つ

・なんでもかんでも一度に問題解決できるものではありません。我々がコントロールできるものに焦点を合わせ、目的を持った行動を起こせることが大切です。

・あわせて、組織や集団のポジティブな面に気づき、それを活用するようにします

⑧精神的柔軟性を持つ:適応力、大局的見方

・変革はストレスが掛かる仕事です。状況を多面的に見て、創造的かつ柔軟に考えられる能力はぜひとも必要です。このような能力をレジリエンスといいます。

 

8つの能力を見てみると、書いていて、こりゃ大変だと私も思います。また、このような能力を開発していこうとすれば「文献からの知的学習」だけでは難しいという事がお分かりいただけると思います。

ところが、チェンジ・エージェントを育てている企業や組織はほとんど存在しません。そりゃ、平時ではあまり必要ない存在ですからね。それに、日本では専門職ではないチェンジ・エージェントは人事の担当者が担う事が多いのですが、異動などで別の仕事に就き役割を全うできない場合がほとんどです。

企業内教育という視点で組織開発(OD)を眺めてみると、そもそもライン部門の管理者は組織開発(OD)や変化のマネジメントといった教育を受けていません。管理者研修は、論理思考・財務・戦略・マーケティング・PDCAマネジメント・コミュニケーション・リーダーシップ・OJTなどが主であり、組織論はほとんど入りません。

つまり、組織開発(OD)や組織変革(OC)といった「変化のマネジメント」あるいは「変化をマネジメントする」といったことは、ある時突然に課題として降りかかってくるのです。ここにチェンジ・エージェントの出番があるのです。

チェンジ・エージェントの育成または活用は、経営の中でもっと真剣に考えていいと思うのです。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。